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模倣屋さん  作者: 勿夏七
1章
6/38

6

 帰宅後、ギンはユイに簡単に説明をした。

 困っていた建築家を助けたため、家をタダで建ててもらえることになった。明日その男の店に行ってどのような家にするか話をしてほしい……と。


 ユイは願ってもないことだったため、大喜びで「早くまとめよう!」と見取り図の作成を急いだ。

 ギンはその様子を微笑ましく思いながら、ユイと一緒に外装と内装、どちらも丁寧に作り上げるのだった。



 ――朝、ギンはユイに揺り起こされた。楽しみだったのだろう。昼からの約束のはずが、朝七時に起こされた。

 ギンは休みの日は昼近くまで寝るタイプのため、体が重い。

 一度あしらったが、ユイがしつこく起こしにくるため、「まだ早いだろ」と言いながら渋々と布団から出て、綺麗にした一張羅に着替えた。


 朝食を三人で一緒に食べ、マキは仕事へ、ユイとギンは昨日仕上げた見取り図の微調整をして時間を潰した。


「ギンの好きな食べ物は?」

「特には。基本なんでも食える。俺の好物は気にするなよ」

「でも、どうせなら好きなもの食べて欲しいよ」

「……。米。あと肉」

「お米もお肉もいいね〜。私も好きだし、夕食はお米を使った料理中心の予定だよ。良かったね」


 何故か得意げな表情を見せるユイに、ギンは呆れ顔を見せた。


「作る気満々かよ。俺も料理はできるし、当番制な」

「そう言ってくれると助かるよー! 家のことが済んだら家事分担とかもやろうね」


 新しい生活が楽しみなのだろう。ユイはあれもこれも決めないとな〜。と何も書いていない紙に「決めることリスト」と書き、その下に必要なことから不要そうなものまでズラリと書き出し始めた。


 ギンは自分がやることはないだろうと椅子にもたれて、目を瞑った。



 ◇

 


 ウッドに指定された場所は繁華街。表通りの目立つ場所に目的の店があった。

 そこそこ大きめの店を構えており、頻繁に人が出入りしている様子から、繁盛しているのが見て取れる。


「ウッド、来たぞ」

「ギ、ギン様! いらっしゃいませ! 本当はお迎えに行きたかったのですが……」


 ぽてぽてという足音が似合いそうな足取りに、ギンは苦笑しつつ口を開く。


「気にすんな。……で、昨日言ってた家の件なんだが、店舗兼住宅が欲しいんだ。あと、俺とコイツが住めるようにしたい」

 

 ユイを指差しながら言うと、ウッドは目を見開いた。


「も、もしかして恋人!?」

「違う」


 では何故一緒に住むのか……? という表情を一瞬見せたが、すぐ営業スマイルに切り替えてユイを見た。

 

「貴女は……模倣持ちのユイ様ではないですか?」

「えぇ、顔割れてるの私……」

「申し上げにくいのですが……模倣など、他の能力者が害と決めた能力持ちは事前に街中に知らされるのです」


 ウッドは本当に申し訳なさそうに言う。だが、ユイは害や悪と言われ慣れてしまっているため、すんなり納得した。その隣でギンは眉を顰めていたが。


「すでに私のことを知っているみたいですが、改めて……私は模倣の能力を持っているユイと申します。よろしくお願いします」

「ご、ご丁寧にありがとうございます。僕は建築家のウッドです。こちらこそ、よろしくお願いいたします」


 双方深々と頭を下げている。その様子を黙って眺めていたギンは、頭を上げようとしない二人に問う。


「……いつまでそうしてるんだ? 早く話し合いしようや」

「そ、そうですね」


 ウッドに案内されて、個室へと移動する。ユイがいるから、と言うわけではなく、恩人であるギンへの配慮なのだろう。すでに部屋には女性が一人待っていた。

 座ると同時に女性が飲み物を持ってきて人数分を置き、お辞儀をした後、静かにウッドの側に立った。


「ちょ、ちょっと仕事に戻って……」

「そんなことおっしゃらないでください。恩人様のご尊顔を拝んでおかないと」


 そう言いながらユイとギン、交互に見る女性。その様子を見て少し困った顔をしたウッドだったが、一度咳払いをして口を開いた。


「ぼ、僕の妻、イツキです。イツキはユイ様とユイ様のお母様に過去救われたらしく……。まさかお二人それぞれに助けられていたとは思いもよりませんでした」

「イツキ、さん……? お母さんはわかるけど、私も?」


 首を傾げながら腕組みをするユイ。あ、と声を出し、イツキへと視線を向ける。


「そういえば、相談に乗ってた人からお礼もらった〜ていろいろと持って帰ってきた記憶があります。まさかそれがイツキさん?」

「そうです! まだユイさんは小さかったから覚えていないかもしれませんが、貴女とお母様に私は救われたんですよ」


 イツキは、マキと同じ職場で働いていたが、自分には合っていないと感じ上司に相談をした。しかし、上司はあまり真剣に取り合ってくれず、慣れれば大丈夫だと言われ一年働いた。だが、やはり違和感は拭われず顔を曇らせていた。その異変に気づいたのがマキだった。


 マキは嫌な顔一つせずイツキの話を聞き、イツキの上司や別部署の人間にまで声をかけ、部署異動の検討や作業の改善案を提出するなどして過ごしやすい環境を考案した。


 最終的に自分に合った職場を探すとして、退職を決意したのだが……。

 せっかく環境を変えてもらったりしたのに申し訳ないと、イツキは家までお礼と謝罪をしに足を運んだ。だが、マキはイツキのおかげで改善するべき箇所が見つかったのだと笑顔でお礼を言った。

 

 そして、ここまで来たのだからとマキはイツキを家にあげ、お茶を振る舞うことに。

 

 そこで初めてユイと出会う。

 その時のユイは模倣を誰にも知られておらず、ただの少女だった。

 マキがお茶の支度をしている間、イツキはユイに話しかけた。その時に話した内容は割愛するが、『母から聞いたイツキさんのすごい話』をユイは楽しそうに話した。

 イツキはその話でやっと自分が何が好きなのか、どんな仕事が向いているのか分析できた。


 だから、マキとユイどちらもイツキにとっては恩人なのだった。


 その話を聞いて、ユイはわずかに覚えている『母から聞いたイツキさんのすごい話』を思い出し、納得した。それと同時に、変な笑い顔になる。


 それは、自分の母親が素直に口に出せていなかった言葉を、代わりにイツキへ伝えただけにすぎなかったから。

 しかもそれは、マキの能力を借りてやったことであり、マキ自身は一度も口にしたことはなかったのだ。


「大袈裟ですよ! 私は聞いた話を伝えただけなので」

「マキさんから聞いていたことであっても、ですよ。的確に私の長所を覚え褒めてくださったのは貴女です。貴女のおかげで強みを見つけて就職して、素敵な旦那様に出会えたのですから」


 ウッドを見ながら微笑むイツキ。誰が見ても幸せそうだ。

 甘い雰囲気にギンが耐えきれず立ちあがろうとした瞬間、怒声が外から聞こえた。


 どうやらウッドに用があるようで、ウッドを出せと言う声が、その場にいた全員の耳に嫌でも入り込む。


「……す、すみません。少し出てきます」


 ウッドは震える声で部屋を後にした。

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