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3 爽太君の彼女

 地図を見て、すぐに事務所に着く事ができた。ドアを開けると、爽太君以外に、二人の若い男の人がパソコンに向かっていた。

 部屋は1室。5個のデスクが並んでいるだけだった。

 端っこには、女性が一人座っていた。まだ、若い感じの女性だった。20代半ばくらいかな。

「あの…」

 入り口で、声をかけると、

「あ!くるみさん!」

と、爽太君が気づいて、ドアのところまで来てくれた。

「これ、瑞希さんから頼まれて…」

「ああ、サンキュー!」

 お弁当を渡すと、爽太君は嬉しそうに受け取った。


 女の人が、ちらってこっちを見たのに気づき、

「じゃ、私はこれで…」

と、事務所を出ようとすると、

「あ。コーヒー飲みたいし、一緒に下に行くよ」

と、爽太君は、お弁当をデスクにおいて、一緒に部屋を出た。

 ビルの2階にある事務所から、爽太君と一階におりた。爽太君は、すぐ近くのファーストフードの店にと向かって行った。


「じゃ、私はこれで…」

「え?一緒にコーヒー飲まない?」

「でも、お店…」

「春香、店に出てる?」

「あ、うん…」

「じゃ、大丈夫だよ。最後の片づけを手伝わされるかもしれないから、それまでゆっくりしたらいいよ」

「でも…」

「夜はそんなに混まないよ。ランチとティータイムが混む店だから」

「じゃあ、少しだけ休んでいこうかな…」


 お店に入ると、爽太君がコーヒーを二つ頼んだ。

「あ、くるみさんは、席座ってて」

 座って待っていると、コーヒーを持ってきてくれた。

「れいんどろっぷすのコーヒーのほうが、美味しいけどね」

と、小声で爽太君はウィンクをしながらそう言った。

「爽太君は、お店のことが好きなんだね」

「れいんどろっぷすのこと?」

「うん」

「う~~ん、そうだな~~。高校生のときから手伝っているし、なんか愛着はあるかな」

「ふ~~ん」


「あ!」

「え?」                     

 いきなり、入り口のほうを見て、爽太君は立ち上がった。そっちの方を見てみると、爽太君の彼女がお店にはいってきていた。

「今、仕事終わったの?」

「うん。ちょっとおなか空いたから、食べようかなって思って。爽太君は?」

「まだ、仕事あるけど、ちょっと休憩中」

「忙しいの?」

「うん」


 彼女は私のほうを見た。

「あ、紹介するよ。今日からうちの店で働いてくれてる、小野寺くるみさん」

 爽太君が、彼女に私を紹介した。

「こんにちは…」

 軽く笑って、軽く会釈をしてみた。

「こんにちは」

 その子も、笑って挨拶をした。かわいい笑顔だ。

「あ、彼女は、山村五月さん…」

 爽太君はどっか、よそよそしかった。


「ここで食べていくんでしょ?私、もう帰るよ」

 さすがに彼女がいるのに、一緒じゃ悪いよなって思ってそう言うと、

「え?今来たばかりじゃん。コーヒー飲んでないし…」

と、爽太君が引き止めた。

「あ、じゃあ、持って帰る」

「いいよ!ここで、飲んでけば?」

 爽太君の顔が必死だったので、また席に座り、コーヒーをすすった。熱い。でも、早くに飲んで出たほうがいいだろうなって思って、熱いのも我慢した。


 五月さんは、あまり私にかまうこともなく、爽太君に話をしていた。爽太君との共通の友達の話をしているようだった。私は横で、黙ってコーヒーをすすっていた。

 爽太君は、しばらく五月さんの話をじっと聞いていたが、いきなり、

「あ。そうだ。この前言ってた、休みの日に映画に行く話、ごめん。日曜も仕事することになりそう」

と、言い出した。

「ええ?」

「ごめん、今、すごく忙しくて」

「でも、私そのためにシフトずらしてもらったんだよ」

「ごめん…」

「じゃあ、いつ?いつ休めるの?」

「う~~ん。しばらくは、仕事かな…」

「わかった…」

 それだけ言うと、五月さんは鞄を持って、お店をさっさと出て行ってしまった。


「…いいの?」

 爽太君に聞くと、

「何が?」

って、不思議そうな顔をした。

「五月さん、怒ってたんじゃないの?」

「うん」                      

「うん…って…」

「こういうとき、普通何て言って謝るのかな…?」

「え?」

「しつこく、日曜日に映画に行こうって言われてさ。仕事がもしひと段落ついてたら、行けるって言ったら、シフトも空けて、すっかり期待したみたいでさ…。でも、仕事が終わるかどうかはわからないよって言っておいたんだけど…」

「……」


「前にもあったんだよね。その時には、店の手伝いをしなくちゃならなくて、それも、まだ休めるかわからないよって、前もって言ってたんだよね」

「じゃ、全然デートできてないの?」

「うん。でも、仕事終わったら、ちょこっと、ここで一緒にご飯食べたりとか、海見に行ったりとかしてるよ」

「それだけじゃ、満足いかないんだね、きっと」

「そんなもん?」

「だって、五月さんいくつ?」

「19歳」

「じゃ、まだまだ、無理だよ。いろいろわかってって言っても」

 そう言うと、爽太君は、少し頭をうなだれた。


「前もなかなか時間が取れなくて、俺、結局ふられたんだよね」

「そうなんだ…」

「は~~~。こういう仕事してるから、しょうがないんだってわかってくれる子いたらな~。でも、五月ちゃんは仕事場も家も近いから、時々会えるし、大丈夫かなって思ってたんだけどな」

「…可愛い子だしね。ふられたくはないよね…」

 私はこのとき、かまをかけた。なんて爽太君が答えるか、わざとそんなことを言ってみたんだと思う。それで、爽太君が、五月さんをどう思っているかがわかる。

「…うん。可愛いよね。めちゃ…」

 ああ、なんだ…。言わなきゃ良かった…。


「俺には、もったいないよ」

「え?」

「どう扱っていいか、どういう話をしていいかも、たまにわかんないんだよね」

「…え?」

「俺、相当、女の子慣れてないっていうか…。あ、父さんはさ、母さんと出会う前、付き合ってた子何人かいたみたいでさ。俺に、お前は不器用だって言うんだよね」

「不器用?」

「う~~ん。話べただし、気が利かないし…。メールするのも電話するのもつい忘れるっていうか…」

「うん?」

「面倒なんだよね~~」

 そう言うと、爽太君はぼりって頭をかいた。


「俺、どうしたらいいかな?」

「は?」

「なんかさ、アドバイスない?女性側から見て…」

「……面倒くさいなら、彼女をつくらなければいいんじゃないの?」

「え?……なるほど。そうだよね」

「あ、五月さんのことが好きなら、別だけど…」

「う~~ん…」

 爽太君は、悩みだした。


「好きの基準って何かな?」

「は?」

「どのくらい好きなら、付き合うのかな?」

「ええ?どのくらいも何もないんじゃないの?好きは好きでしょ」

「う~~ん。だから、いい子だな、可愛いよなって思う子はいる。あ、五月ちゃんもそうだけど…」

「うん」

「でも、それって、好きって言えるの?」

「恋してるの?」

「恋?」

「うん」

「う~~~ん…」

 また、爽太君は悩みだした。


「以前にも、好きになった子いないの?」

「いたけど…」

「じゃ、わかるじゃない?」

「そっか…」

 爽太君は、コーヒーを飲んでから、深いため息をついた。

「その子、うんと可愛いとか、そういうんじゃなかったけど、なんか気がついたら、すごく気になる存在になって…」

「へえ…」

「引っ越しちゃったんだ。それっきり会ってない。でも、いまだに夢とか出てくるよ」


「ひきずってるの?」

 ああ、瑞希さんが言っていた、女の子だな。

「いや。もうなんとも思ってないと思うけど…」

「けど…?」

「わかんないや。その子みたいに、五月ちゃんのことは思えていないかな」

「そうなんだ…」

「ああ、こんなで付き合っててもよくないよね?」

「…わかんないな。私も…」


「ごめん。こんな話して…」

「いいよ。いつでも、相談に乗るって言っても、あまりいいアドバイスはできないけど。なにしろ私も、こっぴどくふられたばかりだし…」

「ああ!そうか。ごめん、そんな時にこんな話して!」

「いいよ」

 爽太君は、コーヒーを飲みほし、席を立った。

「ご飯届けてくれてありがとう。それじゃね。気をつけて」

「うん」

 その店を出て、爽太君は会社に戻っていった。

                  

 私は心のどこかで、爽太君が別れてくれることを望んでるっていうのが、わかった。

 そんな自分が醜く思えた。自分のことしか考えていないのかって…。そして罪悪感で、心が沈みながら、れいんどろっぷすに帰った。



 夜、お店のかたづけを手伝い終わり、瑞希さんが先にお風呂に入ってと言うので、入らせてもらった。それから、2階にあがり、ベッドに横になった。

「ああ、疲れた…」

 営業の仕事で、1日歩きっぱなしだったこともあるが、こういうお客さん相手の仕事は初めてだし、慣れないことばかりで、すごく疲れてしまった。

 そして、私は、いつの間にか眠っていた。


 朝、窓から朝日が入り込み、小鳥の声も聞こえてきた。

「…あ、朝!」

 何時かって時計を見たら、7時だった。

「良かった。寝坊したかと思った…」

 着替えて、下におりていくと、お店のほうからコーヒーの香りがしてきた。

「早い、瑞希さん、もうお店に出てる…」

 顔を洗って、慌ててお店に出ると、カウンターに爽太君が座って、トーストを食べていた。


「おはよう、くるみさん。早いね」

「おはよう。爽太君こそ、早いね」

「あ、俺の場合は、朝帰り。これ食べたら寝るんだ」

「徹夜?」

「うん」

 キッチンから、オムレツとサラダを持って、瑞希さんが現れた。

「おはよう、くるみさん。くるみさんの分の朝食も作るわね」

「あ、すみません。何か手伝います」

「じゃ、コーヒーを爽太の分と、くるみさんの分淹れてくれる?」

「はい」

 爽太君の分のコーヒーも淹れて、爽太君の隣の席に着いた。


 コーヒーを飲んでいると、瑞希さんがオムレツとサラダと、トーストを持ってきてくれた。

「爽太、圭介はまだ事務所?」

 瑞希さんが、爽太君に聞くと、

「あ、事務所のソファで寝てたから、置いてきた」

と、コーヒーを飲みほして、のびをしながら、爽太君は言った。

「ええ?起こして家に帰してよ。もう、何日も事務所に泊まってるのよ」

「昨日、夕方帰ったでしょ?一回」

「だけど、ソファで寝るくらいなら家で寝てって」

「わかってるけど、家までたどり着けないくらい眠いんじゃないの?ああ、寝言で母さんの名前呼んでたよ。うっさいんだよね、あれ。瑞希、瑞希ってさ…」

「だったら、家に帰ったらいいのにねえ…。もう、しょうがないわよね~~」

 そう言うと、また瑞希さんはキッチンに戻っていった。


 しばらくすると、キッチンから瑞希さんは、お弁当箱を持って出てきた。             

「瑞希さん、私ご飯を圭介に届けるから、その間ちょっと、お店の掃除とかしててもらってもいい?」

「はい」

「じゃ、よろしくね」

 そう言うと、瑞希さんはお店から出て行った。爽太君は、眠そうな目をこすりながら、

「何か手伝おうか?」

と聞いてきた。

「大丈夫よ。爽太君はもう寝て」

「うん…」


 爽太君は、そう言いながらも、なかなかカウンターの席を離れなかった。私は、食べたものを片付け、掃除を始めた。

「爽太君のご両親、本当に仲がいいよね」

「うん…」

「前に、二人できついことを乗り越えたって…」

「ああ。ちょっと待ってて」

 そう言うと、爽太君は、カウンターの奥に入り、2階へと上がっていった。


 床を掃き、テーブルやカウンターを拭いていると、爽太君が戻ってきた。

「これ、見てみて」

 そう言うと、何冊かのノートを私に、手渡してくれた。中を見てみると、日記だった。木や、花、空、それから、若いころの瑞希さんの笑顔や、圭介さんの寝顔や…。

「これさ、俺がまだ母さんのお腹にいたころ、二人で毎日つけてた日記なんだって」

 毎日、何があったか、何に感動したかを細かく書いてあった。

「父さんが何に感動して、何を感じてたかを、俺に残しておきたかったんだって」

「え?」

「それで、俺が大きくなったら、あなたのお父さんはこんな人でしたって、見せるために毎日日記をつけてたって母さんが言ってた」

「……」

 日記には、赤ちゃんへというメッセージも、たくさん書かれていた。


「父さん、癌で助からないって言われてたらしい」

「…え?」

「余命3ヶ月って言われてから、結婚して一緒に暮らし始めて、母さんが妊娠して…」

「でも、今、すごく元気…」

「そ。奇跡が起きてさ。あるとき、がん細胞全部消えてなくなったって」

「ええ?!」

「びっくりでしょ?」

「……」

 日記の中にも、「奇跡が起きた」と書いてあった。それから、圭介さんが、

「赤ちゃんに会える!こんな嬉しいことはない」

と、目に涙を浮かべて、Vサインをしている写真も貼ってあった。


「二人で、死を乗り越えちゃったんだよ」

「二人で?」                    

「父さんも母さんも、死を受け止めて、毎日をただ、ただ、楽しんで大事にして生きていたんだって。

だから、いまだに、今を大事にして生きなさいって言う」

「今を?」

「命も、大事にってね」

「だから、私が海に入っていったときにも?」

「ああ、うん。びっくりしたよ。どんどん海の中はいっていくから、助けなきゃって…。クロの方が足速いから、クロに先に走らせて…」

「そうだったの…」


「あの二人が、異常に仲がいいのなんとなくうなずけるでしょ?」

「うん…」

「俺、二人のこと尊敬もしてる。すげえよな、死を二人で乗り越えちゃうなんてさ」

「……」

 なんだか、聞いていて、恥ずかしくなった。私は、死を目前にしても、前向きに生きてきた二人と違って、自ら、生きることをやめようとしたのだ。たとえ、一瞬としても…。

「これ、部屋にもって行くけど、もし見たいときには、声かけてね」

「うん。ありがとう。貴重なものを見せてくれて。これ、宝物でしょ?」

「うん」

 そう言うと、爽太君は、満面の笑みを浮かべた。

「じゃ、俺寝るね。おやすみ」

「おやすみなさい」


 しばらく、ぼ~~ってした。

「あ、いけない。掃除…」

 雑巾を洗いに行き、この前爽太君がしていたように、窓ガラスを丁寧に拭いていった。すると、外から瑞希さんが戻ってくるのが見えた。

「おかえりなさい」

「ただいま。ありがとう、窓拭いていてくれたの?」

「はい」

「じゃ、私は外を掃いてこようかしら」

 箒を持って、外を掃いている瑞希さんのことを窓から見ていた。丁寧に丁寧に、葉っぱや砂をかき集めている。


 瑞希さんのあの優しさや強さは、たくさんの悲しみを乗り越えてきたからなんだってわかった気がした。

 愛する人が、もうすぐ死を迎えるなんて、私には想像もできなかった。それどころか、この前私は、愛していた人に、酷いしうちをしてやろうと思っていたほどだ。

 窓ガラスを拭きながら、涙がこぼれた。稔のことを思い出していた。稔は、私が稔のことを好きだったかもわからないって言っていたけど、私は稔を好きだったんだ。愛していたんだ。

 愛していたのに、なんで、苦しめてやろうなんて思ったりしたんだろうか。

 どんどん涙は溢れて、窓ガラスを拭けなくなっていた。


 外からその様子を見た瑞希さんは、そのまま、外の掃除を続けていた。              

 外の掃除が終わり、瑞希さんが中に入ってきた。

「さて、テーブルセッティングでもしようかしら。手伝ってくれる?」

 慌てて、涙を拭いて、

「はい」

と、瑞希さんのもとへと行った。

「クロスをかけていってほしいの。そのあと、花瓶に花をいけてくれる?」

「はい」


 言われたとおりに、クロスをかけていくと、瑞希さんがそんな私にぽつりと言った。

「我慢はしないで、泣きたいときには泣いちゃったほうが楽なのよね」

「え?」

「ふふ…。私も泣きたいときには、泣くし…」

「泣きたいとき、あるんですか?」

「昔ね、そんなときもあったから」

「今は?」

「今?今はね~~。ないわね。あまり悲しいこと、苦しいことがないのよね。私ほんとうに、幸せだって思うわ」

「そうですね。素敵なだんなさんや、お子さんに恵まれていますもんね」

「そうね…」


 花瓶に花をさしていくと、瑞希さんが、聞いてきた。

「昨日、爽太の彼女と会ったんだって?」

「え?」

「今朝、爽太が言ってたから」

「はい…。なんか、五月さん途中で怒って帰っちゃって」

「みたいね」

「爽太君、何か言ってましたか?」

「詳しくは聞いてないけど。怒らせちゃったって。で、くるみさんにいろいろと相談に乗ってもらったって」

「いえ、相談って何も私は…」


「ふふ。でも、爽太は、力強い味方ができたって思ってるみたいよ。お姉さんができたみたいな感じかしらね」

「お姉さん?」

「そう。なんか、嬉しそうに話してて…。ん?どうした?」

 私は、ものすごくショックを受けていた。顔が硬直していくのがわかった。

「あ、なんでもないです…」

 無理に笑顔を作ったが、瑞希さんがちょっと心配そうな顔で私を見た。


「他には、何をすればいいですか?」

「ああ。そうね。そろそろ、キッチンで下ごしらえでもしようかしら。くるみさんお料理は好き?」

「えっと、あまり…。でも、一人暮らしをしていたので、一応お料理はしてましたけど」

「そう、じゃ、大丈夫よ」

 キッチンに二人で入り、野菜を洗ったり、切ったり、瑞希さんはスコーンを焼いたりした。


「くるみさん、兄弟は?」

「一人っ子です、私」

「じゃ、爽太のことは、弟みたいな感じがするかしら?」  

「弟がいないから、よくわかりません。でも、爽太君は、出会ったとき、天使に見えました」

「天使?」

「はい。今も…。優しくて、天真爛漫で、天使みたいですね」

「あの子が?」

「はい。でも、わかりました。お二人の愛を、思い切り注ぎこまれて育ったんですね」

「私と圭介?」

「はい」

「ふふ…。それは逆だわ」

「え?逆って?」

「爽太の方がたっくさんの愛を、注いでくれたの。だから、そうね。私たちにとっても天使だわね」

「……」


 素敵なご両親だな…。羨ましく思えたけど、でも、こんな家族に出会えたことが嬉しくなった。

 この世界には、こんなにも愛が溢れている家族や場所があるんだ。私の心がどんどんあったかくなっていくのがわかる。

 お姉さんでもいいかな。いや、やっぱり少し寂しいけど…。だけど、この愛溢れる家族に囲まれて過ごしていけるのは、嬉しいな…。

 そんなことを思いながら、私は、しばらく甘いスコーンの香りの中で、あったかさに酔いしれていた。

    


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