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ドザえもん  作者: 大金母知
3/50

3プリズンブレイク

見てくださり、ありがとうございます。

これから主人公の話が始まっていきます。

大英帝国。世界で一番の軍事力と経済力、発展した文明を誇る超大国。

では、その大国はどのようにしてそれほどまでの巨大な力をつけていったのか。答えは『魔法』である。大英帝国は世界で唯一魔法が深く根付いている国なのだ。

魔法。物理法則を捻じ曲げられて引き起こされる超常現象の総称だ。

大英帝国は世界で唯一魔法が発展している国であり、その進んだ魔法技術によって得られる莫大な恩恵によって他の追随を許さない超大国へと発展を遂げたのだった。

そんな超大国である大英帝国なのだが、他国からの印象はすこぶる悪い。理由は魔法技術の独占と徹底的なまでの魔法に関する情報の隠蔽、それと厳しすぎる入国制限。自国だけ魔法でおいしい思いをして、他国には一切恩恵を分け与えない。どころか、恩恵にあやかろうとしてくる国が出てくれば、餌をちらつかせて金だけむしり取るような、そんな外道な国なのだ。嫌われるに決まっている。

そんな大英帝国の徹底的な魔法を独占する体制により、魔法に関する深い情報は未だに外へ出回っていない。

大英帝国は世界で一番有名な国でありながら、世界で一番謎に包まれている国となっているのだった。

……さて。

そんな外部からの干渉を極度に嫌う国の領海に、侵入しようとする影が一つ。

水死体だ。水死体が一体、どんぶらこ、どんぶらこと流れてきたのだった。

「ガボッ……ガボボ……」

否、死体ではない。息はまだあった。しかし、それも時間の問題。

手足にはもがく力すら残っておらず、身体は波に揺られるままに。海面から顔が上がる拍子に酸素を取り込もうと口は動くが、

「がふっ……ごふっ……」

海水が肺を容赦なく蝕んでくる。

もう、海の猛威に逆らう力は残されていない。助かるはずのない命。

しかし、運命はこの者の死を許さない。やがて、大英帝国の英雄として語り継がれるこの者の死を……運命は決して許さないのであった。



「…………んぅ……?」

おぼろげな意識が覚醒していく。

「……ここ……は……?」

目の前に広がるは見慣れぬ石の天井。そこでようやく自分が見知らぬ部屋で仰向けに寝ていたことを理解する。

現状を把握しようと重い身体を起こしてみる。

まず感じたのは閉塞感だった。部屋の広さは一〇畳ほどで狭いわけではないのだが、とにかく暗い。部屋の隅の天井付近にある小さな通気口から入ってくるか細い日の光だけが唯一の明かりだ。

この場を一言で表すのなら、

「まるで牢屋……」

そう言いかけて、言葉を失う。

目に入ったのは鉄格子。『まるで』ではなく、牢屋そのものである。

それだけではない。ふと自分の身体に目を向けてみれば、手には手錠がはめられ、足には鉄球を鎖で繋がれていた。どうして、今の今まで気がつかなかったのか。自分の間抜けさに呆れそうになるが、そんな場合ではない。

(俺は……囚われているのか……? 何が……どうして……?)

未だ本調子でない朧気な頭を働かせ、やがて大事なことを思い出す。

「! そうだ! 海で溺れて……!」

助かるはずがないと死を覚悟したはずだった。

なぜ、自分は助かった……? なぜ自分は囚われている……?

情報が足りない。久々の地に足をつけ、鉄格子に近づき、外の様子を窺う。しかし、目の前に広がるは自分のいる牢と同じ部屋が並んでいるだけで、人の気配は無い。

「……まいったな……」

 腕を軽く広げて手錠の調子を確かめ、足枷の鎖を軽く引っ張り、次に鉄格子に手をやり、

(……なるほど……どうしたものか……)

ここが牢屋である以上、誰かが様子を確認しに来るはずだ。その時を待つしかない。現状、打てる手は無い。そう結論付け、再び寝転がろうとした時だった。

(……! 人の気配!)

確かに感じる。

「おーいっ! 誰か! 誰かいるのか!?」

鉄格子をガンガンと叩き、見えない空間に向かって叫んだ。

気配が近づいてくるのが分かる。

躊躇うような、面倒臭そうな、少しの重さを感じる足取り。鉄格子を隔てた薄暗い空間に現れたのは一人の男だった。

「なっ……!?」

男の風貌に言葉を失った。

見たことのない金色の髪。見たこともない青い瞳。顔の彫が深く、肌は透き通るように白く、身体がとても大きい。

話に聞いたことがある。このような特徴を持つ人種を。

「西洋人……か……!?」

「Seiyoh……?」

目の前の西洋人が不審そうに眉根を寄せる。そして、何やらこちらに問いかけるように言葉を投げかけてくる。が、

「ペラペラペラペーラ、ペラペラペーラ?」

「……? 何を言っているんだ?」

意味不明。理解不能。

「……! そうだ……聞いたことがある。異国では話す言葉が違うと」

「ペラペーラ! ペラリンチョ! ペラペラペーラ!」

西洋人はイライラしたように言葉を強く区切って言うが、そんなことをされても理解できないものは理解できない。

「……すまない。何を言っているのか分からない……」

「……フゥ……」

 西洋人は天井を仰いで面倒臭そうに溜息をつき、やがて、

「Wait」

待ってろというような動作をするとこの場を去っていった。

「………………」

しばしこの場に取り残される。

再び現れた西洋人は何やら小さな金属の輪を持っており、鉄格子の隙間から腕を通し、その輪を渡してくる。

「……?」

「ペーラ」

何やら指にはめるよう動作で伝えてくる。

言われるがままにその輪を指にはめると、

「俺の言葉が理解できるか?」

「なっ!?」

何ということでしょう。意味不明だった西洋人の言葉が理解できるではありませんか。

「どういうことだ……!? どうして日の本の言葉を?」

「違うぞ。口の動きをよく見てみろ。音と動きがズレているはずだ」

「……? 腹話術か……? あなたは腹話術で日の本の言葉を話すことができるのか?」

「違ぇえよ!? それだよそれ!」

西洋人は指輪を指して言う。

「その指輪はおまえの意識した言葉の意味を拾っておまえに伝えて、おまえの発した言葉を周囲に理解できる形に変換して発しているんだ」

「……? そんな馬鹿な話があってたまるか」

試しに指輪を外してみると、

「ペラペーラ!」

「ほう……?」

試しに連続でつけたり外したりしてみると、

「何ペーラんだ! てペラペラは! ふざペんじゃねぇペラ!」

「……! まさか……本当だというのか……!?」

指輪をはずした途端に言葉が異なって聞こえる。

「だからそう言ってんだろうが!」

「いや……だが、そんなことがありえるのか……? こんな小さな輪をはめただけで言葉が分かるようになるだなんて……」

「……ここは大英帝国。魔法の国だ。ありえないなんて言葉はここにありはしないぜ」

「大英帝国……? 魔法……?」

どちらも聞き覚えの無い言葉だった。気になる言葉ではあるが、今は気にしている場合ではなかった。

「それより、俺はどうして生きているんだ? 俺はどうして牢屋に入れられているんだ?」

「……一つ目の問いに対する答えだが、海上保安局の船が海に流れているおまえを見つけ、そして治療をした」

「……! そうだったのか……命を救っていただいたこと、深く感謝する……!」

「……その必要は無い。理由はいずれ分かる」

「……? それはどういう……?」

「次に、なぜおまえが牢屋に閉じ込められているかだが……」

そうだ。肝心な問題が残っていた。

西洋人から返ってきた答えは想像だにしていないものだった。

「現在、おまえには諜報員の疑いがかけられている」

「はぁ!?」

「何を心外そうにしている。当たり前だろう。おまえは不法入国者なんだぞ」

「不法入国……? 勝手に他所の国に入ってはいけないということか?」

「その通りだが…………」

西洋人は調子が狂うように頭をかいてみせる。

「………………」

それならば仕方が無い。自分の知らずの内であったとしても罪は罪。この国の償い方で償っていくしかない。郷に入っては郷に従え、だ。

「少し聞きづらいんだが……不法入国というのはそんなにいけないことなのか……?」

「あぁ。死刑だ」

「死刑!?」

前言撤回。この国の法になど従ってたまるか。

「だから言ったろ? 命を助けたことに感謝をする必要は無いって。助けたのは取り調べをするため。それが終わったら今度こそ死んでもらう」

「ちょっ……本当に死刑なのか!? 冗談だろう!?」

「他所の国はどうか知らんが、ここじゃ不法入国は重罪だ。何せ大英帝国だからな」

「大英帝国だか何だか知らんが、そんな酷い話があってたまるか! 俺は悪いことはしていないぞ!」

「おまえの倫理観ではそうだとしても、この国では十分悪いことなんだよ」

「くっ……! だが俺は諜報員などではない!」

「だが、おまえは魔法の存在を知ってしまった。知ってしまった以上、諜報員であろうがなかろうが無罪で国に帰すわけにはいかないんだよ」

「魔法……?」

 西洋人は指輪をちょいちょいと指して言う。

「これはおまえが知らせたことだろうが!?」

「しょうがないだろ。それが無かったら取り調べできないんだし」

「貴様ぁ……!」

「じゃあ俺は取り調べの準備をしてくるから。少し待っていろ。

西洋人の男はこちらのことなどお構いなしにこの場から去っていった。



「クソ……!」

恐らく取り調べで諜報員である疑いを晴らすことは困難。問答無用で処刑されるときた。 だとしたら、やることは一つ。

「脱獄しか無い……か」

先ほどの男は取り調べの準備に行ったっきり。やるのならば人目の無い今しかない。

「……ふっ!」

バキィ。

俺は力任せに手枷と足枷の鎖を引きちぎった。 そして、鉄格子に手をかけ、

「よっと」

グニャリと曲げる。飴細工のようにひしゃげた格子に身体を通し、牢から脱出する。

「さて……どこから脱出すればいいものか……」

廊下を突き当ると上へ続く階段があった。念のために反対側の突き当たりも見てみると、こちらは下りの階段があった。

なるほど……あえて片方だけに階段を作り、面倒な構造にすることにより脱獄を困難にさせる狙いがある……のかもしれない。 普通に考えるならば下が出口だが……ここが地下施設だった場合、下を目指すと出口から遠ざかってしまう恐れもある。 従って、

「上から行こう」

上ならば出口が無くとも屋上に出られるかもしれない。そうなれば脱出することも容易だろうし、外の地形もある程度把握することができる。 うん。やはり上からだ。

人の気配は……無いな。

先程の男が戻り、俺の脱獄に気づくまでの猶予が勝負。 目の前には上へと続く階段。急いで行くとしよう。

「しっ!」

俺は階段の全ての段を一足飛びで飛び越え、踊り場の壁に足をつけ、三角飛びで更に階段をすっ飛ばす。 一秒と経たずに上の階へ。案の定、上へと続く階段が途切れている。

恐らく、この階の廊下を渡った先に上への階段があるはずだ。

この階も俺のいた場所と同じ構造だが……いる。今度は人がいる。数は三人。場所は牢の中……恐らく俺と同じく容疑をかけられ閉じ込められている者達だ。 見つかって騒がれたら面倒だ。

「篝忍術、蛸足」

俺は掌と足を壁につけ、ゴキブリのように素早く天井まで這い登る。

これは本来、壁との接地面に真空を生み出し、蛸の吸盤の要領で壁に引っ付くだけの技だったのだが、俺はその技を昇華し、壁や天井を自在に這い回ることができる。もはわ蛸というよりヤモリやゴキブリの方が近い。

牢屋の者達からは廊下の天井が死角となっているため、気づかれることなく廊下(天井?)を渡りきることができた。

そして現れたのは上へ続く階段。

よし。

俺はこの調子で人の気をかいくぐり、上へ上へと進む。そして、とうとう最上階へとたどり着く。

最上階はただ大きな扉があるだけだった。 ……行ってみるしかないよな。

ノブに手をかけ、引いてみるが、どうやら鍵がかかっている。

ピーッ!ピーッ!

「……!」

警告のような甲高い笛の音。 どうやら俺の脱獄は気づかれたらしい。 ならば、もう遠慮する必要は無い。

求めるは純粋な破壊力。

「ふぅ……」

まずは脱力。そして身体の関節という関節の一つずつに溜めを作る。いざ!

「っ!」

全ての溜めを余すことなく推進力に換え、俺は扉に当て身をぶちかます。

ドッゴォオオン!

「「「「!?」」」」

……少しやりすぎたか。扉は開くだけでなく、勢いが余って砲弾のように吹き飛び、遥か彼方へ。

さすがに音が大きすぎたのか、下の人達を驚かせてしまったみたいだ。 だが、関係無い。 俺は扉の先に躍り出る。

「…………!」

そこは屋上だった。

そして、俺は状況を忘れて目の前に広がる光景に息を呑んだ。

有刺鉄線で囲まれたその先には広大な海が見渡せる。ここは海に囲まれた孤島のような場所らしい。

だが、俺が驚いたのはそこではない。海を跨いだ遥か先にぼんやりと見える光景。 見たことも無いような巨大な城があった。いつしか絵で見た日本の城とも違う……造りも異なれば大きさも異なる。まるで、西洋の神話に存在するかのような……そんな幻想的な城だった。

人は……あのように巨大で美しい建物を造ることができるのか……!

「いたぞぉおお!」

「……!」

……俺は阿呆か。景色に見惚れて敵の接近を許すなど間抜けもいいところだ。

「てめえ!どういうつもりだ!?」

俺の応対をしていた刑務官(?)が再び姿を現わすなり俺に怒鳴ってくる。 彼だけではない。同じ制服と武装をまとった者が他にも六人。 その内四人がこちらに拳銃の銃口を向けてきている。

「どういうつもりも何も……おまえが俺を殺すと言った。そして俺は黙って殺されるつもりは無い。それだけだ」

「貴様……やはり諜報員か!言え!どこの国の者だ!?」

「俺は諜報員じゃない。だが、その疑いを晴らす材料が無いのも事実。おまえの好きに受け取るがいい。どうせ、おまえとはここでさようならだ」

「っ!舐めやがって!撃てぇえ!」

「「「「!」」」」

一切の躊躇無く引かれる引き金。 四方向から放たれた弾丸は俺の足元に収束していく。 その収束点を俺はただ払いのけた。 遅れて響くは耳をつんざくような発砲音。

「「「「…………は?」」」」

「……そんなおもちゃで俺をどうにかできると思わないことだ」

連中は何が起こったのかを理解できず、石像のように固まって呆けている。

「この指輪、悪いが頂戴させてもらう。ではな」

俺は地を踏みしめ、そして全速力で有刺鉄線に向かって駆け抜ける。

俺に向けられている全ての『気』を置き去りに、俺は先程放たれた弾丸よりも速く駆け、そして跳ぶ。

「「「「!?」」」」

大気を突き破り、俺はグングングングン宙の中を突き抜けていく。 やがて、身体を包む心地良い浮遊感が重力の鎖から解き放たれたことを知らせてくれる。そして、

「……壮観だな」

目の前に広がるは牢屋でも有刺鉄線でもない……どこまでも自由な世界。 突き進む風の中から僅かに香るは磯の香り。 空から見下ろせば、太陽の光を浴びてキラキラと輝き、どこまでも広がる紺碧の水面があった。視線を戻せば先程の巨大な城が顔を覗かせている。

重ねて言うが、それを俺は空から眺めているのだ。 俺は今、世界が織り成す巨大な芸術の中にいるのかもしれない。

「ははっ……!」

すごい。俺はこんなすごい光景を今まで見たことがない。

っと、いけない。いつまでも呑気に眺めている場合じゃない。

俺は上に着ていたボロ布の服を脱ぎ、袖を腰に巻きつけ、服を背中に回す。裾の両端を両手でしっかり掴み、思い切り広げる。

「篝忍術・ムササビ」

たかだかボロ布を広げたところで、と見る者がいたら口にしそうな言葉だが、違う。 風の影響を大きく受けやすいこの状況では、このボロ布は絶大な効果をもたらす。

ムササビのように滑空とは到底呼べない無様な有様だが、しかし単なる落下とも違う。確実に飛距離は伸びるのだ。そして、進路の調節もきちんと行うことができる。 まあ、それもこれも風の流れを読み、乗ることができている俺の技量があってこその話なのだが。

後ろを見れば、俺のいた牢獄は遥か遠く、島を見渡せる程にまでになっている。 当然ながら追っ手は誰一人としてきていない。

それよりも気に留めるべきは着地……いや、着水だ。

もう視界は青一色。磯の香りは強くなり、海が間近に迫ってきていた。 水深は……充分に深そうだ。 着水の際、水の抵抗を極限まで減らすために姿勢を調整。来るべき衝撃に備える。

「っ!」

ドッバァアアアン!

さすがに痛い。だが、問題は無い。俺の身体ならば耐えられる。

燃え盛る爆炎のように、俺の目の前はとてつも無い泡でうめつくされていた。 俺は泳ぐ。城のそびえていた陸を目指し、進む。

やがて、霧が晴れるように、泡が次第に消えていく。まるで、俺の進むべき道の先を示してくれるように。 そこに何があるのかなんて分からない。だが、俺の身体は迷い無く、突き動かされるように真っ直ぐに進んでいくのだった


どうか続きも見てやってください。

お願いします。

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