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ギンはウッドに簡単に説明をし、長々と文字が書かれた紙を託した。
ウッドは一瞬ギョッとした表情を浮かべたが、文字を読みながら頷き、ギンに深々と頭を下げた。
一度店内に戻り、持ってきた冊子をギンへと渡す。
ギンはそれを軽く流し読み、冊子を閉じた。様子を伺っていたウッドを見て頷くと、ウッドは会釈をした後店内へ入って行った。
談笑をしていたユイとユウキ。
仕事中だからとユウキは軽い話で終わらせ、ユイに笑顔で手を振った。ユイも振り返しながら「時間ある時に遊びにきてね!」とニコニコと笑った。
その様子を確認したギンはユイへ歩み寄り口を開く。
「あんた、友達いたのか……」
「友達と言って良いのかな。あの人は能力持ちだけど、お母さんのおかげで偏見はないんだよ」
ギンは一言「へえ」と溢した後、さきほどウッドから受け取った冊子をユイに渡す。
「……え? 明日作り始めて、すぐ完成?」
「そう。ウッドの能力らしい」
ウッドの能力は瞬間建築。かなりの体力を使うこともあり、基本的に使わず温存をしているらしい。急を要する時のみのため、あまり使用する姿は見たことがないのだとか。
「こんなにしてもらって良いのかな」
「相手が良いって言ってんだから良いんだろ。遠慮なく利用しろよ」
「ギンは堂々としてるね。私も見習お」
「は? おすすめはしないけど……。ああ、あんたが昨日書いた紙、ウッドに渡したから依頼完了ってことで」
「私が話してる間に全部終わらせてくれたの?」
「そういうこと。で、帰るか?」
「んー……。あ、ギンの服買いに行こうよ。それしかないのは流石に、ね」
「まぁ……そうだな。仕事始めたら返すよ」
「いいよいいよ。ギンのおかげでタダで建ててもらえるんだし。お金はかなり浮いたんだから」
「少ないけど感謝代〜」と笑いながら歩き始めるユイ。「確かに少ねぇな」と微笑した後、ギンもユイの後に続いた。
◇
自分の好みである服を数着。ユイに勧められて買った服が数着。フルコーデのため嵩張る紙袋。
「満足感がすごい」
「人のモンで満足感得るなよ」
さすがにギンだけでは持ちきれず、少なくはあるが一部ユイが持っている。それをユイは嬉しそうに眺めている。
「実はお母さんとしか買い物行ったことないんだよ」
「今日のヤツとは行かないのか?」
「ユウキさん? ユウキさんは忙しいからね。だから、今日は付き合ってくれてありがとう」
まるで自分が買い物に付き合ってもらったかのように感謝を述べるユイ。ギンはここは自分がお礼を言うところでは? と思いながら「ああ」とだけ口にする。
ユイは笑顔を絶やさず、まっすぐに帰路に着く。
足取りの軽いユイの後ろ姿を眺めながら、マキがこの荷物の量を見たら驚くだろうなと思いつつ、ギンはずっしりと重い荷物を持ち直す。
「ユイ」
「ん?」
「これ、あんたに渡しとく」
上着のポケットに入れていた物をユイに手渡す。
それはユイが買い物の最中に眺めていたブレスレットだった。
「私が見てたやつだ! わざわざ買ってくれたの? ……というかお金持ってたの?」
「汚ねぇ俺に誰も食べ物も飲み物も売ってくれなかっただけで、無銭なわけじゃなかったんだよ」
「そうだったんだ……。それ、そこそこ良い値段しなかった?」
「これから稼ぐんだし、手持ちがなくなっても問題ないだろ」
サラリと言ってのけるギンに、ユイは嬉しい気持ちと少し恥ずかしい気持ちが湧き上がる。
「肌身離さず着けとくね!」
「重い重い。適当に扱っとけ」
目を輝かせるユイとは裏腹に、ギンはジト目でユイから視線を外す。
「帰ったら引っ越し準備しないとだね」
「ああ、そうだな。そういや、まとめておけばウッドが全部持っていってくれるらしいぞ」
「え! そんなことまでしてくれるの? 至れり尽くせりだねぇ」
楽しみだと何度も口にするユイを見て、微笑ましく思いながら、たわいない話を聞きながらギンはあくびを噛み殺した。