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模倣屋さん  作者: 勿夏七
1章
4/38

4

 子供の落書きのような絵図に、ギンは眉を顰めていた。

 ユイ曰く上手く描けたらしいが、定規も使わずヨレヨレの線。

 外装は、これは家か? これはちゃんと家を描いたのか? と思うほどによくわからない物体が描かれている。

 

 内装は、2階建のくせに2階にあがる階段が描かれていない。玄関も描かれていないため、どこから家の出入りをするのかわからない。また、風呂場やトイレ、キッチンなど水回りの配置もめちゃくちゃ。

 

 ……あまりにも欠陥が多すぎる。


「素人目でもヤバいのがわかる……」

「この子、絵は昔からダメなのよね」


 そうマキは苦笑しているが、絵も充分にアレだが、それ以前の問題だ。少しくらい絵図について学んでから書くべきだったんだ。

 かなり自信満々に見せてきたからどんな大作が出てくるかと思っていたため、かなり感想に困る。

 

「絵はダメなのか、そうか。……方角とか水回りとかそう言うのは作る側が考えることだし……仕方のないこと、だと思うけど」


 そこまで口にして、ギンは思い出す。ユイが建築家に断られたという話を。


「……まさか、これを建築家に見せたのか?」

「門前払いだからね。見てもくれないよ!」

「なら良い。見せない方が賢明だ」


 その言葉にユイは「一生懸命描いたのになぁ」と不服そうな顔をしつつも、自分の絵図を眺めながら黙り込んだ。

 思う存分眺め終わった後、ユイは絵図と一緒に持ってきていた写真をギンに見せる。


「じゃあ、写真見てよ。外装はこれとこれ、内装はこれとこれイメージ! パクリとか言われたくないから色々と混ぜたやつがいいなぁ」


 さっきより断然良い。ギンはそう思いながら写真を眺めた。しかし、写真だけだと分かりづらい部分もある。ギンはユイに言う。


「この建物がある場所、全部回れないか?」

 


 ◇

 


 徒歩でユイが撮った建物の場所まで行く。街中で全て撮ったようだが、人通りが多いし、模倣持ちのユイが写真を撮っていたとなると大騒ぎになっていそうだ。

 だが、そのような話はなく、マキも全然気にしていなかった。


「写真はどうやって撮ったんだ……て、なんだそのメガネ」

「このメガネで写真を撮るんだよ〜。便利だよね」


 いつのまにかユイはメガネをかけていた。色は黒でサイズは大きめ。男性用に作られているようなそれは、誰からか貰ったもののようだ。

 また、小さくて見えにくくなっているが、よく見るとメガネのブリッジに小型のカメラが仕込まれているのがわかる。


「……なるほど。だから誰にも文句を言われたりしていないわけか」

「さすがに無断で写真撮ってたら怒られちゃうからね。一回写真を撮らせて欲しいって家主に頼んだこともあったんだけど、嫌がられちゃって」


 強行突破です! と爽やかな笑顔と共に言うユイ。撮らないという選択肢はないのかとギンは思ったが、苦笑するだけに留めた。


「それ、自分で作ったのか?」

「違うよ。お父さんが置いてったやつ」

「ふぅん。父親はモノを作る仕事でもしてんのか?」

「仕事……にはしてないね。お父さんは冒険家だから」

「……冒険家、ね」


 冒険家に反応を示したギン。ユイは聞きたそうに視線を送ったが、ギンは話したくないのかそれ以上は口を開かなかった。


 ――ユイはギンに言われるがまま、建築の写真を撮り続けた。あまりにも建築物の周りをうろついていたので、時々不審な目を向けられたりもした。しかし、ギンが睨むと大概の者が怯えて去っていくため、特に何も言われることはなかった。


 ちなみに、さすがに内装を撮ることは難しかったので、自分の家をパクる方向でどうかというギンの提案で丸く収まった。

 

 結構な枚数になったところで、満足したギンから近くの公園で休もうとユイに声をかける。

 ユイは待ってましたと言わんばかりに公園へと小走りで向かう。


「お母さんからおやつ貰っててよかった〜」


 空いていたベンチに座り、そそくさとバスケットから取り出した塩バタークッキー。1枚1枚丁寧にラップで包んでおり、マキの性格が窺える。


「美味いな、これ」

「ギンが甘いの好きかわからなかったから、甘すぎるのは避けたって言ってたよ」

「へぇ。あんたの母親は気配り上手なんだな」


 ギンに母親を褒められ、ユイは嬉しそうに笑いながら頷いた。


 ユイの話に相槌を打ちながら、辺りを見渡していたギン。何かを見つけたのか、視線は一点に集中していた。

 黙って立ち上がったギンを見て、「ギン?」とユイが声をかけると、ギンはユイを見た。


「先に帰ってろ。俺はちょっと野暮用だ」


 帰ったら絵図の続きやるから。と歩き始める。


「夕飯には帰ってきてね〜」


 どこに行くのか疑問に思いながらも、ユイは手を振ってギンを見送った。

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