表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/25

19 招待状

 2週間が過ぎた。

 昼間に仕事をしてくれるパートの人もすぐに見つかり、3日間、爽太君がれいんどろっぷすに出ていたが、その人が出てくれるようになり、また、爽太君は自分の仕事に戻っていった。

 結婚式とパーティは、圭介さんの弟さんの順平さんが、ウエディングプランナーの仕事をしている友人がいるとかで、紹介してもらい、レストランで結婚披露宴をすることにした。

 夏の暑い盛りだし、私が妊娠しているということもあり、室内での披露宴になった。

 まだ、つわりもあるし、これからお腹も出てくるだろうから、ウエディングドレスは、もう少ししてから、探すことにした。


 私と爽太君は、しばらく、結婚してもこの家に住むことにした。子供が生まれても、誰かが赤ちゃんの面倒を見れるように…というのが、理由だが、実は、瑞希さんも圭介さんも、春香ちゃんですら、赤ちゃんの面倒が見たくて、しょうがないようだった。

 2階の私の部屋に、セミダブルのベッドを置き、その横にベビーベッドを置くことにした。爽太君の部屋は、爽太君の仕事場でもあり、二人、いや、赤ちゃんが生まれたら3人かな…、3人のリビングにもなる。ソファや、テレビを置き、のんびりできるようにした。

 しばらく仕事を休んでいたから、爽太君は忙しいだろうに、ベッドや、ソファを買いに行ったり、いろんなところに、車で出向いていた。


 大安吉日の日に、爽太君と、籍を入れた。

 それから、私と爽太君とで、もう1度産婦人科に行き、そのあと市役所で、母子手帳をもらった。母子手帳に書く私の名前は、「榎本くるみ」だった。名前を書く時、すごくドキドキした。


 式はまだ先だが、籍を入れたので、その週の水曜日の夜、家族だけでお祝いをした。圭介さんと、瑞希さんのご両親も来てくれた。

 私はまだ、つわりがあったので、あまり食べることは出来なかったが、みんなにお祝いしてもらい、本当に嬉しかった。

「私たち、ひ孫ができちゃうのね」

「ひいおばあちゃんになるのよ。信じられないわ」

と、圭介さんと瑞希さんのお母さんが、そう言った。


「いや~~、爽太も結婚か。早いな~~。つい、この間圭介が結婚したと思ったらな」

「爽太が生まれたのも、ついこの前の気がしますね。可愛かったですよね~」

 今度は、お父さん二人が感慨深そうにそう言った。

「圭介と同じ年で結婚して、お父さんになるとはね」

と瑞希さんも、お酒を飲みながら、嬉しそうに言った。

「お前、可愛がりそうだな~~。子供好きだもんな~~」

 圭介さんも、ビールを片手に笑いながらそう言った。


 みんなが、結婚も出産も喜んでいた。

 つい、数ヶ月前には、信じられない光景だった。私は仕事をばりばりしていた。結婚のけの字も考えていなかった。

 結婚して幸せになるってことも、考えていなかった。ただ、頑張って、一人でもたくましく生きていこうって思ってたんだ。

 だけど、実際、彼氏も友人も、両親すら離れていき、私は本当にひとりになったら、たくましく生きるなんてとんでもない。死を選ぶしかなかった。

 結局、なんだったんだろうか、私のこれまでの人生って…。


 お祝いが終わり、片付けをしてお風呂に入ってから、私は部屋に戻った。爽太君は、籍を入れた日から、私と同じ部屋で一緒に寝ていた。

 髪を乾かし、ベッドに座ってのんびりしていると、お風呂からあがった爽太君が、部屋に来た。

「くるみさん、大丈夫?疲れなかった?」

「うん。大丈夫。気分もそんなに悪くないし…。なんか、つわりもだんだんと、おさまってきている気がする」

「そう?良かった」


 爽太君は、お風呂上りで暑いからかスエットをはき、上半身は裸だった。

 私はまだ、爽太君の上半身を見慣れてなくて、目のやり場に困っていた。っていうのも、見とれちゃうからだ。情けないことに、たまに、爽太君に見とれちゃってる。それを悟られないようにしているんだけど…。

「今日は、嬉しかったな」

「え?」

「みんながお祝いしてくれて…」

「うん、ほんとに。でも、ほら、うちの家族ってなんでも、集まって祝うのが好きだからさ」

「そうだよね。仲がいいよね」


「父さんの両親と、母さんの両親が仲がいいのは、父さんが奇跡を起こして、がん細胞なくして以来みたいだよ」

「え?」

「みんなで、お祝いしたんだって。祝い好きはそれからじゃないのかな」

「そうなんだ。それからずっと、みんな、仲がいいなんてすごいね」

「うん。そうだね」


「なんか、思っちゃった」

「何を?」

「私の今までの人生って、なんだったんだろうって。虚勢張って生きてきた。誰にも負けないように強がって…。なんだったんだろう。何の意味があったんだろう」

「う~~~ん。そうだね…」

 爽太君は、しばらく黙って考えてから、

「でも、意味のないことはないと思うよ」

と笑って言った。


「私ね、あの海で爽太君に助けられた時、一回死んだと思う」

「へ?」

「死んで、生まれ変わったんだって思うんだ」

「生まれ変わった?」

「だって、人生が180度くらい、変わったもの」

「そう?」

「うん」

「じゃ、一回死んで、生まれ変わるってことを、体験するために、今まで虚勢張って生きてきたんじゃないの?」

「え?」

「いいじゃん。なんかそういうの。幸せになるための、道のり…みたいで」

「ええ?なんだか、波乱万丈な人生みたい」

「あはは。ドラマになるかな?小説にでもする?っていうか、自叙伝書いちゃう?」

「え~~。やだよ…」

と私は、笑って言った。


 爽太君は、ごろんと横になると、ベビーベッドの方を見つめた。

「気が早かったかな?もう、ベビーベッド置いちゃったの」

「うん、そうだよね」

 二人で、くすくす笑った。

「だけど、いいよね。ベビーベッドがあるって。なんかそれだけで、幸せになるね」

 爽太君はそう言うと、私のお腹を優しくなでた。

「生まれてきたら、あそこに寝るんだよ?わかってる?」

 赤ちゃんに爽太君は、そうささやいた。


「爽太君」

「え?」

「爽太君は、生まれなかったら良かったって思ったこと、ある?」

「ないよ。一回もない」

「そうか、やっぱり…」

「なんで?」

「ううん。思ったことあるのかなって、ほんと、素朴な疑問」

 爽太君の横に私も寝ると、爽太君は腕枕をしてくれた。


「俺、生まれて良かったっていうか、母さんのお腹にはいって良かったって思ってる」

「え?」

「なんか、俺の存在ってきっと、二人が生きていく力になってると思うんだよね」

「二人の…?」

「母さんと父さんのさ…。俺がいたことで、ますます生きるって方を見たと思うんだ。だから、奇跡が起きたんじゃないかな」

「うん、そうだよね」

「だから、俺、ほんと自分でも、すんげえタイミングでこの世にやってきたって思うんだよ。そりゃもう、奇跡ってくらいのタイミング」

「うん」

「その辺が、俺の自慢」

「え…?」


「あはは。なんか変な自慢でしょ?でも、まじでそう思ってる。俺が生まれてきたこと、母さんのお腹にはいったこと、これがもう、俺の自慢」

「……」

 爽太君は、天井を見ながら、そう言った。その横顔はきらきらしていた。

「だから、生まれなければ良かったなんて、一回も思ったことない。生まれて良かった、この世に来て良かったとしか、考えられない」

「それも、自分のためじゃないんだね」

「え?」

 爽太君は、顔をこっちに向けて、私を見た。

「お母さんと、お父さんのためでしょ」

 爽太君の目を見ながら、私は聞いた。


「うん。だけど、両親の生きるパワーのために生まれたって、嬉しくない?だから、やっぱり、俺のためにもなってるよ」

 そんな考え方が、好きだなって思いながら、爽太君を見つめていた。

「ハ…。クシュ!」

 爽太君がいきなり、くしゃみをした。

「あ、やべ…。裸だからか」

 そう言うと、爽太君は、もそもそと布団に入り出した。

「もう寝ようよ。疲れたでしょ?はい。くるみさん」

と、爽太君は掛け布団を持ち上げた。

「うん」

 私も、布団に潜り込んだ。


 爽太君はあったかい。私はけっこう寒がりで、冷え性だから、お風呂からあがってしばらくすると、足先が冷たくなる。その足を、爽太君の足にくっつけさせてもらう。爽太君の足はあったかくって、私の足が冷たいから気持ちがいいらしい。

「くるみさん、おやすみ」

「うん。おやすみなさい」

 一緒に布団に入ると、爽太君の方が先に寝る。とても寝つきが早い。その寝顔を見ているのが、大好きだった。


 それから、朝起きた時の、まだ寝ぼけている顔も、大きなあくびも可愛いし、寝癖だらけの頭も可愛い。

 2階には、トイレの前に洗面所があり、そこでいつも、爽太君は歯を磨き、顔を洗う。2階の洗面所は、ルーフバルコニーにつながっていた。ルーフバルコニーには、ベンチが置いてあり、たまに私は外の風に吹かれながら、そこに座って、のんびりとした。

 そこに、座っていると、爽太君が、歯を磨いている姿も見れる。

 先に歯を磨き、顔も洗い、私はぼけっとベンチに座って爽太君をこうやって、眺めていることが多い。


「はに?」

 爽太君は、はぶらしを口につっこんだまま、聞いてきた。

「はに…?」

 私は、そのまま聞き返した。はぶらしを出して、もう1度、爽太君は聞いてきた。

「何?ずっとこっち見てたけど…」

「え?なんでもないよ。ぼ~~ってしてただけ」

 爽太君は、口をゆすぎ、タオルで拭きながら、

「そこにいるの好きだよね。外の風が当たるから?」

って聞いてきた。

「うん。気持ちいい。たまに、潮風の匂いがする」

「ああ、そうだね。するよね」


 そう言ってから、爽太君は、顔を洗い出した。髪はまだぼさぼさで、会社に行く寸前でいつも直している。

「は~~~。また、しばらく忙しいかな」

「え?そうなの?」

「うん。あ、でも、ちゃんと夜は帰れるようにするけどさ」

「え?うん…」

「あれ?なんか反応薄くない?」

 タオルで顔を拭きながら、私の方に爽太君はやってきて、私の横に腰掛けた。


「俺ら、新婚なんだけど…」

「あ!そうだね。そういえば…」

「ええ?何それ。新婚だって忘れてた?もしや」

「ごめん、だって、家にはいつも、瑞希さんや誰かがいるし、あまり前と変わってないし」

「でも、部屋、一緒じゃん。寝る時は二人で寝てるでしょ」

「う、うん。そうだよね」

「なんか、ショックだな。俺、頑張って早めに帰ってきてるのにな」


「ごめん。爽太君が夜、隣にいてくれるのは、嬉しいよ。でも…」

「え?でも、何?」

「忙しいなら、無理しないでね」

「してないよ。くるみさんが待ってるって思ってたから、すんげえ仕事頑張れて、いつもの倍の速さでこなせてたのに…。っていうか、父さんに、それだけスピーディに仕事できたんだって言われたけど…」

「そうだったの?」

 私のために、仕事頑張ったり、早めに帰るようにしてくれてたってことが、嬉しかったけど、照れくさかった。こんな時には、なんて言ったらいいんだろうか?嬉しいと、素直に?それとも、甘えてみるとか?

「さ、朝ごはん食べに、下に行こう」

「うん」


 二人で、いつも一緒に一階に下りる。そうするとたいてい、瑞希さんが笑って、

「仲いいわよね」

と言う。そうすると、爽太君は決まって、頭を掻いてぼそって言う。

「いいじゃん、新婚だし…」

 私は爽太君と一緒に、朝ごはんを済ませてから、簡単なお店の手伝いをする。爽太君も会社に行くまで、掃除をしたり、たまにキッチンでの仕込みも手伝っている。


 春香ちゃんは、海に行く時間を少し遅らせて、お店の手伝いをしてから、行くようになった。聞くと、私が来るまでは、パートさんが10時にお店に出ていたから、春香ちゃんや、爽太君が交互に手伝うこともあったらしい。

 今のパートさんは、9時半に来てくれるので、助かっている。私は、家の中の掃除や、洗濯をしたり、アイロンをかけたりして過ごすことが多い。


「そうそう、招待状頼んでいたのが印刷されて、来てたわよ。送らないとね」

「あ、もう出来たんだ。早いね」

「そりゃ、あと式まで3ヶ月もないのよ。早めにしてもらったのよ」

「そっか…。じゃ、今日帰ったら早速、送るようにするよ。じゃ、そろそろ会社行ってくる」

 そう爽太君は言って、リビングに上がっていった。それと同時に、圭介さんがお店に来た。

「爽太、最近朝、早めに行くのね」

と、瑞希さんが圭介さんに聞いた。

「早めに行って、早めに終わらせて帰るようにしてるみたい」

と、圭介さんは眠そうな目でそう答えた。


「くるみさんは、ご両親に招待状送ることにしたの?」

「はい。爽太君と話して、送るだけ送ろうってことにしました」

「そう…」

 瑞希さんは、優しく微笑んだ。

「俺、何着たらいいの?瑞希」

「圭介は、モーニングじゃない?」

「え?!黒とかの?」

「そうそう」

「瑞希は何着るの?」

「お母さんがね、もう私ようにって紋の入った留袖を用意してくれたのよ」

「留袖?ああ、なんか、黒っぽい着物?」

「そう」

「へえ!瑞希それ着るの?色っぽそうだね!」

 圭介さんは、そう言って喜んだ。


「圭介のモーニングも楽しみね」

「ええ?親父くさくない?他にないのかな~~」

「紋付袴でも着る?」

「え?いいの?」

「さあ?どうなのかしら?」

「俺、紋付袴がいいや。じゃ、瑞希、白無垢でどう?」

「あはは。私の結婚式じゃないわよ~~」

「いいじゃん、どうせなら、一緒にまた式挙げるって。ダブル結婚式。俺、瑞希の白無垢姿見てないから」

「もう~~。くるみさんが困ってるわよ」

「あ…。ごめんごめん」


「いいえ、二人の会話聞いてるのが、私好きで…。本当に仲がいいですよね」

「バカップルってこの前、春香に言われたよ」

と圭介さんは、少しへこんで言った。

「バカップル?あははは。ぴったりね」

 瑞希さんは大笑いをした。

 どうやら、やたらめったなことで、落ち込まない圭介さんは、春香ちゃんの言葉ではへこむようだ。


 圭介さんも、ご飯を食べて会社に出かけた。私は少し、お店の掃除をして、それから洗濯物を干しに、2階に上がった。

 この前まで、いい天気だったが、最近はぐずつく天気が多い。梅雨に入ったのだから、しかたがないか。それでも、今朝は雲の合間からお日様が出ることもあり、洗濯物も乾きそうだった。


 その日の夜もまた、爽太君は早めに帰り、早速私と二人で、招待状に宛名を丁寧に書き、封をしていった。

「ご両親に、手紙でも添える?」

 私が父の名前を書いている時、爽太君は、そう言った。

「ううん。やめとく。なんて書いたらいいか、わからないもの。ただ、招待状に手書きで、来てくださいって書いてみる」

「そっか…」

 爽太君は、そう言うと、私のことをしばらく優しい目で見つめていた。

「何?」

「え?」

「何で、見てたの?」

「あ、なんとなく…」

「ふうん」


「くるみさんだって、たまに俺のこと見てる時あるじゃん」

「え?」

「朝も、ベンチに座って、俺のこと見てるじゃん。あれ、なんで?」

「嫌だった?」

「嫌じゃないけど、なんで見てるのかなって…」

「別に、理由はないよ。ぼ~~ってしてるだけで」

「ふうん…」

 本当は、歯を磨く姿も、顔を洗ってるのも可愛いなって見てるんだけど…。

 今まで、朝起きて、自分の顔を洗って化粧をしたら、お店の手伝いに行っちゃって、爽太君のそういう姿を見れなかったんだよね。


「くるみさんのご両親、結婚って聞いてすごいびっくりするんじゃない?」

「うん、でもお母さんには、稔と付き合ってる時にも、結婚するかもって言ってたから」

「え?あ、そうなんだ」

「だけど、相手が、爽太君で驚くかも」

「え?なんで、若造だから?」

「違うよ。若くてめちゃイケメンだから。お母さんけっこう面食いだし、喜んだりして」


「ええ?ちょ、やめて、そのイケメンって…」

「え?なんで?瑞希さんもよく言ってるよね?爽太君はイケメンだって」

「母さんにそう言われてるから、なんか拒否反応を起こすよ」

「ええ?なんで?!なんで?!」

「俺、そんなにかっこよくないと思うけど、もてないし」

 何を言ってるんだか…。五月ちゃんだって、爽太君に惚れてたじゃないか…。


「あ~~、びっくりした。まさか、くるみさんに言われるとは思ってもみなかった」

 爽太君は、顔を真っ赤にしていた。

「え?思ってたよ?私」

「え?!」

「口に出しては言わなかったけど」

「…あ、そうなんだ」

 爽太君は、少し驚いている様子。

 じゃ、上半身裸の爽太君に見とれちゃうっていうのも、実は歯磨きする姿や、顔を洗ってる姿が可愛いっていうのも、言ったらきっと、びっくりするだろうな。


 招待状の宛名書きを終えて、全部に封をすると、

「じゃ、これ明日郵便局に行って、出してくるね」

と爽太君は、自分の鞄に入れた。


 それから、一週間して、私の父からも母からも、返事が届いた。

 まず、返事を返してくれたことに感謝したが、やっぱり封を開けるのが怖くて、爽太君が帰って来るのを待つことにした。

 その日は、少し遅くに爽太君は、帰ってきた。爽太君が夕飯を食べ終え、お風呂から上がってくるのを待って、一緒に2階に上がった。


 部屋に入ってから、

「あのね。二人から返事が来たの」

と言うと、きょとんとして、

「二人?」

と聞いてきた。


「私の父と母」

「あ!招待状の?!なんだって?」

 爽太君は、顔を紅潮させ、聞いてきた。

「まだ、開けてない…」

「え?」

「怖くって、爽太君に見てもらおうと思って」

と言って、封筒を差し出した。

「そっか…」

 爽太君は、はさみを取り出してきて、

「両方開けちゃうよ」

と言ってから、2枚ともさっさと封を開け、中を取り出した。


「えっと、まず、お父さんのほう…。喜んで出席しますって」

「…!」

「じゃ、お母さんのほうね。ご結婚おめでとう、当日は主人と一緒に、出席させていただきますって」

「主人?あ、再婚相手?」

「うん、そうだね、きっと」

 私は嬉しくて、涙がどっと溢れた。

「良かったね」

 爽太君は、私に優しくそう言った。


「うん。嬉しい。来てくれるんだ」

 ボロボロ涙が止まらなかった。しばらく爽太君は、私を優しく抱いていてくれた。

「あ、でも、お父さんとお母さん、顔をあわせて大丈夫かな」

「大丈夫だよ。ほら、そういう心配は無しね。先のことは考えない。今できることをしようよ」

「今、できること?」

「そ。今は、来てくれるって喜ぶことと…」

「うん」

 それから、ぎゅって私を爽太君は、抱きしめながら、

「こうやって、俺と抱き合うこと!」

と、笑って言った。一緒に喜んでくれる、爽太君が嬉しかった。


 結婚式に二人が来るのが嬉しいけど、不安は残った。でも、きっとその日も爽太君は、こうやってそばにいてくれて、私が喜んでも、悲しんでも、受け止めててくれるだろう。

 そう思うと安心して、今爽太君のぬくもりを感じ、幸せを体全体で感じることが出来た。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ