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模倣屋さん  作者: 勿夏七
1章
5/38

5

 そろそろ夕飯にしようとユイとマキは支度を始める。ユイは「帰ってくるかなー?」とあまり心配していない風にマキに問う。

 「帰ってくるって言ったんだから大丈夫でしょ」とマキは軽く笑いながら食材を切っていく。


「久々に三人分作るね」

「そうね。お父さんが帰ってきた時以来だから、半年ぶりくらいかしら」

「もうそんなに経つんだね。……お父さん今度はいつ帰ってくるんだろ」

「手紙ではそろそろ帰りたいとは言っていたし、あと数ヶ月したら帰ってくるかもしれないわ」


 食材を鍋に入れ火にかける。その間に、メインであるポークステーキの準備を進める。ポークステーキはユイの父の得意料理であり好物だ。それもあってか、ユイはなんだか父が帰ってきたような感覚を味わっていた。

 

「そう言えば、持たせてくれたクッキー美味しかったよ。ギンも美味いって言ってた」

「それならよかったわ。でも、好みくらい聞いておかないといけないわね」


 これからお世話になるんだから。と出来上がったスープの味見をしながらマキは言った。


 

 ◇



「へっくし」


 日が沈み、少し冷えた頃。ギンは一人でくしゃみを1つ。冷えによるものか、誰かの噂話か……特に解明するつもりはないが、なんとなく考えていた。


「あれが建築家の……」


 少し小太りの男を、影から観察して呟く。

 

 小太りの男は家に向かっているのだろう。迷わず先を進んでいく。

 だが、途中で複数の男に囲まれ、人通りの少ない道へ逸れて行く。

 立ち入り禁止テープを破り進む。小太りの男が顔を曇らせ体を震わせていることから、恐喝か何かだろうと推測する。


 奥に入って行ったのを見届けた後、ギンは糸をちぎり、右目を開けた。

 普通の人間であれば白目の部分は黒い。さらに瞳孔はヤギのように四角い。

 生まれつきこの目を持っていたため、ギンは村の人間に気持ち悪がられていた。赤子の頃、捨てられはしなかったが、親に距離を置かれてしまっていた。

 物心がつくまで最低限世話をしてもらえたことは、不幸中の幸いとも言えるだろう。

 

 過去を思い出し、深いため息を吐いたギンは、少しだけ目を覆った。


 ジクジクと痛む右目を無視して、奥に進む。

 一人の男に詰め寄られ、小太りの男は震えている。足音を立てながら歩いているギンに気づかない男達。

 自分たち以外が立ち入り禁止区域に入ることはないと過信しているのだろう。

 

 ギンは一番自分に近い男の横腹を思いっきり蹴る。

 仲間の苦痛の声でやっとこちらを振り返った男達。五、六人ほどいるようだ。


「テメェ、誰だよ。このデブの仲間かぁ?」


 小太りの男に一番近い男がギンを睨みつける。この中で一番偉いのか、他とは比べ物にならないくらい金色の物を身につけていた。……今後は金の男としよう。

 

「いや、知らん。でもまぁ、人助けってやつ?」


 蹴りを入れた男が起き上がり、殴りかかってきた。ギンはそれを軽く避け頭を鷲掴みにする。

 そして、男に右目を見せるように髪をかけ上げた。

 その瞬間、男は蹴られた時とは比べ物にならないほどの悲鳴をあげ気を失う。


「……おい、今お前コイツに何した?」

「企業秘密。体験希望ならこっちに来てもらえたらすぐにでも……おっと」


 金の男は、話を最後まで聞かず、一斉攻撃の合図を出す。ギンは驚く様子もなく、すべて軽くあしらいながら隙を見て、殴る蹴る。

 

 やりたい放題の様子を、小太りの男は顔を青くしながらも気を失わない。金の男は圧倒的強さに腰を抜かし、逃げることができない。


「……終わった終わった。あんたがリーダー? 何もしてないのに腰抜かして恥ずかしくない?」


 顔に付いた返り血を拭いながら、金の男を見下ろすギン。金の男は恐怖で話せないのか、ゾンビのようにあーだのうーだの言っている。


「まぁ、いっか。それじゃ……」


 金の男の頭を掴み、無理矢理右目に視線を合わせる。その瞬間、同様に悲鳴をあげて気を失った。


「……た、助けていただきありがとうございます!」


 金の男の隣で縮こまっていた小太りの男。すかさず立ち上がり、ギンに向かって深々と頭を下げた。

 

「……あんた、肝座ってんな。あんだけ大暴れしてた男に真っ先にお礼とか、普通言えんだろ」

「た、確かにそうかもしれないのですが……。ぼ、僕は助けてくれた人にはちゃんとお礼を言いたい」


 真っ直ぐに見つめられ、ギンはいたたまれない気持ちになる。化け物と言われたり逃げられたり。そんな経験しかしたことがなかったから。


「お、お礼をしたいのですが、あいにく今は持ち合わせがないんです。こ、これ、僕の名刺です。手紙などで連絡いただければすぐに行きます」


 小太りの男は、建築家で名前はウッド。名刺には他にも会社名や連絡先が載っている。

 

「あー、ありがとな。お礼は木材とかだとありがたい」

「も、木材? DIYが趣味とか?」

「いや、家を建てたいんだ。だが、金もそんなに持ってなくてな。材料あれば俺が建てられるかな、と」


 それを聞いた小太りの男……もといウッドは目を瞬かせた。


「あ、あの、もしよかったら僕が建てましょうか」

「え? いくらかかるんだ? さっきも言ったが、金そんなに持ってないからな」

「い、いえ。恩人様にお金は出させません! ぼ、僕が材料費もすべて請け負います」


 どもりつつも力強く話すウッドに、ギンはニヤリと笑う。

 

「言ったな?」

「は、はい! 男に二言はありません!」

「じゃ、明日あんたの店行くからよろしく」


 ギンに肩を軽く叩かれ、少しの痺れを感じながらもウッドは、お、お待ちしています! と嬉しそうにまた深々とお辞儀をした。

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