表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
模倣屋さん  作者: 勿夏七
1章
1/38

1

「土地が買えたのは良いけど、よさげな建築家が捕まらない……」


 母の名義で土地を買った。そこまではよかった。だが、母の力ばかり借りるのもな……と思い、自分の足で探したのが悪かった。

 潔いほどのぼったくり建築家しか契約してもらえそうもない。


 ユイにお金さえあれば、気にせずその金額を払い、店を建ててもらったかもしれない。

 ……まぁ、高い金を払っても良い店を建ててもらえるかは謎なものだが。


 しばらくは屋根なしで商売をするか? と考えつつユイは買ったばかりの土地に足を運んだ。


「……ん? んん??」


 ユイが買った土地のど真ん中で人が倒れている。

 ボロボロな服を纏っており、何日風呂に入っていないのかと思うほどの悪臭を漂わせている。


 近くを通りかかった人たちは見て見ぬふり。ユイが現れたことでヒソヒソ話が始まる。

 疑われているのは話の内容を聞かなくてもわかる。


「土地が安かった理由は死体アリだったというオチ!?」


 わざとらしく大きな声を出した後、口元をハンカチで覆い、倒れている人に駆け寄る。

 本当に死んでいたら、自分に濡れ衣を着せるために置いていったとしか思えない。


「……脈ある! お願いだからここで死なないでください〜!」

「み、水……」

「水!? 未開封のがあったはず……あった! はい、どうぞ!」


 自分用にと買った飲料水を手渡す。倒れていた人は受け取るや否や一気にそれを飲み干した。


「助かった……。ついでと言っちゃなんだが、食べ物ももらえないか?」

「え、サンドイッチなら……ありますけど」


 母と一緒に作ったサンドイッチ。

 自分の好きなものしか入れていないので、渡してしまうのは惜しいが……とユイは一瞬顔を歪めたが、仕方なくサンドイッチも差し出す。


 「ありがとう」と言った後、男はサンドイッチをガツガツと遠慮なく食べる。

 その様子を見ながら「気持ちよく食べるなぁ」「私はお昼何食べようかな」なんてユイは考えていた。


「……ごちそうさま。この恩は何処かで返すよ」


 深く被っていた帽子を脱ぎ、軽く会釈をした。

 見たところ二十代くらいの男。いつから切っていないのだろうか。顔は髪で覆われていて、ほとんど見えない。

 

 ユイが顔をまじまじと見ていたせいか、男は亜麻色の髪を掻き上げる。

 露わになったのは生気のない顔。右目は糸で縫われており、目が開けられない状態。

 少し不気味だ。


 ユイの驚いた顔を確認した男は、顔を覆うように髪を下ろした。


「迷惑かけたついでに、質問して良いか」

「なんですか?」

「ここらへんで放置されてる土地とかない?」

「え? ……山なら所有者いなかったと思いますけど」


 昔は誰かが買っていたと思うが、山を買っても管理が大変だとかで、いつのまにか買い手が決まらなくなっていた。

 

「それは好都合だ。そこなら家建ててもバレねぇだろ」

「家!? 家建てられるんですか?!」

「まぁ、簡単なもんなら……」

「ここに家建ててください!! 私と貴方が住める程度の家を……」

「……はぁ!? 俺と住むつもりかよ、あんた」

「貴方は立地の良いところに住めるし、私は家を手に入れられるしwin-winでは……?」


 ここでお店を開くんですよ。家と店一緒だと楽だと思いません? などなど目を輝かせて矢継ぎに言うユイ。

 ドン引きの男は、大きなため息を吐いた。


「……見知らぬ男に警戒心なさすぎだわ」

「無害そうなので言ってるんですよ! ……その前に臭いのでお風呂入って欲しいですね。母に相談してみます」


 あまりにもストレートにモノを言う女だなと男は苦笑した。しかし、不快だと思わないのは、ユイの眩しいくらい明るい笑顔のせいだろう。

 

「流石の俺も人様の風呂を汚すのは気が引けるんだが」

「じゃあ、山に湖があるのでそこに行きましょう」

「湖なら汚して良いのかよ」


 男は、正気か? みたいな顔をしているが、その汚れと臭いで平然としている男に対して、ユイも正気か? と思っている。

 

「貴方が汚れを落とした程度なら大丈夫だと思います。……うん。そうしよう。着替え持ってきますね」

「あっ、おい! ……ここで待ってろって?」


 こんな目立つところで……と思った男だが、正直ここで倒れていた時点で目立ちに目立っていた。

 ヒソヒソと声が聞こえていたし、もう今更か。と男は大きくため息を吐いた後、その場に座りユイを待つことにした。


「そう言えば名前聞いてないし言ってねぇや……」


 ま、いっか。男は帽子を深く被り直した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ