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17 信じる心

 家に戻るとリビングに、爽太君がクロと一緒にいた。

「爽太?会社は?」

 瑞希さんがそう聞くと、

「ちょっと、抜け出してきた。くるみさんが心配で…。具合悪いのに、どこ行ってたの?」

 爽太君までが、顔色が悪かった。相当私のことを心配していたんだろう。爽太君、全部顔に出るからな…。

「病院よ」

 瑞希さんが、そう答えた。

「病院?なんだって?風邪?それとも…」

 爽太君は、早くに結果が聞きたいようだった。


「くるみさん、私ちょっと、買い物に行ってくるわ。爽太、くるみさんから聞いてね。じゃ」

 瑞希さんはそう言うと、買い物袋を下げて、家を出て行った。多分、私と爽太君の二人だけにしてくれたんだろう。

 私は、爽太君の横に座った。クロは、爽太君の横にねっころがったままだった。

「まだ、具合悪いの?顔色悪いね」

 爽太君が、私の顔を覗き込み、聞いてきた。

「うん…。ちょっと、気持ち悪い」

「大丈夫?薬とか出された?寝てたほうがよくない?」

「うん。薬は何も…」


「そうなの?あ…。それで…、どこが悪いって?」

「どこも悪くないよ。病気じゃないの」

「え?でも、病院に行ってたんだよね?」

「うん。産婦人科…」

 私はそう言ってから、爽太君の反応が怖くなった。

「え?」

 爽太君は、しばらく目を真ん丸くして、固まっていた。私は、とにかく、話さなくっちゃと思い、合間もあけず、ひたすら話を続けた。

「気持ちが悪かったのは、つわりなの。今、3ヶ月だって」

「……」

 爽太君は、黙ったままだった。私は、爽太君の顔を見るのが怖くて、見ないように視線を違うほうに向けていた。


「赤ちゃんいるってことだよね?」

 爽太君は、そう確認してきた。

「うん…」

 私は、小さな声でそう答えた。

「…。そっか…」

 爽太君も、小さな声でそうつぶやいた。そして、しばらく黙ってしまった。

 私は、我慢の限界が来ていた。これから先、爽太君が何を言うのか、まったく想像も出来ず、ただただ怖かった。怖くて、逃げ出したかった。


「つわりって…、きついんでしょ?」

「うん…」

「あ、お店は?出れるの?」

「わかんない…」

「いつまで、気持ちが悪いの続くの?」

「わかんない…」

「そっか…」

 爽太君は、また黙ってしまった。


 私も何を話していいかわからなくなり、しばらく沈黙が続いた。

 爽太君は、何を考えてるの?ショックだったの?そりゃ、そうだよね。爽太君との子じゃないもの。稔の子だもの…。

「ごめんなさい!」

 私は胸が苦しくなり、思わず謝っていた。

「え?!」

 爽太君は、すごく驚いた声をあげた。

「何?何で謝ってるの?」

「だって…」

 私は泣きそうになるのを、必死にこらえた。爽太君の子じゃないもの…とか、稔の子を今さら…とか、いろんな言葉が頭に浮かんだが、口に出しては言えなかった。


「どうして?」

 爽太君は、うつむいている私の顔を覗き込んだ。

「ご、ごめんなさい。頭真っ白で、説明できない…」

 それだけ言って、私はぎゅっと唇を噛んだ。

「……。ふう…」

 爽太君は、頭を掻いて、ため息をついた。

 ああ…。重苦しいため息だ。どうしよう…。どんどん私は心が、沈んでいった。


「じゃ…、じゃあさ、俺が質問するから、答えてくれる?いろいろと、気になることがあるんだけどさ」

 爽太君は、静かにそう言った。

「…うん」

 私は、下を向いたまま答えた。

「3ヶ月って言ったよね?じゃ、俺と会う前のことだよね?その…、稔さんが相手かな?」

「うん…」

「その…、くるみさん、稔さんに赤ちゃんができたこと、打ち明けるの?」

「言わない。ううん、言えない。だって、稔には梨香がいる…」


「じゃ、もし、もしも稔さんが梨香さんと別れてたら?」

「そんなことない。二人が別れるなんて…」

「わからないよ。可能性はあるでしょ?100パー別れないとは、言い切れないし。もし、もしも別れてたら、くるみさん、稔さんと寄りを戻すの?稔さんと結婚して、その子産むの?」

「そんなの…」

 出来るわけない。もう、稔に対しての思いはないのだから、私が好きなのは爽太君だから…。でも、言えない。


「稔さんに、父親になってもらうの?」

 私は、頭をぐるぐる横に振った。

「稔には、言わない…」

 それだけ言って、また私は唇を噛んだ。

「じゃ…、なんでごめんなさいなの?なんで謝るのかな?」

「……。だって…」

 涙が溢れた。下を向いていたから、私のひざに涙がぽろぽろとこぼれた。

「なんで泣くの?」

 爽太君が、それを見て聞いてきた。

「だ、だって…」

 それ以上は言葉が出ない。なんて言っていいかもわからない。


「えっと…、大事なこと聞くの忘れてたけど…」

「…え?」

「その子、産むの?」

「……」

 私は思わず、顔をあげた。爽太君の顔は真剣だった。今までにないものすごく、真剣な顔つきだった。

 産むの…?っていうのは、どういう意味なのか…。その子を産む気なの?稔さんの子なのにっていうこと?まさか、産む気でいるの?っていうこと?

 でも、そんなことを爽太君が言うとは思えない。だけど、もし爽太君が、稔の子なんて嫌だって思っていたとしたら?


「わ、わからない。どうしていいかも…、私…」

「おろすかもしれないってこと?」

 少し、爽太君の表情は変わった。暗い、怖い顔つきになった。

「もう、稔とは別れているし…。もう、稔になんの思いもないし…」

 それだけ言って、私の目から涙が出た。

「でも、その子には、そんなこと関係ないよね?」

 ああ…。爽太君は、産む気があるのかどうかを確認したんだ。まさか、産むの?じゃなくて、まさか、おろすの?って。


「でも…。私、もし産んだら、この子を憎んじゃう…」

「え?」

「お母さんのように、私もこの子に、生まれてこなかったら良かったのにって言うかもしれない」

「どうして?」

「どうしてって…。だって、この子がいなかったら幸せになれたのにって…」

「ちょ…、ちょっと待ってよ。なんでその子がいたら、幸せになれないの?」

「だって…」

 爽太君が好きで、爽太君のそばにいたいのに、いられないなんて…。


「だって…、何?」

「……」

「くるみさん、だって何なの?」

 爽太君は、怒っていた。顔つきも声も、全部怒っていた。

「そ…、爽太君と、一緒にいられなくなる…。この今の幸せ全部、手放さなきゃならない…」

「え?!なんで?!なんで手放すの?なんで、俺と一緒にいられなくなるわけ?!」

 爽太君は、半分あきれているようだった。

「こ、この子、爽太君の子じゃないよ…」

「だから何?」

「だから何って…」


「もう一つ、聞いてもいい?くるみさん」

「…うん」

 爽太君は真剣な目で、私を見て聞いてきた。

「俺のこと、愛してる?」

「……」

 私は、黙ってうなづいた。もちろんだ。愛してるに決まってる。だからこんなに、苦しんでる。

「じゃ、俺のこと、信じてる?」

「…え?」

「俺が、そんなことでくるみさんから離れるとでも思ってるの?それって、ずいぶんじゃない?」

「……」

「悪いけど、俺、めちゃくるみさんのこと愛してるよ。お腹の子が俺の子だとか、稔さんの子だとか、そんなの関係ない」


「……」

「俺と出会う前のことだよね?俺と出会って、結ばれたにもかかわらず、稔さんとセックスしたわけじゃないよね?」

「爽太君と出会う前だよ!」

「そうだよね?浮気してできた子じゃないよね?」

「も、もちろん」

「くるみさん、もう稔さんに、未練ないよね?」

「ない…。なんとももう、思ってないよ」

「そうだよね?」

「うん…」

「じゃ、俺のこと好きだよね?」

「…うん」

 私の目から涙が出た。爽太君が愛しくてしょうがない。好きだってことを思うだけでも涙が出る。


「それとも、俺、頼りないかな?」

「え?」

「まだ、22だし、7歳も下だし、その子の父親になるの、俺じゃ頼りないとか思ってる?」

「思ってない!そんなこと。思ったこともない」

「本当?」

「ほんとに…」

「……。はあ…」

 爽太君は、ため息をついた。

「じゃ、なんでごめんなさいなわけ?なんの問題があるわけ…?」

「だって、爽太君の子じゃないのに、爽太君に父親になってもらうなんて…」

「まだ、言うかな…。ああ、もう…」

 爽太君は、ぼりって頭を掻いた。


「じゃ、もし、くるみさんがもう稔さんと一回結婚して、子供も産んでて、別れたとする。子供はくるみさんが引き取ってて…。そのあとに俺と出会って、恋して、俺がくるみさんの子供もひっくるめて、好きになって、父親になる、くるみさんと結婚するって言ったら?」

「……」

「それとも、どうしていいかわからないから、その子供、殺しちゃう?」

「そんなことするわけない!」

「そうだよね。そんなことできないよね。でも、お腹の子だって、もう生命あるよ。生きてるんだよ?」

「……」

 私は、お腹を押さえた。この子さえいなかったらって思って、自分のお腹をたたいたことも、いきなり、後悔し出した。


「それで、俺はくるみさんと一緒にその子を育てる。家庭を持って、3人で暮らす。もしかしたら、くるみさんはまた、赤ちゃんを産むかもしれない。そうしたら、家族は増える」

「うん…」

「ね?それって、自然でしょ?何か間違ってる?たとえ、俺の子じゃないとしても、その子もひっくるめて、愛すると思うけど」

「…うん」

「それが、今はまだ生まれてなくて、お腹の中にいる。ただ、それだけのことだよ?なんで、そんなに父親かそうじゃないかをこだわるの?」


「……。怖い」

「何が?」

「私、この子を愛せるかどうか」

「え?」

「私、お母さんみたいにこの子に、生まれてこなければ良かったのにって言っちゃうかもしれない」

「え?」

 爽太君は、また、低い声で聞いてきた。

「この子を憎んだり、恨んだり、幸せになれないのをこの子のせいにしそうで怖い。私のお母さんが私にしたように…」

「…ちょっと、待ってよ」

 爽太君は、あきれたっていう感じで話をさえぎった。


「どうして、幸せに、なれないわけ?なんで自分が不幸になるって前提なわけ?」

「え?」

「この子を生んで、幸せになったらいいんじゃないの?それだけのことだよ」

「…幸せに?」

「そうだよ。幸せになることを選択したらいいだけ。なんで、自分が不幸になるって思うかな」

「……」

「それに、それってちょっと酷くない?やっぱ、俺のこと信じてないんじゃないの?」

「え?」

「俺とくるみさんと、この子とで、幸せになるってなんで思えないのかな」

「あ…」


「俺、もう一回言うよ。いい?ちゃんと聞いててよ。めっちゃくるみさんのこと愛してるの。お腹の子も、ひっくるめて、愛してるの。それだけじゃ駄目?」

「…ううん」

「そりゃ、もしかしたら、何か辛いことが起きるかもしれない。この子が、俺と血のつながりがないって知って、悩んだり、苦しんだりすることもあるかもしれないよ。でも、その時には、俺とくるみさんで、乗り越えりゃいいことだよ」

「……」

「そうでしょ?一人じゃないんだよ。俺がいるんだよ。二人で乗り越えたらいいじゃんか」

「…うん」


 私は目がうるんできて、爽太君の顔がはっきりと見えなくなった。

「わ…、私、幸せになってもいいの?」

「あったりまえでしょ」

「私…、そんなに爽太君に愛されてもいいの?」

「は?当たり前じゃん」

「わ、私、この子を生んでもいいの?この子を愛してもいいの?」

「何を当たり前のこと言ってるんだよ?!怒るよ、もう…」

「爽太君のそばにいてもいいの?」

「それも、当たり前です」


「爽太君とずっと、いられるの?爽太君の笑顔を見てられるの?離れなくてもいいの?私…」

「ああ、もう!」

 爽太君は、私のことをぎゅって力強く抱きしめ、

「くるみさんは、愛されべたで、幸せべたなんだ…」

と、優しく言った。

「でもね、愛されてもいいし、幸せになってもいいんだよ。それも全部当たり前のことだよ」

 涙が溢れて止まらなかった。私は爽太君に抱きつき、しゃくりあげて泣いた。

 爽太君は、優しくずっと、私を抱きしめてくれていた。


 しばらくして泣きやんで、爽太君の胸の中に顔をうずめて、爽太君の心臓の音を聞いていた。

 私の中にも、もう一つの鼓動があるんだ…。そう思うと、どうしてその子を消してしまおうなんて思ったのか、自分でもわからなくなった。

「くるみさん、結婚しようね」

「え?」

 思わず、顔を上げて爽太君の顔を見た。


「一応、プロポーズしないと…」

「え?」

「あ、でも、いまいち決まらなかった?今の…」

「……」

 爽太君は照れていた。

「……。うん…」

「あ、やっぱ、決まらない?かっこ悪かった?」

「そうじゃなくて…」

「え?」

「プロポーズの返事…」

「あ、そっか…」

 爽太君は、少しはにかんで笑った。


「母さん、知ってんだよね?くるみさんの妊娠」

「うん…」

「何か、言ってた?」

「ううん。ただ、爽太君と向き合って、ちゃんと話してって…」

「そう…」

「あ、爽太君のこと、信じてねって言われたんだ。なのに、ごめんね、私…」

「本当だよ。もっと信じてよ。自分の愛してる人でしょ?」

「……。そうだよね」

「幸せになることも、信じてよ。ね?」

「うん…」

 私は、笑って爽太君のことを見ると、爽太君も嬉しそうに笑った。

 二人でにこにこしていると、クロが尻尾を振って「ワン」って喜んだ。それまでは、静かにずっと、爽太君の後ろで、寝ていたが、狸寝入りだったのかもしれない。


 それからしばらくして、瑞希さんが帰って来た。

「おかえりなさい」

 爽太君が、瑞希さんを明るく出迎えた。

「あら…」

 瑞希さんは、爽太君の明るい笑顔を見て、一目瞭然と思ったのか、それ以上は何も言わなかった。

「俺、そろそろ会社戻るね。父さんには一応、心配だからくるみさんのこと見てくるとは言っておいたんだけど、さすがにもう戻らないとやばいや」

「そうね。でも昼ごはんくらい食べていったら?それとも、圭介の分も作るから持ってく?」

「うん。そうする」

 爽太君は、そう言うとにこにこしながら、クロの背中をなでた。


「くるみさんは、何か食べれそう?」

「サンドイッチくらいなら…」

「わかったわ。今、作るわね」

 瑞希さんは、お店のほうに行った。

「あ、そうだ。店、つわりなくなるまで、出れないでしょ?」

 爽太君が聞いてきた。

「うん…。ちょっときついかな」

「だよね…。俺がたまに手伝いに来てもいいんだけど…。でも、2~3ヶ月、つわりが続いたら、その間ずっとっていうのは無理だしな~~」

と、爽太君は、悩み出した。


「あの…」

「え?」

「さっきも、それで黙って、考え込んでたの?」

「え?さっきって?」

「私が妊娠してるって話した時」

「ああ。うん。つわり辛かったら、店は無理だろうしって、考えてたよ。なんで?」

「ううん。なんでもない…」

 なんだ。はじめっから爽太君は、私が稔の子を妊娠したのにたいして、悩んだり、ショックを受けたりしていたわけじゃなかったんだ。ただ、お店のことをどうしようかって、考えてたんだ。

 な~んだ…。ほっとした。私ってどれだけ、爽太君のことを、信じていなかったんだろうか…。自分が情けなくもなった。それと同時に、こんなにも愛されてることに気がつく事ができて、本当に嬉しかった。


「母さんに相談してみる。何ヶ月か手伝ってくれる人がいるかどうか…。あ、でも、赤ちゃん生まれたら、結局店には出れないか…。ねえ?」

「うん…」

「……。赤ちゃんか…。あれ?今3ヶ月なら何月に生まれるの?」

「えっと…。12月かな?年末とかになっちゃうかしら」

「そっか、冬生まれか。そっか~~」

 そう言うと、爽太君は、にやついた。


「どうしたの?」

「え?何が?」

「嬉しそうだから」

「あ、言ったでしょ?前に。俺、子供大好きなんだ。なんか、想像しただけでも嬉しくなって…」

「……」

「冬か~~。クリスマスあたりかな。あ、でもそれは、誕生日と、クリスマスプレゼントが一緒になったりして、かわいそうか」

「……」

「男の子かな、女の子かな…。くるみさんはどっちだと思う?」

「え?」

「俺はどっちでもいいけど。でも、男の子なら、一緒にあれこれ遊べるよな」


 私は爽太君が、本当に嬉しそうでただただ、驚いてて何も返事が出来なくなってた。でも、爽太君はそんなのおかまいなしに、話を続けている。

「名前どうしようかな。冬か~~。何がいいかな。俺も、春香も、母さんも春生まれじゃん。冬生まれって家族の中にいなかったよね。あ、父さんは夏、くるみさんも夏生まれでしょ?」

「う、うん」

「なんて名前がいいかな。なにがいいと思う?」

「……。爽太君、気が早い…」

「え?!そう?なんで?嬉しくないの?」

「……」

 本当に子供が好きなんだ。そういえば、瑞希さんも、爽太君は子煩悩で、いいお父さんになるって言ってたっけ。


 はあ…。なんだか、気が抜けた。力も抜けた。悩んで、悩んで、苦しんだのが馬鹿みたいだ。

「はい、お弁当できたわよ。圭介の分も」

 瑞希さんが、二つお弁当を持って、リビングに来た。

「それから~~、爽太」

「ん?」

「子供の名前もいいけどね、その前に、籍を入れるとか、結婚式を挙げるとか、そういうのがあるでしょ?」

「あ。そうだよね…。でも式、挙げられるの?」

「安定期になったら、つわりも落ち着くだろうし、お腹もまだ目立たなければ、大丈夫よ」


「安定期っていつ?」

 爽太君が、瑞希さんに聞いた。

「6ヶ月とかかしら」

「え?!あと3ヶ月しかないじゃん!」

「そうよ」

「まじ?じゃ、急がないと…」

「そうよ。あれこれ、いろんなこと急いでしないと」

「そっか…。わかった。あ、そうだ。店の手伝いしてくれる人も探さないと」

「そうね。求人の紙、店の前に貼るわ。それと、誰かいないか、爽太も声かけてみて」

「うん、わかった。じゃ、会社行ってくるよ」

「行ってらっしゃい!」

 瑞希さんと、私とで、一緒に爽太君を見送った。クロも尻尾を振って、玄関まで見送りに行った。


「なんだか、爽太、嬉しそうだったわね」

 瑞希さんも、すごく嬉しそうに私に言ってきた。

「はい…」

「ね?だから言ったでしょ?爽太を信じてねって…」

「はい…。本当にそうですね。一人で悩んで、馬鹿みたいでした。私…」

「ふふ…。さ、本当にこれから忙しくなるわね。あ、でもくるみさんは休んでること。いい?今が大事なとき。先生も言ってたでしょ?」

「はい。無理はしないことですよね…」

「そうよ。お店のほうなら心配しなくていいから。ね?」

「はい…」


 瑞希さんは、パソコンの前に座り、

「いろいろと決めていかなくちゃね。3ヵ月後に空いてる式場あるかしら?なかったら、レストランでもいいわね」

と、いろいろと調べ出した。

「瑞希さん…」

「ん?なあに?」

「いろいろと、ありがとうございました」

「ええ?何よ。いきなり…。それに、ありがとうございましたっておかしくない?これからがいろいろとあるんだから」

「そうですね。じゃあ、これからもよろしくお願いします」

 そう言って、頭を下げた。

「こちらこそ、よろしくね。あ!圭介は、なんと44歳の若さでおじいちゃんか~~。きゃあ楽しいわね!」

と、無邪気に瑞希さんは笑った。



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