19 招待状
2週間が過ぎた。
昼間に仕事をしてくれるパートの人もすぐに見つかり、3日間、爽太君がれいんどろっぷすに出ていたが、その人が出てくれるようになり、また、爽太君は自分の仕事に戻っていった。
結婚式とパーティは、圭介さんの弟さんの順平さんが、ウエディングプランナーの仕事をしている友人がいるとかで、紹介してもらい、レストランで結婚披露宴をすることにした。
夏の暑い盛りだし、私が妊娠しているということもあり、室内での披露宴になった。
まだ、つわりもあるし、これからお腹も出てくるだろうから、ウエディングドレスは、もう少ししてから、探すことにした。
私と爽太君は、しばらく、結婚してもこの家に住むことにした。子供が生まれても、誰かが赤ちゃんの面倒を見れるように…というのが、理由だが、実は、瑞希さんも圭介さんも、春香ちゃんですら、赤ちゃんの面倒が見たくて、しょうがないようだった。
2階の私の部屋に、セミダブルのベッドを置き、その横にベビーベッドを置くことにした。爽太君の部屋は、爽太君の仕事場でもあり、二人、いや、赤ちゃんが生まれたら3人かな…、3人のリビングにもなる。ソファや、テレビを置き、のんびりできるようにした。
しばらく仕事を休んでいたから、爽太君は忙しいだろうに、ベッドや、ソファを買いに行ったり、いろんなところに、車で出向いていた。
大安吉日の日に、爽太君と、籍を入れた。
それから、私と爽太君とで、もう1度産婦人科に行き、そのあと市役所で、母子手帳をもらった。母子手帳に書く私の名前は、「榎本くるみ」だった。名前を書く時、すごくドキドキした。
式はまだ先だが、籍を入れたので、その週の水曜日の夜、家族だけでお祝いをした。圭介さんと、瑞希さんのご両親も来てくれた。
私はまだ、つわりがあったので、あまり食べることは出来なかったが、みんなにお祝いしてもらい、本当に嬉しかった。
「私たち、ひ孫ができちゃうのね」
「ひいおばあちゃんになるのよ。信じられないわ」
と、圭介さんと瑞希さんのお母さんが、そう言った。
「いや~~、爽太も結婚か。早いな~~。つい、この間圭介が結婚したと思ったらな」
「爽太が生まれたのも、ついこの前の気がしますね。可愛かったですよね~」
今度は、お父さん二人が感慨深そうにそう言った。
「圭介と同じ年で結婚して、お父さんになるとはね」
と瑞希さんも、お酒を飲みながら、嬉しそうに言った。
「お前、可愛がりそうだな~~。子供好きだもんな~~」
圭介さんも、ビールを片手に笑いながらそう言った。
みんなが、結婚も出産も喜んでいた。
つい、数ヶ月前には、信じられない光景だった。私は仕事をばりばりしていた。結婚のけの字も考えていなかった。
結婚して幸せになるってことも、考えていなかった。ただ、頑張って、一人でもたくましく生きていこうって思ってたんだ。
だけど、実際、彼氏も友人も、両親すら離れていき、私は本当にひとりになったら、たくましく生きるなんてとんでもない。死を選ぶしかなかった。
結局、なんだったんだろうか、私のこれまでの人生って…。
お祝いが終わり、片付けをしてお風呂に入ってから、私は部屋に戻った。爽太君は、籍を入れた日から、私と同じ部屋で一緒に寝ていた。
髪を乾かし、ベッドに座ってのんびりしていると、お風呂からあがった爽太君が、部屋に来た。
「くるみさん、大丈夫?疲れなかった?」
「うん。大丈夫。気分もそんなに悪くないし…。なんか、つわりもだんだんと、おさまってきている気がする」
「そう?良かった」
爽太君は、お風呂上りで暑いからかスエットをはき、上半身は裸だった。
私はまだ、爽太君の上半身を見慣れてなくて、目のやり場に困っていた。っていうのも、見とれちゃうからだ。情けないことに、たまに、爽太君に見とれちゃってる。それを悟られないようにしているんだけど…。
「今日は、嬉しかったな」
「え?」
「みんながお祝いしてくれて…」
「うん、ほんとに。でも、ほら、うちの家族ってなんでも、集まって祝うのが好きだからさ」
「そうだよね。仲がいいよね」
「父さんの両親と、母さんの両親が仲がいいのは、父さんが奇跡を起こして、がん細胞なくして以来みたいだよ」
「え?」
「みんなで、お祝いしたんだって。祝い好きはそれからじゃないのかな」
「そうなんだ。それからずっと、みんな、仲がいいなんてすごいね」
「うん。そうだね」
「なんか、思っちゃった」
「何を?」
「私の今までの人生って、なんだったんだろうって。虚勢張って生きてきた。誰にも負けないように強がって…。なんだったんだろう。何の意味があったんだろう」
「う~~~ん。そうだね…」
爽太君は、しばらく黙って考えてから、
「でも、意味のないことはないと思うよ」
と笑って言った。
「私ね、あの海で爽太君に助けられた時、一回死んだと思う」
「へ?」
「死んで、生まれ変わったんだって思うんだ」
「生まれ変わった?」
「だって、人生が180度くらい、変わったもの」
「そう?」
「うん」
「じゃ、一回死んで、生まれ変わるってことを、体験するために、今まで虚勢張って生きてきたんじゃないの?」
「え?」
「いいじゃん。なんかそういうの。幸せになるための、道のり…みたいで」
「ええ?なんだか、波乱万丈な人生みたい」
「あはは。ドラマになるかな?小説にでもする?っていうか、自叙伝書いちゃう?」
「え~~。やだよ…」
と私は、笑って言った。
爽太君は、ごろんと横になると、ベビーベッドの方を見つめた。
「気が早かったかな?もう、ベビーベッド置いちゃったの」
「うん、そうだよね」
二人で、くすくす笑った。
「だけど、いいよね。ベビーベッドがあるって。なんかそれだけで、幸せになるね」
爽太君はそう言うと、私のお腹を優しくなでた。
「生まれてきたら、あそこに寝るんだよ?わかってる?」
赤ちゃんに爽太君は、そうささやいた。
「爽太君」
「え?」
「爽太君は、生まれなかったら良かったって思ったこと、ある?」
「ないよ。一回もない」
「そうか、やっぱり…」
「なんで?」
「ううん。思ったことあるのかなって、ほんと、素朴な疑問」
爽太君の横に私も寝ると、爽太君は腕枕をしてくれた。
「俺、生まれて良かったっていうか、母さんのお腹にはいって良かったって思ってる」
「え?」
「なんか、俺の存在ってきっと、二人が生きていく力になってると思うんだよね」
「二人の…?」
「母さんと父さんのさ…。俺がいたことで、ますます生きるって方を見たと思うんだ。だから、奇跡が起きたんじゃないかな」
「うん、そうだよね」
「だから、俺、ほんと自分でも、すんげえタイミングでこの世にやってきたって思うんだよ。そりゃもう、奇跡ってくらいのタイミング」
「うん」
「その辺が、俺の自慢」
「え…?」
「あはは。なんか変な自慢でしょ?でも、まじでそう思ってる。俺が生まれてきたこと、母さんのお腹にはいったこと、これがもう、俺の自慢」
「……」
爽太君は、天井を見ながら、そう言った。その横顔はきらきらしていた。
「だから、生まれなければ良かったなんて、一回も思ったことない。生まれて良かった、この世に来て良かったとしか、考えられない」
「それも、自分のためじゃないんだね」
「え?」
爽太君は、顔をこっちに向けて、私を見た。
「お母さんと、お父さんのためでしょ」
爽太君の目を見ながら、私は聞いた。
「うん。だけど、両親の生きるパワーのために生まれたって、嬉しくない?だから、やっぱり、俺のためにもなってるよ」
そんな考え方が、好きだなって思いながら、爽太君を見つめていた。
「ハ…。クシュ!」
爽太君がいきなり、くしゃみをした。
「あ、やべ…。裸だからか」
そう言うと、爽太君は、もそもそと布団に入り出した。
「もう寝ようよ。疲れたでしょ?はい。くるみさん」
と、爽太君は掛け布団を持ち上げた。
「うん」
私も、布団に潜り込んだ。
爽太君はあったかい。私はけっこう寒がりで、冷え性だから、お風呂からあがってしばらくすると、足先が冷たくなる。その足を、爽太君の足にくっつけさせてもらう。爽太君の足はあったかくって、私の足が冷たいから気持ちがいいらしい。
「くるみさん、おやすみ」
「うん。おやすみなさい」
一緒に布団に入ると、爽太君の方が先に寝る。とても寝つきが早い。その寝顔を見ているのが、大好きだった。
それから、朝起きた時の、まだ寝ぼけている顔も、大きなあくびも可愛いし、寝癖だらけの頭も可愛い。
2階には、トイレの前に洗面所があり、そこでいつも、爽太君は歯を磨き、顔を洗う。2階の洗面所は、ルーフバルコニーにつながっていた。ルーフバルコニーには、ベンチが置いてあり、たまに私は外の風に吹かれながら、そこに座って、のんびりとした。
そこに、座っていると、爽太君が、歯を磨いている姿も見れる。
先に歯を磨き、顔も洗い、私はぼけっとベンチに座って爽太君をこうやって、眺めていることが多い。
「はに?」
爽太君は、はぶらしを口につっこんだまま、聞いてきた。
「はに…?」
私は、そのまま聞き返した。はぶらしを出して、もう1度、爽太君は聞いてきた。
「何?ずっとこっち見てたけど…」
「え?なんでもないよ。ぼ~~ってしてただけ」
爽太君は、口をゆすぎ、タオルで拭きながら、
「そこにいるの好きだよね。外の風が当たるから?」
って聞いてきた。
「うん。気持ちいい。たまに、潮風の匂いがする」
「ああ、そうだね。するよね」
そう言ってから、爽太君は、顔を洗い出した。髪はまだぼさぼさで、会社に行く寸前でいつも直している。
「は~~~。また、しばらく忙しいかな」
「え?そうなの?」
「うん。あ、でも、ちゃんと夜は帰れるようにするけどさ」
「え?うん…」
「あれ?なんか反応薄くない?」
タオルで顔を拭きながら、私の方に爽太君はやってきて、私の横に腰掛けた。
「俺ら、新婚なんだけど…」
「あ!そうだね。そういえば…」
「ええ?何それ。新婚だって忘れてた?もしや」
「ごめん、だって、家にはいつも、瑞希さんや誰かがいるし、あまり前と変わってないし」
「でも、部屋、一緒じゃん。寝る時は二人で寝てるでしょ」
「う、うん。そうだよね」
「なんか、ショックだな。俺、頑張って早めに帰ってきてるのにな」
「ごめん。爽太君が夜、隣にいてくれるのは、嬉しいよ。でも…」
「え?でも、何?」
「忙しいなら、無理しないでね」
「してないよ。くるみさんが待ってるって思ってたから、すんげえ仕事頑張れて、いつもの倍の速さでこなせてたのに…。っていうか、父さんに、それだけスピーディに仕事できたんだって言われたけど…」
「そうだったの?」
私のために、仕事頑張ったり、早めに帰るようにしてくれてたってことが、嬉しかったけど、照れくさかった。こんな時には、なんて言ったらいいんだろうか?嬉しいと、素直に?それとも、甘えてみるとか?
「さ、朝ごはん食べに、下に行こう」
「うん」
二人で、いつも一緒に一階に下りる。そうするとたいてい、瑞希さんが笑って、
「仲いいわよね」
と言う。そうすると、爽太君は決まって、頭を掻いてぼそって言う。
「いいじゃん、新婚だし…」
私は爽太君と一緒に、朝ごはんを済ませてから、簡単なお店の手伝いをする。爽太君も会社に行くまで、掃除をしたり、たまにキッチンでの仕込みも手伝っている。
春香ちゃんは、海に行く時間を少し遅らせて、お店の手伝いをしてから、行くようになった。聞くと、私が来るまでは、パートさんが10時にお店に出ていたから、春香ちゃんや、爽太君が交互に手伝うこともあったらしい。
今のパートさんは、9時半に来てくれるので、助かっている。私は、家の中の掃除や、洗濯をしたり、アイロンをかけたりして過ごすことが多い。
「そうそう、招待状頼んでいたのが印刷されて、来てたわよ。送らないとね」
「あ、もう出来たんだ。早いね」
「そりゃ、あと式まで3ヶ月もないのよ。早めにしてもらったのよ」
「そっか…。じゃ、今日帰ったら早速、送るようにするよ。じゃ、そろそろ会社行ってくる」
そう爽太君は言って、リビングに上がっていった。それと同時に、圭介さんがお店に来た。
「爽太、最近朝、早めに行くのね」
と、瑞希さんが圭介さんに聞いた。
「早めに行って、早めに終わらせて帰るようにしてるみたい」
と、圭介さんは眠そうな目でそう答えた。
「くるみさんは、ご両親に招待状送ることにしたの?」
「はい。爽太君と話して、送るだけ送ろうってことにしました」
「そう…」
瑞希さんは、優しく微笑んだ。
「俺、何着たらいいの?瑞希」
「圭介は、モーニングじゃない?」
「え?!黒とかの?」
「そうそう」
「瑞希は何着るの?」
「お母さんがね、もう私ようにって紋の入った留袖を用意してくれたのよ」
「留袖?ああ、なんか、黒っぽい着物?」
「そう」
「へえ!瑞希それ着るの?色っぽそうだね!」
圭介さんは、そう言って喜んだ。
「圭介のモーニングも楽しみね」
「ええ?親父くさくない?他にないのかな~~」
「紋付袴でも着る?」
「え?いいの?」
「さあ?どうなのかしら?」
「俺、紋付袴がいいや。じゃ、瑞希、白無垢でどう?」
「あはは。私の結婚式じゃないわよ~~」
「いいじゃん、どうせなら、一緒にまた式挙げるって。ダブル結婚式。俺、瑞希の白無垢姿見てないから」
「もう~~。くるみさんが困ってるわよ」
「あ…。ごめんごめん」
「いいえ、二人の会話聞いてるのが、私好きで…。本当に仲がいいですよね」
「バカップルってこの前、春香に言われたよ」
と圭介さんは、少しへこんで言った。
「バカップル?あははは。ぴったりね」
瑞希さんは大笑いをした。
どうやら、やたらめったなことで、落ち込まない圭介さんは、春香ちゃんの言葉ではへこむようだ。
圭介さんも、ご飯を食べて会社に出かけた。私は少し、お店の掃除をして、それから洗濯物を干しに、2階に上がった。
この前まで、いい天気だったが、最近はぐずつく天気が多い。梅雨に入ったのだから、しかたがないか。それでも、今朝は雲の合間からお日様が出ることもあり、洗濯物も乾きそうだった。
その日の夜もまた、爽太君は早めに帰り、早速私と二人で、招待状に宛名を丁寧に書き、封をしていった。
「ご両親に、手紙でも添える?」
私が父の名前を書いている時、爽太君は、そう言った。
「ううん。やめとく。なんて書いたらいいか、わからないもの。ただ、招待状に手書きで、来てくださいって書いてみる」
「そっか…」
爽太君は、そう言うと、私のことをしばらく優しい目で見つめていた。
「何?」
「え?」
「何で、見てたの?」
「あ、なんとなく…」
「ふうん」
「くるみさんだって、たまに俺のこと見てる時あるじゃん」
「え?」
「朝も、ベンチに座って、俺のこと見てるじゃん。あれ、なんで?」
「嫌だった?」
「嫌じゃないけど、なんで見てるのかなって…」
「別に、理由はないよ。ぼ~~ってしてるだけで」
「ふうん…」
本当は、歯を磨く姿も、顔を洗ってるのも可愛いなって見てるんだけど…。
今まで、朝起きて、自分の顔を洗って化粧をしたら、お店の手伝いに行っちゃって、爽太君のそういう姿を見れなかったんだよね。
「くるみさんのご両親、結婚って聞いてすごいびっくりするんじゃない?」
「うん、でもお母さんには、稔と付き合ってる時にも、結婚するかもって言ってたから」
「え?あ、そうなんだ」
「だけど、相手が、爽太君で驚くかも」
「え?なんで、若造だから?」
「違うよ。若くてめちゃイケメンだから。お母さんけっこう面食いだし、喜んだりして」
「ええ?ちょ、やめて、そのイケメンって…」
「え?なんで?瑞希さんもよく言ってるよね?爽太君はイケメンだって」
「母さんにそう言われてるから、なんか拒否反応を起こすよ」
「ええ?なんで?!なんで?!」
「俺、そんなにかっこよくないと思うけど、もてないし」
何を言ってるんだか…。五月ちゃんだって、爽太君に惚れてたじゃないか…。
「あ~~、びっくりした。まさか、くるみさんに言われるとは思ってもみなかった」
爽太君は、顔を真っ赤にしていた。
「え?思ってたよ?私」
「え?!」
「口に出しては言わなかったけど」
「…あ、そうなんだ」
爽太君は、少し驚いている様子。
じゃ、上半身裸の爽太君に見とれちゃうっていうのも、実は歯磨きする姿や、顔を洗ってる姿が可愛いっていうのも、言ったらきっと、びっくりするだろうな。
招待状の宛名書きを終えて、全部に封をすると、
「じゃ、これ明日郵便局に行って、出してくるね」
と爽太君は、自分の鞄に入れた。
それから、一週間して、私の父からも母からも、返事が届いた。
まず、返事を返してくれたことに感謝したが、やっぱり封を開けるのが怖くて、爽太君が帰って来るのを待つことにした。
その日は、少し遅くに爽太君は、帰ってきた。爽太君が夕飯を食べ終え、お風呂から上がってくるのを待って、一緒に2階に上がった。
部屋に入ってから、
「あのね。二人から返事が来たの」
と言うと、きょとんとして、
「二人?」
と聞いてきた。
「私の父と母」
「あ!招待状の?!なんだって?」
爽太君は、顔を紅潮させ、聞いてきた。
「まだ、開けてない…」
「え?」
「怖くって、爽太君に見てもらおうと思って」
と言って、封筒を差し出した。
「そっか…」
爽太君は、はさみを取り出してきて、
「両方開けちゃうよ」
と言ってから、2枚ともさっさと封を開け、中を取り出した。
「えっと、まず、お父さんのほう…。喜んで出席しますって」
「…!」
「じゃ、お母さんのほうね。ご結婚おめでとう、当日は主人と一緒に、出席させていただきますって」
「主人?あ、再婚相手?」
「うん、そうだね、きっと」
私は嬉しくて、涙がどっと溢れた。
「良かったね」
爽太君は、私に優しくそう言った。
「うん。嬉しい。来てくれるんだ」
ボロボロ涙が止まらなかった。しばらく爽太君は、私を優しく抱いていてくれた。
「あ、でも、お父さんとお母さん、顔をあわせて大丈夫かな」
「大丈夫だよ。ほら、そういう心配は無しね。先のことは考えない。今できることをしようよ」
「今、できること?」
「そ。今は、来てくれるって喜ぶことと…」
「うん」
それから、ぎゅって私を爽太君は、抱きしめながら、
「こうやって、俺と抱き合うこと!」
と、笑って言った。一緒に喜んでくれる、爽太君が嬉しかった。
結婚式に二人が来るのが嬉しいけど、不安は残った。でも、きっとその日も爽太君は、こうやってそばにいてくれて、私が喜んでも、悲しんでも、受け止めててくれるだろう。
そう思うと安心して、今爽太君のぬくもりを感じ、幸せを体全体で感じることが出来た。