表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/25

12 愛しい人

「違う、違う。ここじゃなくて、自分の部屋で…」

「朝まで、ここにこうしていたいな」

 爽太君は、すっかりベッドに大の字になってしまった。

「え?駄目だよ。そういうわけには、さすがにさ…」

「でも、鍵かけてるし、ばれないよ」

「ばれるばれないの問題じゃなくて…」

「おやすみ…」

「え?」

 爽太君は、そのまま目をつむって、本当に寝そうになっていた。


「寝ないで、起きて!本当に酔ってる?あ、じゃ、私が爽太君の部屋で寝ちゃおうかな」

と、冗談を言っても、目を開けない。

「え?寝ちゃった?まさか…」

 すう…って、寝息までする。

 どうしよう…。引きずって部屋に、連れて行くわけにもいかないし、このまま横で寝るわけにもいかないし…。やっぱり私が爽太君の部屋で、寝るしかないのかな…。


 ちょっと、途方にくれていると、いきなり、爽太君が腕を掴んだ。

「え?」

 そのまま、ぐいって引っ張られた。                     

「起きてるの?」

 爽太君は、目を開けた。

「あ。起きてるんじゃない!もう~~!」


 手を振りほどいて、たたくふりをすると、その手をまた掴まれ、そのまま、押し倒されてしまった。

「え?ちょっと、待って…」

 でも、爽太君は、全然私の話を聞こうともしない。

「爽太君?」

 両手を掴まれたが、少し私が足をじたばたすると、

「くるみさん、俺のこと本当に好き?」

と、聞いてきた。

「も、もちろん…」

と答えると、

「俺も」

と爽太君は言って、キスをしてきた。


 わ~~~~~~~っ!ええ?確かに、確かにね、爽太君のことは好きだけど…。

 頭は真っ白だ。爽太君、酔ってるから?ええ?いきなり鍵がついたとはいえ、同じ階に瑞希さんたちも、春香ちゃんだっているんだよ?

 両手を掴んだ手は力強いし、足をいくらじたばたさせても、全然、爽太君はどこうともしないし、全体重を乗せているんじゃないかってほど、重いし…。だから、私は体を動かすことすらできないし…。

 何度も爽太君にキスをされ、ああ、もう観念するしかないかもと覚悟を決めた。でもせめてこの、こうこうとついている、部屋の電気だけでもどうにか消してもらおうと思い、

「爽太君、電気…」

と言ってみた。でも、爽太君は、まったく動く様子がない。


「電気、消してほしいんだけど…」

 もう一度言ってみたが、やっぱり動きそうにもないし、何も言わず首筋や耳にキスをしてくる。

「爽太君…」

 爽太君は、顔を上げ私の目を見て、黙っている。

「あの…、ね…?」

「ああ、電気?」

 やっとこ、爽太君はそう答えた。でも、動かない。


「うん、電気…」

「……。くるみさん、じゃ、いいの…?」

「え?!」

「電気消してもいいの?そしたら俺、このまんまくるみさんのこと抱いちゃうよ?」

「……」

 何を今さら~~~。嫌だって言ったらやめてくれるの?すごく返事に困ってしまうと、

「あ、すごく困ってる?」

と、私の顔を見てそう言った。

「うん」

と言うと、少し爽太君は笑って、

「ごめん」

と言って、体を起こした。


「ちょっと、酔っ払ってました。部屋、戻るね」                  

 爽太君にそう言われ、私は力が抜けた。えええ?私の決心はなんだったんだ。電気を消してと言うのだって、恥ずかしかったのに!

 ベッドから降りようとしている爽太君の背中を、べちってたたいた。

「いて…。え?何?」

 爽太君は、びっくりして振り返った。

「……」

 私はいったい、どんな表情をしていたのかわからないが、爽太君が私の顔を見て、目を丸くした。


 私は多分、爽太君をにらんだつもりだった。私のこと困らせて、憎らしいって思っていたから。

 でも、爽太君の反応が、なんだか違っていて、

「え?」

と、固まっていた。

「ちょ…。くるみさん、そんな目で見られたら、部屋に戻れないよ、俺…」

「え?」

 そんな目?…どんな目?

「あ…。えっと…。俺、どうしたらいいのかな」

「…え?」

 爽太君は、本当に困っている様子だった。私はいったいどんな目で、爽太君を見ちゃったんだろうか。


 爽太君は、ベッドに座ったまま黙り込み、それから、

「やっぱり、電気消す…?」

と聞いてきた。

「え?」

「あ、やっぱり、部屋戻ったほうがいいかな?」

「……」

 じらされてるのかな、これ。もしかしてわざと私の反応を見ているんだろうか。


 爽太君は、そのまま何も言わずに私の顔を見ていた。私がなんて言うかを、待っているようだった。

「部屋に、戻れば?」

と言ってみたが、爽太君がまた、背中を向けてベッドから降りようとすると、私の手が勝手に、爽太君の腕を掴んでいた。

「くるみさん、その手どけてくれないと、俺、戻れないんだけど…」

 爽太君はベッドに座り、そう言ってきた。

「うん。わかってるけど…」

 腕を掴んだまま、離せないでいる。

「……。俺に、いて欲しいってこと?」

「……」


 私は黙ったまま、腕を掴んでいた。すると、爽太君は、私の手を強引に掴んで離し、ベッドから降りた。

「あ…」

 なんだか、拒否をされたみたいで、心がずんと沈んでいった。ちゃんとこのまま、ここにいてって素直に言えば良かったかな…。

 爽太君は、ドアのそばに行き、電気のスイッチを切った。

 いきなり部屋は暗くなったが、外の電灯からの明かりが入ってきていて、真っ暗にはならなかった。

「俺、もう部屋に戻ってって言われても、戻らないからね。でも、引き止めたのは、くるみさんだからね」

 外の明かりで、うっすら見える爽太君の表情は、すごく優しかった。触れる手もあったかくて、優しかった。   

          

 シングルベッドに二人で寝るのは、とっても窮屈だったけど、でも、私は爽太君の胸に顔をうずめながら、朝まで一緒にいた。爽太君の寝息が髪にかかり、くすぐったかった。

 爽太君は、熟睡していたけど、私は何度も目が覚めた。目が覚めては、爽太君の顔を見たり、寝息を聞いたり、爽太君のぬくもりを感じたりした。

 爽太君の寝顔は、すごく愛しかったし、爽太君のぬくもりは、すごく優しかった。

「変なの…」

 稔のアパートにも泊まったり、稔も泊まりに来たりしていたが、こんなにぬくもりにあったかさを感じたり、寝顔が愛しいって思ったことってないな…。


 爽太君は結局、朝まで熟睡をしてて、朝5時になり、私はそっと爽太君の腕の中から抜け出して、服を着た。

 それからそっと部屋を出て、シャワーを浴びた。一階にはまだ誰もいなくて、物音をなるべく立てないように気をつかった。

 本当は、体中に爽太君のぬくもりが残ってて、そのままでいたかった。でも、なんだか、瑞希さんや圭介さんに会うのに気が引けて、シャワーを浴びた。特に瑞希さん、勘が鋭いし、私から爽太君の匂いでもしちゃうんじゃないかって、そんなことまで思ったから。


 それから、またそっと部屋に戻り、カーテンを開けた。日が差し込んできて、その光で爽太君は目が覚めたようだ。

「あ、おはよ…」

 静かにそう言うと、爽太君は、少しぼ~ってしてから、

「あ!」

と、いきなり体を起こして、

「くるみさんの部屋だったんだ」

と慌てて、ベッドを抜け出した。

「やべ、俺の部屋に戻るよ。今何時?」

「もうすぐ6時」

「春香も、母さんも起きちゃうね。じゃあ…戻るね、俺」

「うん。またあとでね」

 爽太君は、軽く私のほっぺにキスをして、静かに自分の部屋に戻っていった。


 爽太君が今の今まで寝ていたベッドに、横になった。まだ、爽太君のぬくもりも、爽太君の匂いもした。

「は~~、愛しいな。大好きだな」

 昨日、すごく優しく抱きしめてくれたことを思い出しながら、私はつぶやいた。

 でも、今日は自分の表情や目つきに気をつけなくっちゃって、ベッドから起き出し、化粧をして、顔をぱんぱんとたたいた。

 特に、爽太君を見る目…。絶対今までと違っちゃうかもしれない。そういうのを、悟られないようにしないと…。

 そんなことを思うと、なんだか、一階におりて瑞希さんに会うのが、怖いような、どきどきするような、変な緊張感がただよっていた。

                   


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ