78. 竜なんです
ローゼリア様の攻撃も、止まっていました。
事態がよく、飲み込めないようです。
ふと見るとその場にいる人の中に何故か、ウィッシュバーグ先生もやってきていました。
宰相は、腰を抜かしています。
「とりあえず。誰か、宰相を牢へ」
「御意」
事態が一旦落ち着いたのを見計らって、すかさず陛下が動きました。
茫然自失の宰相は、大人しく騎士達に引っ立てられていきます。
床に横たわっていた第三皇子も、騎士が数名やってきて厳かに運ばれていきました。
「わ、わわわ、わたし、失敗した、の? しっぱい、しちゃった、どうしよう……」
ローゼリア様がブツブツと呟きながら膝から頽れかけます。
それを慌てて受け止めると、私は彼女に語りかけました。
届くかはわかりません、陳腐かもしれません、けれど。
「ローゼリア様、助けてって、言って良いんです。勿論言った先の全員が助けられるはずがないです、力を持つ人はごく一部ですから。けど私これでも家族には恵まれてるんです、みんなで力を出し合えば、あなた一人の手助けは、きっとできますよ」
「……あ、あああああーーっ。うあああああああっ」
ローゼリア様は泣きじゃくります。
私は、背中をぽんぽん、と優しくあやしました。
何が彼女を変質させてしまったのかはわかりません、けれど、その背中はあまりに弱々しく、とてもか細い。
少し落ち着いた頃合いで、彼女もまた騎士の方に連れて行かれました。
『なんかよーわからんが、残ったやつは、特に何かしよーってんじゃない感じだな? うんうん。で、何が起こったか。説明!!』
竜? が突然口を出してきました。
どうやら事態が少し収束するまで良い子で待っていたようです。
賢い。
何歳生きているかわからない対象に使って良い言葉かわかりませんが、そんなことが頭に浮かびました。
誰も口を開かず、また私が一番近くにいたので、なるべく簡潔にけれど話がわかるように、竜に向けて知る限りのこの場で起こったことを話して聞かせました。
『ふんふん、邪竜とやらがいてその封印を解くために皇子様がねー。ご愁傷様だわ、ってか邪竜って俺?! 俺な訳??』
「はい、伝承ではそうなっていまし、た?」
『人の子めんどい! 隔世するとそんなに話変わっちゃうの?! 俺ってば単純に血とか争いごと嫌いだから、人の家の上でどんぱちやってくれるなよって、釘刺しただけなのに!!』
「えっ?!」
『つかまじどーなってんの? ハンスヴァン!』
「僕に言わないでくれるかな〜? 不干渉って前にも言ったじゃない」
竜が医務の先生に突然話しかけ、また先生も竜と仲良さげに返事を返しています。
その場の誰もがきっとこう思いました。
なんの話? と。




