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14 私の心の鏡

 翌朝、いつもと同じ時間にお店に行った。春香ちゃんがコーヒーポットを持って、ちょうど海に行こうとしていた。

「おはよう」

「あ、おはようございます。サンドイッチ、多めに作ってあるから良かったら食べてくださいね。それじゃ!」

 そう言って、春香ちゃんはクロと一緒に、元気よくお店を出て行った。

 水曜日は瑞希さんはいつも、7時半過ぎに起きてくる。爽太君が朝ごはんを食べるのにあわせて起きるようだ。でも、今朝は爽太君は、早めに起きてきた。


「おはよう、くるみさん。早いね」

「うん、水曜もいつもと同じ時間に、目が覚めるから。あ、春香ちゃんが、サンドイッチを作ってくれてるよ。食べる?」

「うん」

「じゃ、コーヒー淹れるね」

「ありがとう」

 爽太君は、サンドイッチを食べながらも、携帯を見たり、時計を気にしていた。多分、五月ちゃんが来るんじゃないかと、気にしていたんだろう。


 7時半に瑞希さんが、お店に出てきた。

「あら、爽太、早くない?」

「うん。目が覚めちゃって。あ、朝ごはんなら、春香が作ったサンドイッチ食べてるから」

「あら、そうなの。まあ、ずいぶんたくさん作ったのね、春香は…。これなら、圭介の分も大丈夫そう。私も食べようかな」

 瑞希さんもカウンターに座り、サンドイッチを食べだした。私は、瑞希さんの分のコーヒーも淹れて、二人に持っていった。


 8時を過ぎて、圭介さんもカウンターに来て、サンドイッチを食べ出した。瑞希さんが圭介さんにコーヒーを淹れ、二人でしばらく話をしていた。

 爽太君は、まだカウンターに座り、新聞を読んでいた。いや、読んでいるというより、ぼ~~っと眺めている感じで、時々時計に目をやっていた。私はキッチンの中で、洗い物をしていた。

 しばらくすると、お店のドアが開く音がした。

「あ!」

 爽太君の声がした。瑞希さんがすぐに、

「あら、五月ちゃん?」

と、不思議そうに言った。


 ああ…。やっぱり来たんだ…。

 なんとなく覚悟をしていたものの、五月ちゃんがなんのために、来たのかもいまいちわからず、私は少し動揺した。

 爽太君をキッチンからそっと見ると、直立不動になっていた。

「あの…、くるみさんっていますか?」

 五月ちゃんは怖い声で、瑞希さんにそう聞いた。

「くるみさん?ええ。キッチンのほうに…」

 瑞希さんがそう答えた。


 出て行くかどうか迷ったが、観念して私が出て行くと、五月ちゃんは、

「ちょっと爽太君と、お店の外に来て貰ってもいいですか?」

と聞いてきた。           

「え?はい…」

 五月ちゃんは、先に外に出た。爽太君は、

「くるみさんはいいよ、ここにいてよ」

と言ったが、

「大丈夫」

と私は言って、爽太君と一緒に外に出ようとした。


 その時後ろから、圭介さんが爽太君に、

「おい、爽太。なんで五月ちゃんが来たんだ?」

と、小声で聞いてきた。

「あ、うん。あとでね」

 爽太君は、圭介さんにそう言うと、私の背中に手を回して、ドアを開けて外に出た。

 後ろを見ると、窓ガラスから、圭介さんのきょとんとした顔と、瑞希さんの優しいまなざしの顔が見えた。二人の顔を見て、ちょっと私は安心した。


「五月ちゃん…」

と、爽太君が声をかけると、怖い顔をした五月ちゃんが、

「くるみさんって、最近お店で働きだしたんだよね?爽太君」

と聞いてきた。

「うん。そうだけど」

「爽太君の家で、一緒に住んでるんでしょ?」

「…うん」

 まだ、爽太君は私の背中に手を回したままだった。それを五月ちゃんは睨むように見てから、

「くるみさん、爽太君と付き合ってるって、本当ですか?」

と聞いてきた。


 うわ…。なんだか、おじけづく…。

「はい…」

「くるみさんのほうが、ずっと年上ですよね?」

「7歳上だけど…」   

「私が爽太君と、付き合ってるの知ってましたよね?」

「う、うん…」

「じゃ、なんで?」

 五月ちゃんの目が、真っ赤になった。泣くのをこらえてるように見えた。

「五月ちゃん、くるみさんのこと責めるの間違ってるよ」

 爽太君が、少し私の前に出てそう言った。私をかばおうとしているのがわかった。


 …いきなり、五月ちゃんが私に見えた。私の前にいる爽太君が、稔に見えた。そして、私が梨香だ…。

「爽太君は、黙っててよ。私はくるみさんに話しているの」

 …稔は黙っててよ。私は梨香に話しているの。

「くるみさんは関係ないって!」

 …梨香は、関係ないって!

「なんで?どうして?くるみさんいなかったら、私たち別れてないでしょ?」

 …なんで?どうして?梨香がいなかったら、私たち別れてないでしょ?

「くるみさんが、爽太君のこと、とったんじゃない?!」

 …梨香が、稔のこと、とったんじゃない?!

「違うって。くるみさんがいてもいなくても、五月ちゃんとは別れることになってたよ」

 …違うって。梨香がいてもいなくても、くるみとは別れることになってたよ。


 すべてが、だぶっている…。

 五月ちゃんは、私の心そのものだ。私が稔や梨香に言いたかったけど、言えなかったことだ。全部、心の中に閉まったことだ。

 五月ちゃんは、爽太君の体を押しのけ、私の前に来た。そして、

「爽太君のこと、本当に好きなんですか?私はずっとずっと、爽太君のこと、好きだったんです。途中からひょっと現れて、爽太君かっさらって絶対、私許せません」

とすごく怖い顔をして言った。


 …愕然とした。私を睨む五月ちゃんの姿が、私の梨香や稔を憎んだ心を、そのまま映し出しているようで…。

 胸が痛んだ。苦しくなった。私も稔と梨香をまだ許せていない。まだ、憎んでる。五月ちゃんのように…。

 五月ちゃんの顔を、私は見れなくなった。


「五月ちゃん」

 爽太君が、私と五月ちゃんの間に入ろうとしたけど、五月ちゃんはもっと、私に近づき、

「爽太君を返してよ!」

と叫んだ。その言葉も全部、私の心の声のような気がして、私は耳をふさいだ。

『稔を返してよ!』

 何度その言葉を、梨香に言いたかっただろう。でも言えなかった。


 あまりにも、胸が苦しくて、私はぼろぼろ泣き出してしまい、

「ごめんなさい…」

と謝っていた。

「それ、返してくれるってこと?とった事を謝ってるの?」

 五月ちゃんが、きつい口調で聞いてきた。

「いい加減にしろよ!五月ちゃん、怒るよ、俺」

 爽太君が五月ちゃんの腕を掴んで、私から遠ざけようとした。

「ねえ!なんで謝ったの?」

 それでも、まだ五月ちゃんは、私に聞いてきた。 

                  

 私は、涙が止まらなくなっていた。でも、ひたすら謝っていた。五月ちゃんにじゃない。憎んでいた稔と、梨香に…。

 なんで、憎んでいたんだろう。なんで、恨んだりしたんだろう。稔も梨香も悪くないのに、全然悪くないのに。

 私が、梨香の立場に立ってみてわかった。爽太君が、稔の立場に立ってわかった。


 アパートの前で、会ったときの稔…。本当に梨香が好きなんだ。梨香のために、私に会いにきたんだ。ちゃんと、逃げずに。

 私だけが逃げていた。私の苦しい心にも、向き合おうとしないで。誰とも、向き合おうとしないで。


 ぼろぼろ涙は止まらなかった。私はまるで、子供のように声を出して、泣き出してしまった。

「ご、ごめんなさい…」

 ずっと、仕事のことで悩んでいる私を、励ましてくれてた稔のことを思い出した。ずっと、私の話を真剣に聞いてくれてた、梨香のことを思い出した。

 私は、二人とも大好きだった。

 …大好きだったのに。なのに、なんで二人を憎んだりしたんだろう。


 私が、声を出して泣いているので、五月ちゃんは何も言えなくなっていた。爽太君は、ものすごく心配して、

「くるみさん…?」

と、私の顔を覗き込んだ。それから、優しく私を抱きしめた。

 私は、爽太君の背中に腕を回して泣いた。背中のシャツをぎゅって掴んで、わんわん泣いた。

「大丈夫?くるみさん、大丈夫?」

と爽太君は、私の背中をさすりながら聞いていた。


「なんで、あなたがそんなに泣くのよ?泣きたいのはこっちなのに」

 五月ちゃんが、私に言った。

「ひ…、ひっく…。ご、ごめんなさい…」

 私は、しゃくりあげながら、五月ちゃんにまた、謝った。そして、

「で、でも私、爽太君が本当に好きだよ。すごく大事で、愛しくて、爽太君がいなかったらきっと、生きていなかったよ」

と、そうつぶやいた。

「え?」

 五月ちゃんの顔つきが、変わった。

「爽太君の存在は大きいの。私、爽太君から離れられないよ…」

 そう言ってから、私は爽太君の胸に顔をうずめた。そしてまた、泣いていた。


 なんで、泣いていたのかもわからない…。わからないけど、泣いていた。

 爽太君はしばらく、私を抱きしめていて、それから、

「ごめん、五月ちゃん。俺がもっと、はっきりと言わなきゃいけなかったよね。俺も、くるみさんが好きなんだ。五月ちゃんに対しては、恋愛感情持てなかった。ごめん」

と五月ちゃんに向かって、謝った。

「……」

 五月ちゃんは、しばらく黙っていた。でも、

「くるみさんが、爽太君のこと本気ってわかったから、もういい」

とそう小さな声で言ってから、その場を去っていった。


 私は、なかなか泣き止むことが出来ず、しばらくそのまま、爽太君の胸に顔をうずめていた。

「くるみさん、大丈夫?」    

 爽太君がまた、優しく聞いてきた。私は、爽太君の胸から顔をあげた。

「あ、ごめん。私、爽太君のYシャツよごした」

 私の涙や、化粧がくっついてしまった。

「ああ、いいよ。着替えるから」

「ごめんね…」

「いいって…。それよりも、泣き止んだ?」

「うん…」


 ようやく落ち着いた私をまだ、爽太君は優しく抱きしめていた。

「五月ちゃんが、私に見えた」

「え?」

「私の鏡みたいだった」

「どういうこと?」

「稔と梨香を恨んで責めてた、私に見えたの…」

「……」

 爽太君は、黙りこんだ。


「私ね…、ようやく気づいたの。いろんな気持ちを全部押し殺して、自分の中に閉まっていたけど、何も言わなくても、ずっと、二人を苦しめてたんだね」

「え?」

「五月ちゃんは、きちんと自分の感情を出してた。気持ちをはっきりと言ってた」

「うん…」

「その方が相手を傷つけるように見えるけど、でも、黙って心の中でずっと憎んでいるほうが、傷つけるんだね」

「……」

 私は、黙っている爽太君の腕の中から離れて、爽太君を見つめた。


「梨香の立場に立ってみて、わかった」

「え?」

「梨香も苦しんでるし、傷ついてる。自分を責めたりしてると思う。私は、何も言わないで来ちゃった。梨香が苦しもうとそんなの関係ないって、梨香をほっといて江ノ島に来ちゃった」

「うん…」

「梨香はまだ、苦しんでるかもしれない。私を苦しめたって、私の人生狂わせたって、そう思い込んでるかもしれない。もしかしたら、ずっとキズを心に負ったまま、これから先、生きることになるかもしれない」

「うん…」

 爽太君は、優しくうなづきながら聞いていてくれた。


「私、それでもいい、ううん。思い切りずっと、苦しめばいいなんて思ってたの。でも違う。そんなのいいわけない。だって…」

 私の目からまた、涙が溢れ出た。

「だってね、私、梨香が好きだったの。稔のことだって好きだったの。好きだった人を、苦しめたままでいいわけないよね?」

 ぼろぼろ涙が出てきた。爽太君は、そっと涙をふいてくれた。

「くるみさんが、そう思うなら…」

 爽太君の目は、とっても優しかった。


「うん…。苦しめたままに、しておきたくないよ」

「そうだね。このままじゃ、くるみさんも苦しいよね」

「え?」             

「きっとね、稔さんや梨香さんを憎んでいたくるみさんが、1番傷ついていたと思うよ」

「…私が?」

「うん」

 爽太君の声も、まなざしも優しかった。あったかくって、また私は涙が出た。

「泣けてよかったね。すっきりしたでしょ?」

と爽太君は、優しくほほえんだ。

「うん…」


 爽太君は、視線を私の後ろに移した。私も振り返ると、お店の窓から、私と爽太君を見ている圭介さんと、瑞希さんが見えた。

「父さんと、母さんも心配してたんだろうな…」

「うん…」

 私は、爽太君の優しさやあったかさと、圭介さんと瑞希さんの優しいまなざしを感じながら、幸せをかみしめた。

「今の私は、すごく幸せだから、だから、ちゃんと稔や梨香にそれを伝えたい。そうしたら、二人も安心するよね?」

「うん。そうだね」

 爽太君はそう言うと、私の背中に手を回して、お店の方へと歩き出した。


 お店に入ると、瑞希さんが、

「コーヒーでも淹れましょうか。あ、くるみさんは、ミントティーの方がいいかしらね」

と、カウンターの中へと入っていった。 

「一件落着?」

と圭介さんが、爽太君に聞いた。

「うん…」

 爽太君はそう言うと、時計を見てから、

「あ、そろそろ行かないと。俺、その前に着替えてくるね」

と、2階に上がっていった。

 圭介さんも時計を見て、リビングの方に入っていった。


「ミントティー淹れたわよ。ここに座って飲んで」

と、カウンターに瑞希さんが、ミントティーを置いてくれた。

「はい」

 私は涙を拭いてから椅子に腰掛け、ミントティーを飲んだ。すっとしてあったかくって、胸の中にミントの香りが広がっていく。

「いろいろ人生起きるけど、そうやって絆は深まっていくのかもね」

と瑞希さんは言うと、カウンターの奥に入っていった。

 一部始終を見ていたのかもしれない。でも、詳しく聞かないで、そっとしておいてくれる。それが、瑞希さんの優しさなんだって、いつも感じる。

 そして、瑞希さんはいつでも、爽太君のことを信じている。それが伝わってくる。


 私は日曜日、午前中お店を休ませてもらうよう、瑞希さんにお願いした。

「いいわよ。春香が手伝ってくれると思うし…。午前中だけでいいの?」

「はい。用が済んだら、すぐに戻ってきますから」

「そう…。一人で出かけるの?」

「はい」

 本当は、爽太君についてきてもらいたかった。でも、そこまで甘えるわけにはいかないだろうな。

 私は、お店の掃除とか、家の掃除をその日、瑞希さんと一緒にした。それから、お昼を一緒に、海の見えるレストランに食べに行った。


 海が見渡せる席に案内され、二人で席に着き、その日のランチのメニューを注文した。

「ここ、たまに圭介と来るのよ」

と、瑞希さんは、笑って言った。

「いいですね。いつまでも、二人でデートして…。羨ましいです」

「あら、そう?でも、この前、爽太とデートしてたじゃない」

「え?はい、そうですけど…」

 私は少し、照れてしまった。


「ね、日曜も爽太と行ってきたら?爽太なら、喜んでついていくわよ」

「でも…。私、元彼に会いに行くんです」

「え?そうなの?」

「はい。それから、親友だった人にも会いに…」

「親友だった?過去形なの?」

「あ…。はい…。いえ…」

 そうか…。過去形にしたのは、私だ。勝手に関係を終わらせたんだ。


「元彼、私の親友と付き合い出したんです。それで、別れることになって」

「あらら…。三角関係だったの?」

「はい。でも、私全然気づかなくって。仕事ばっかりしていたから」

「そう…」         

「それで、今日、五月ちゃん見てて思ったんです。私は元彼と親友のことを恨んだけど、でも、二人ともけして悪くなかったんだって。誰も、悪くないんですよね」

「う~~ん。そうね。その親友があなたから、悪意で彼を奪ったりしてなかったらね」

「そんなことしません。そんなことができる子じゃないです」

「そう…」

 瑞希さんは静かに、そう微笑んで言った。


「そんなことができる子じゃないって知ってたのに、私、恨んだんですよね」

「自分のことを責めてるの?くるみさん」

「いえ…。そういうわけじゃ…」

「二人を恨まないと、苦しかったんじゃないの?親友だった人、彼だった人を憎まないとやっていけないくらい、辛い思いをしちゃったんじゃないの?」

「……」

 私は、何も言えなかった。瑞希さんは、優しい口調だったけど、目が真剣だった。


「二人を憎んだ自分を、責めたりしなくていいのよ。それだけ傷ついていたんだから。そしてきっとね、爽太に会って、ようやく二人のことを許せるくらいまで、心が回復したのよ」

「え?」

「だからね、いいの。過去のあなたのことを、今のあなたが裁いたりしなくてもいいの」

「……」

 私の目から思わず、涙が出ていた。

「大丈夫。誰だって、苦しかったら誰かを憎もうとしたりするわよ。そんな自分がいてもいいのよ」

「はい…」


「でも、やっと苦しみから、抜け出せたのかもね」

「はい。爽太君や、瑞希さんのおかげです」

「え?違うわよ。くるみさんの力で、回復したのよ。誰でもね、ほら、怪我をしたら自分で治そうとするじゃない?治癒力があるでしょ?心だってあると思うわ。ただ、治癒力をアップしたのは、爽太の存在だったかもしれないけどね」

「ものすごく大きいです。爽太君の存在は」

「…そう?」

 瑞希さんは、また、優しく微笑んだ。


「はい。あったかくって、優しくって…。どんどん私は素直になれるんです。そのたびに、泣いたり、溜め込んでいた感情を出せて、それできっと、心が軽くなるんですね」

「あなたも、心を開いているのよ。爽太に。お互いが心を開いているんだと思うわよ。爽太だって、くるみさんといると、自然体っていうか、とても穏やかだし」

「お互いが?」

「う~~ん。なんだろうね?私も圭介と出逢って、なんだったのかなって思うけど、なんか、運命みたいなものかしらね?出逢うべきして出逢った相手…」

「…え?」


「年月なんか関係ない。そんなの関係なしに、相手の存在が大きくなって、とても大事になって…。不思議よね~~。そういう風に思える相手に、めぐり逢えるって。奇跡とも思えるわ」

「そうですよね…」

「ふふ…。でも、やっぱり決められてたっていうか、出逢うようになっていた。必然だったって思うのよね、私」

「……」                     

 私は、瑞希さんの言葉を聞いてて、どきどきした。そんな人に私はめぐり逢えていたんだ。感動で胸がいっぱいになっていた。

「だからこそ、大切にしたい相手だわよね。ひとときも、無駄に出来ない…」

「はい…」


「今を大事に生きたいって、思っちゃうわよね~~。それに、そんな人にめぐり逢えたことに、感謝しちゃうわよね~~~」

 瑞希さんは、すごく嬉しそうに話を続けた。

「でね。最近思うのよね。それは圭介だけじゃないって。爽太だってそう。私の子供に生まれたのも必然。春香もよ。そしてくるみさんとの出逢いもね」

「え?」

「そして、今目の前にいるくるみさんが、私は愛しいんだわ」

「え?!」

「ふふ…。なんかね~~、娘とも違う、うまく言えないけど、こうやって出逢えて本当に良かったって思えるのよね」

 私は、また目頭が熱くなり、涙が出そうになった。思わず、鞄の中からハンカチを出して、目頭を押さえた。


「あ、泣きそう?私、泣かせちゃったかしら?でも我慢しないで、泣いちゃっていいわよ」

と言ってから、瑞希さんは笑っていた。私も、思わず笑ってしまったが、一緒に涙も出てきて、泣いているんだか、笑っているんだか、わからなくなっていた。

 海はとても穏やかで、気持ちが良かった。瑞希さんと二人で食べた、お昼ごはんも美味しかった。

 心が、どんどん安らいでいくのを感じた。どんどん悲しい思いも、苦しい思いも、浄化されていくような気がしてならなかった。

                    


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