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ドザえもん  作者: 大金母知
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1サムライ

このページを見つけてくださり、ありがとうごさいます。

この作品はパソコンの中で長らく眠りについていたのですが、久々に見たらなかなか良い感じだった(私にしては)ので投稿してみました。

この作品はストックがそれほど多くはないので、その内未完で更新が途絶える可能性が高いですが、万が一、読んでくださる方がいらっしゃり、良い反応が返ってくることがあれば続きを作ろうかと思います。

「それいけ魔法少女(男)」という作品も投稿しているので、気が向いたら覗いてみてください。

いいねやブックマーク、コメント、悪口など皆様の反応をお待ちしております。



「おまえはもうこの島にいるべきではないのかもしれない」

 ……己の生きる場所を失った。

「……すまなかった」

 ……己の歩んできた道が間違いであった。そう謝罪されてしまった。

「おまえに剣を教えたのは間違いだったのかもしれないな……」

 ……己の全てを否定された。

「おまえはまだ若い。きっと他にも違う生き方があるはずだ」

 ……そんなものは無い。

 俺のこれまでの人生は剣のみに捧げてきた。剣だけを振るい、剣のことだけ考えて生きてきた。

 今更違う生き方などできるものか。

 何より、これまで俺の生き方を示してくれたのは父上……他ならぬあなたではないか……!

「何もしてやれない無力な父ですまない……」

 ……うるさい……もう何も言うな……!

「気が済むまで恨んでくれてかまわない」

 うるさいうるさいうるさい!

「ふざけるな……! ふざけるなぁあああ!」

 気がついた時には殴っていた。

 大好きだった父上を俺は本気で殴った。殴って、殴って、殴り続けた。

「ふざけるなぁああ!」

 どうにもならない現実を憎み、恨み、呪い、その怨嗟の念の全てを父上にぶつけた。

 父上の肉が潰れ、骨が砕かれ、全身が赤黒い血で染まる。

 殴られ続け、父上の俺を見る怯えた目を目にした時、そこでようやく俺は取り返しのつかないことをしてしまったのだと気がついた。

「………………」

 もう、父上とは以前のような温かい関係には戻れない。

 俺は生きる場所を失い、生きる目的を失い、怒りに身を任せて大事な家族を傷つけた。

 もう、この場所にはいられない。いたくない。今すぐにでも逃げるのだ。どこへ? どこでもいい。ここではないどこかへ。少しでも遠くへ。


***


 時は明治二〇年。

 所は日本列島から南西に離れた所にポツンと存在する小さな島。総人口は一〇〇人にも満たない小さな島だ。知る人ぞ知るこの島は『修羅の島』と呼ばれている。

 この島には修羅……維新戦争において名を残した武を極めし武人達が集まり、戦の世界を離れてそれぞれが穏やかな余生を送っている。修羅の島とは名ばかりで、実情は俗世から離れた穏やかな世界である。

 その小さな島の港にて。二人の中年の男と一人の初老の男が集まっていた。

 中年の一人は小柄な男。彼は商人で、彼の属する商会はこの島に定期的に物資のやり取りをしている。

 この商人はこの島に来ることが初めてであり、その面持ちにはわずかな緊張が見られた。

 しかしながら、彼の緊張は仕事に起因するものではない。仕事はすでに何の問題も起こらないままに終えている。

 商人の緊張は視線の先の人物に注がれていた。

 修羅。そう呼ぶに相応しい男だった。

 熊の如き大きな体躯。岩山のようにゴツゴツと盛り上がった全身の筋肉。顔に刻まれた皺は西洋の彫像のように深く、老いよりも威厳を感じさせる。そして、全てを見透かしてしまうような深い瞳。

 目の前の男は常人の境地では辿り着けない遥か先の場所にいるのだと、商人は思い知らされる。

 商人は恐る恐る口を開く。

「あ、あなた様が……?」

「いかにも。私が朝比奈玄砕だ」

「っ!」

 商人は思い切り頭を下げて言う。

「こうしてお目通りさせていただき恐悦至極に存じます!」

「そう畏まらないでくれ。私はそんな大層な人間ではない」

「なんと……!? そのようなことは! あなた様のご活躍がなければ、今頃我が国は異国に呑み込まれ、滅んでおりました! あなた様は我が国の英雄! 『剣神』朝比奈玄砕を知らぬ者など、この日本ではおりませぬ!」

「……昔の話だ。今はどこにでもいるただの父親だ」

 苦笑して言う玄砕であったが、一方の商人は感激に打ちひしがれていた。

 真に強き者は決して驕らず、謙虚なのであると。自分のようにどこにでもいる商人に対しても対等に接してくれるのだと。商人は神を目にしたほどの衝撃を受けた。

「のう玄砕よ。ワシ、帰っていいか?」

 一人、置いてきぼりを食らっていた初老の男がようやく口を開いた。

「あぁ。御苦労だったな、じいさん」

「玄砕様にお目通りさせてくださり、ありがとうございました」

「よいよい。お主の所には世話になっとるでの。これくらいはお安い御用じゃわい」

 初老の男は玄砕と商人を引き合わせる役割を終えると、この場を去って行った。

 残った商人と玄砕の二人は改めて会話を再開させる。

「それで、うちの道場が見たいんだったな?」

「は、はひっ! 恐れながら!」

「だから、そう畏まらないでくれ。別に大したものなど何も無いボロ道場だが、それで良ければ好きなだけ見ていってくれ」

「あ、ありがとうございますっ!」

 商人は玄砕に畏まるなと言われたが、商人にとっては無理な話なのだ。

 本来ならば、玄砕は商人が口を聞くどころか、目にすることも許されぬ程の雲の上の存在。どう足掻いたところで緊張や力みが出てしまう。

「こっちだ。少し歩くぞ」

「はいっ」

 玄砕が先導する形で二人は歩みを進めていく。

 港から少し歩き、海から離れると、舗装された細い道が出てくる。人はほとんどおらず、道路の両脇に並ぶ樹木からは鳥の声が聞こえてくる。

 都会とは異なる自然の世界に、商人は目を奪われそうになるが、そんな場合ではない。

 商人は今、日本を救った英雄と一緒に道を歩いているのだ。仕事のツテを経て手にした千載一遇の幸運の時なのだ。

 玄砕に聞きたい話は山ほどある。

 商人は緊張に震える己を叱咤し、玄砕に尋ねる。

「……玄砕様は今でも剣を振るわれるのですか?」

「ん? あぁ。と言っても、身体が訛らないようにする程度だがな」

「おぉ……! 史上最強と謳われる剣技は未だ健在というわけですね!?」

「……まぁ、そう言われた頃に比べても衰えてはいない」

 聞きたいことは山ほどある。

「それは心強い。またこの国に黒船が攻めてきても安心ですね」

 『黒船殺し』……玄砕の武勇伝で一番の有名な話だ。なんとこの玄砕は日本中を恐怖のドン底に突き落とした黒船にたった一人で立ち向かい、制圧した男なのだ。

「くくっ……どうだかな?」

 そうニヒルに笑って言う玄砕に、商人は痺れる憧れる。

「先ほど気になることをおっしゃっておりましたが……玄砕様は父親になられたのですか?」

「あぁ、息子が二人な。嫁は二人目を産んですぐに死んじまった」

「……さようですか……」

「っと、着いたぞ」

 玄砕との時間に時間を忘れ、商人は目的の地である朝比奈の剣術道場へと辿り着いた。

 平らに拓けた大きな場所。そこに大きな道場と小さな家屋が建っている。

この場所は高台にあるようで、見下ろしてみれば先ほどいた港を遥か下にポツンと目にすることができる。

「ここが……」

 目の前の道場は玄砕が口にした通り造りに古さを感じるが、大きさは町で見かけた一般的な剣術道場に比べて倍くらいに広い。十分に立派な道場だ。

「特別な物は何も無いんだが……一応中まで見て行くか?」

「はいっ! 是非!」

 商人は玄砕を追って道場の中へと足を踏み入れる。

「……!」

 瞬間、商人は空気が変わるのを感じ、背筋を正した。

 道場ならではの神聖で荘厳な空気。

 道場の内装は玄砕の口にした通り、特別な物は何も無かったのだが、よく目を凝らしてみれば塵や埃といった汚れの一切が見受けられない。手入れが行き届いていることが窺える。

「……?」

 縁側に続く障子戸の付近。日光を浴びながら床に寝ころんでいる少年が一人。身体の大きさからすると、年齢は一〇に満たないくらいだ。

 少年はスースーと気持ち良さそうに寝息を立てている。

「……息子の晋作だ」

「あの子が……?」

 いくら子どもであるとはいえ、神聖な道場で昼寝などありえない。

 これには玄砕も怒り心頭かと商人は肝を冷やしたが、

「晋作くーん? 起きてるー?」

「……?」

 玄砕は気色の悪い猫なで声で、少年に呼び掛ける。

 玄砕の声かけに、少年は反応を示さない。

「……よし。寝てるな」

 玄砕はそう言うと自身の懐をまさぐり、一丁の拳銃を取り出した。

「え……?」

そして、銃口を寝ている少年に向け、

「死ねぇええええ! 晋作ぅううう!」

「えぇえええええ!?」

 ズドォオオオン! ズドォオオン! ズドォオオン!

 全身を震わせる衝撃音が連続で轟く。

 連続で発砲を受けた少年の身体は蹴り飛ばされた石ころのように吹き飛ばされる。

「くくっ……なかなかの威力だ。さすがは海外製といったところか……」

「あんた何やってるんですかぁああ!?」

 日本最強の武人に対する敬意を忘れ、商人が玄砕にツッコむ。

 そんなツッコミを玄砕は、

「修行です」

「はぁああ!?」

 そう一言でねじ伏せ、なおも射撃を続ける。

「ったく、晋作よぉ……おまえガキのくせにちょっと強いからって調子乗ってんじゃねぇよ。あぁん?」

 ズドォオン! ズドォオオン!

「本当にこれ修行なんですか!?」

 どう見ても修行じゃなくて殺人だ。

「うるせぇなぁ……だったらあんたも一緒にやってみるか? 修行」

「ひぃ!?」

 チャキッと銃口を向けられて腰を抜かしてしまう商人。

「ちっ、弾切れか……しょうがねぇ……」

 玄砕は道場の壁に立てかけてある木刀を手にし、転がっている少年に向き直る。

 商人の視線も玄砕につられて少年の方に向かう。

 あれだけの銃撃を受けて生きているとは思えない。しかし、

「このクソオヤジが……」

「っ!?」

 何事も無かったかのように、ムクリと少年の身体が起き上がる。

 コトン、コトンと道場の床に石ころのような物が落ちる。

 目を凝らして見れば、それは血の滲んだひしゃげた銃弾だった。

 信じられないことに、銃弾は少年の身体を貫通することなく、身体の表面の部分で止まっていたらしい。

 そして、

「テメェ……死ぬ覚悟はできてんだろうな……?」

「「ひぃっ!?」」

 少年から放たれる圧倒的な威圧感。

 商人と玄砕は揃って少女のような悲鳴を上げる。

「し、晋作くん……? 怒ってる……?」

「怒らねぇわけねぇだろうが」

「くっ……!」

 玄砕の顔から滝のような脂汗が噴き出す。

「落ち着け……やつは銃弾を喰らって手負いの状態。加えて丸腰だ。大丈夫。いける」

 玄砕は腰を落とし、木刀で居合の構えを取る。そして、気合い一閃。

「奥義……『森羅万象』!」

 玄砕の姿が一瞬にして消えた。

「消えた!?」

 目にも映らぬ超常的な速さ。やはり、玄砕は人智を超えた武人なのだと商人は思い知らされる。

 商人の目にはもはや何が起こっているかなど欠片も理解できない。

 感じ取ることができたのは、玄砕の姿が消えたこと。同時に、

 ズッバァアアン! ズドォオオン!

 大気を裂く衝撃音と、地を震わせる衝撃音。そして、

「がはっ……」

 首が曲がってはいけない方向に曲がって床に倒れている玄砕の姿。

「うぅぅ……ぁあぁあ……ぇぁあ……」

 玄砕の身体はビクビクと痙攣し、痛みに悶絶し、床の上で奇妙な舞を披露している。

 玄砕は大声を上げて悶絶したいのだろうが、大声すら出すことすらできないくらいの怪我を負ったのだろう。珍獣の鳴き声のような呻き声を上げている。

「………………」

 この玄砕という男はなんと情けない男なのだろう。

 寝込みを襲う卑怯な銃撃。丸腰の相手に自分は武器を持ち、奥義まで放っておきながら瞬殺されるなど。しかも一〇歳にも満たない子どもを相手に。

 商人の玄砕に対する尊敬や崇拝は跡形もなく砕かれた。

「ったく……久々に効いたな……普通の銃じゃねぇなこりゃ……」

 少年は銃撃を受けたことなど無かったかのような足取りで、床に落ちていた玄砕の銃を拾い上げる。そして、そのまま握りつぶした。

「!?」

 グニャリと飴細工を加工するかのように、少年は容易く銃を無力化するのだった。

 そして、少年の視線が商人の方に移る。

「見かけない顔だな。あんた誰だ?」

「……玄砕様を尊敬していた男です」

「ぷっ……あっはっは! オヤジを尊敬? あんた面白いなっ!」

少年は心底可笑しそうにケラケラと笑った。

「………………」

 こうしていると年相応な無邪気な少年で、先ほどまでの迫力はまるで嘘みたいだ。

「君は……?」

「この家の次期頭首。朝比奈晋作だ」

「……君、年齢は?」

「八才」

 その幼い歳で頭首になることが決まっているということは、

「玄砕さんは二人息子がいるって言っていましたけど、そうすると君がお兄さんですか?」

「……いや、弟だよ。兄はこの前に島を出てった」

 晋作の顔が不機嫌そうに歪む。

「……どうして?」

「ちっ……知るかよ」

 晋作は問答は終わりと言わんばかりに踵を返し、玄砕の元へと寄っていく。

「かひゅ……し、しんさ……く……助けて……」

 未だ首が変な方向に曲がったままの玄砕。うまく呼吸ができていない。

「………………」

 それでも晋作は玄砕の顔を蹴り飛ばした。

「ぶべらっ!? おまえさすがにやりすぎ……って、首治ってる! すげぇ!」

「……毎日こんだけやられて懲りないおまえがすげぇよ……」

 どうやらこうして玄砕が晋作にボロボロにされるのは日課らしい。

 しかし、この晋作という少年。玄砕にあれほど卑怯な不意打ちを喰らっても玄砕を助けてあげるあたり、意外と優しい少年なのかもしれない。

 玄砕は商人の所へとやって来て言う。

「すまんな。晋矢……あいつの兄の話はあまりしないでやってくれ」

 話はダメで不意打ちの銃撃はいいのかとツッコみたい商人であったが、話の腰が折れるのでやめておく。

「それってどういう……?」

「どうということもねぇよ。あの野郎は勝手に次期頭首を決める勝負を俺に吹っかけて、勝手に負けて、不貞腐れてこの島を出てったんだよ。一か月前にな」

「晋作」

「……ちっ」

「………………」

 何やら少し前にこの家でゴタゴタがあったらしい。それもまだ消化しきれていないような感じだ。なんだか気まずい空気。それを払拭するかのように明るい無邪気な声が道場に響いた。

「げんさいさま~! しんさくく~ん! お昼ごはんができました!」

 現れたのは晋作と同じ年ごろの小さな少女。

 小動物のようにクリクリした大きな目元。真っ白でプニプニとした艶やかな肌。指通りの良さそうなサラサラと流れる美しい黒髪。穢れを知らない透き通った瞳。一〇〇人が見れば一〇〇人が可愛いと答えるであろう天使のような少女。

「おぉ、雫か。御苦労だったな」

「げんさいさま。このお方は、おきゃくさまですか?」

「あぁそうだ」

「めずらしいですね」

 雫と呼ばれた少女は商人にペコリと礼儀正しくお辞儀をして挨拶をする。

「こんにちは。わたしは水野雫です。この道場の門下生です」

 この挨拶には商人もほっこりとしてしまう。

「どうも、これはご丁寧に。自分は○○○○(ピー)と申し……って、なんで伏字!?」

 こいつはさして重要でもないモブキャラだからだ。こんな男の呼び方など『商人』で十分だ。

「それで○○○○(ピー)さん」

「これだと自分が卑猥な名前みたいなんですけど!?」

 商人の叫びは虚しく、無視される。

「これからお昼ごはんなんですけど、いっしょに食べますか?」

「そうだ。せっかくだから食っていくと良い」

「よろしいのですか? それでしたら、お願いします」

 雫と玄砕のありがたい申し出に、商人はありがたく甘えることにした。

読んでくださり、ありがとうございました。どうか「次へ」のボタンをお願いします。

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