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前世破滅の魔女でも恋くらいは  作者: 海野もずく
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魔女の処刑

「何か言い残すことはありますか」

男の金糸のような髪がさらさらと風に揺れる。その間から覗く夕陽よりも赤く爛々とした瞳は、私を静かに見下ろしている。男、もとい、イザーク・ライトは美しい青年であった。そう、私――カリナ・グレイに、綺麗だな、という、処刑台に立たされた身としては場違いな感想を抱かせるくらいには。

民衆は、神妙な面持ちで処刑台を見上げている。

戦争の立役者も、平和になった帝国では、危険因子に過ぎないわよね、とカリナは胸の内で自嘲した。


「…言い残すことは、ありません」

掠れた声が出る。

そう、何も無い。カリナ自身には、伝えたいことも、最後に何か伝えたいと縋る人も、恨み言をぶつける相手さえいない。

だって、義父がカリナの魔法にしか興味を示さなかったことも、親切だった義兄に遠ざけられるようになったことも、そして今、戦争の災禍を振り撒いた魔女として処刑されることも、全ての責任の所在は私にあるのだから。


「……そう、ですか」

応えながら、イザークは、何か言いたげに瞳を揺らす。その瞳の中に映る、漆黒の髪のみすぼらしい女の姿は、陰惨な魔女の最期には妥当に思えた。


ごほん、とわざとらしい大きな咳払いをし、皇帝が口を開く。

「では、イザーク公子。よろしく頼む」

私を戦争の立役者として祭り上げ、そして処刑を決めた男でもある皇帝は、こちらには一瞥もくれることなく、イザークに言外に命じた。早急に、その魔女の首を切り落とせ、と。

イザークは、皇帝に返答はせず、無言で私の首筋に剣を添える。意図せず、視線が交わる。あぁ、何も言い残さないと言ったけれど、彼にこれだけは伝えておかなければ。

「申し訳ありません、イザーク様」

私の謝罪に、イザークは瞳を丸くする。そして、なぜ貴女が謝るんです、と、彼の口から零れるように声が落とされた。

「貴方に、人を殺めさせてしまいます」

イザークが私の処刑人として選ばれたのは、彼が稀代の天才と称されるほどの魔法使いだというところが大きいだろう。万が一、私が暴れたとしても、制することができるようにとの人選だと推察できる。戦争の救世主として負傷者を支えた彼の手を私の血で汚すことは、私としても心苦しいことだった。

それにしても、イザーク・ライトとカリナ・グレイ。家門は違えど、同じ公爵家に生まれ落ちたというのにこうも正反対であろうか。片やまばゆいほどに光り輝く金の髪、片や闇を内包したような漆黒の髪。救世主と魔女。再生と腐敗。そして今は、処刑人と罪人。考えれば考えるほど正反対で、そもそも同列に語ろうとしたことが間違いだったのだと気付かされる。


「謝らないでください。僕のことは、どうだっていいんです。貴女は、もっと…、もっと、自分のことを望んだっていいのに」

イザークは、私にだけ聞こえるほどの小さな声で、懇願するうに呟いた。

自分のこと、と言われ、逡巡する。

あぁ、そういえば、夢想したことがあった。ありもしないことだと、自身にそんな資格はないのだから、考えるほど惨めになるだけだと、いつも頭に浮かんでは否定していた望みだったけれど、最期を口に出すことぐらい、許されるだろうか。


「…恋が、してみたかったんです」

思ってもいない返答だったのだろうか、それとも取るに足らないことだと呆れたのだろうか、イザークは、へ、と驚いた様子で固まっている。

「私にそんなことを願う資格がないことは分かっているんです。私みたいな陰鬱な女を好んでくれるような男性がいないことも…。でも、つい、考えてしまうんです」

もし、他の令嬢と同じようにパーティに参加していたら。

もし、もう少しだけでも私が綺麗だったら。

もし、こんな()()()()でなければ───。

誰かと手を取って、踊り、笑い合うなんてことが、私にもできたのではと。叶わない願いは、これまで幾度も私の頭をよぎった。そして、その度にそれが決して叶わない現実を思い知らせていった。


「誰か別人に…それこそ、貴方の妹さんのような、可愛らしい方に生まれ変わりもしないかぎり、絵空事なのでしょうけど───」

「いいえ」

私の言葉を遮って、イザークは続ける。

「絵空事ではありません。貴女は、パーティだけじゃない、好きなことやりたいこと全部やっていいんです。それに、言わせてもらいますが、貴女は綺麗だし、汚れてもいない。もっといえば─」

「えっ…」

「別人になんて、絶対にならないで下さい。どうか、このままの…美しい貴女のままで」

イザークは私の髪をすくい、そっと唇を落とした。まるで、本当に綺麗なものでも慈しむかのように、優しく。

これは、死にゆく私への手向けだろうか。死に際に、のぼせ上がった夢を語る哀れな女への憐憫からくる行動なのだろうか。


「公女様」

「……はい」

「もし、公女様の言うように、恋に資格が必要なのだとしたら、公女様と恋をする資格を僕に下さいませんか」

「……はい」

惚けて、ただ頷くことしかできない私に、彼はうっそりと微笑み、忘れないでくださいね、と耳打ちした。忘れないもなにも、私はいまから貴方に首を跳ねられるのだけれど──。

混乱する中、眠るように、段々と意識は遠のいていき、途切れた。

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