76. たどり着くんです
たどり着いたそこは、阿鼻叫喚でした。
城の外では中から逃げてきた人でごった返し、人が城門から溢れ出てきていました。
近づいてわかったのですが、やはり上空には竜らしき影があります。
そんなところにいちゃおれないとばかりに、城で雇われている人でしょう、侍女らしき方や料理人、色々な人が逃げ出ていきました。
その中を私は逆行していきます。
途中衛兵の方に呼び止められた気もしましたが、返事をせず走って中へと入り込みました。
お仕事ちゃんとしていましたって、伝えたいと思いますので見逃してくださいね!
見咎められても面倒なので、そこからは秘密の抜け道を使って目的地へと進みます。
そうして目的地にと思われる場所に着いた瞬間、
「ローゼリアよくやった!!」
年を召した方の、けれどよく通る声が辺りに響いたのが聞こえました。
私はその声に便乗してするりと、その場所――城の地下深く、石造りの大広間のその端――に落ち着きます。
辺りを見回すと、消えかかった光の中心には床に紋様が書いてあり、そこには血ぬれの第三皇子が倒れていました。
あの出血量からして、多分もう事切れているでしょう。
心の中で安らかに眠れますようにと祈ると、さらに周りを見渡します。
その場には、第三皇子の傍らにいるローゼリア様、先ほど声を出していた老齢の男性、レイドリークス様、多分国皇陛下、お父様と陛下達を守る騎士の方々がいました。
ローゼリア様を中心に、遠巻きに皆近寄るのを躊躇っているようです。
そんな中で、老齢の男性だけがローゼリア様に気安く話しかけ、また距離を詰めているようでした。
「これで、我が悲願が達成できよう!! 君の願いはなんだったかね」
「ふふふ。宰相様、わたしの願いはいつだってただひとつ……愛する方と添い遂げる事ですわ」
「お前達はなんの話をしている?! この状況がわかっているのか!! 宰相!!」
大穴の空いた天井から見える上空を見やりながら、国皇陛下が叫びます、老齢の男性は宰相だったようです。
「わかっていますとも陛下。私はずっとずっと私こそがこの国を治めるにふさわしいと思っていたのです。本当はもっと穏便に、竜と第三皇子を使って成し遂げたかったのですが、贄がなければ封印は解かれない。皇子はローゼリアが尊い犠牲としてくれました。ご冥福をお祈りしますよ」
「勝手なことを。皇族を殺めた上国家転覆及びに邪竜復活に加担するなぞ、上に立つものの器でないことがわからぬか!!」
「老害はちょっと黙っててもらえます?」
ローゼリア様の言葉と共に、灼熱のような炎が二人の元へと向かいました。
宰相も陛下も気付き黙ってそれを避けます。
「何をするローゼリア!!」
「うるさいって言ってるのよ。あなたはこの小娘に良いように使われた無能。竜はわたしに応えるわ、だって封印を解いたのはわたしなんですもの! この力を使って、レイドリークス様と共にこの国を統べるの、ね? レイドリークス様。そうすればわたし、もう怖くないわ」
ふわりと無垢な少女のように、ローゼリア様は微笑みました。
私は、その言い方や雰囲気に得も言われぬものを感じて思わず呟きます。
「ロー、ゼリア、さま?」
グギャガガアアアアアアッ!!
空では、竜が雄叫びを上げています、なんだか怒っているようにも聞こえました。
彼女は空を一旦見上げた後、呟いた私の方へと視線をやります。
その瞳はまるで、劫火のようでした。
「ずっとずっと嫌いだった、いつだってレイドリークス様の瞳に映っているのはあなた。昔からあなたしかいなかった。こんなにもわたしが想っても、助けて欲しくても誰も何も気付かない。ねぇレイドリークス様。わたしと一緒にいてくれるならば、この女も生かしましょう……どうされます?」
ローゼリア様が無邪気に笑います。
何かが彼女をここまで堕とした、その事実に腹立たしさと物悲しさを感じました。
「俺はもう逃げないと決めたんだ! 悪いがその提案はのめない。ルルの命も諦めない」
「……そう。ならば皆で消えましょう? もう何も心配しなくて良い場所に行きたい。――願いを叶えなさい邪竜よ!!!!」
その切実な願いに、けれど邪竜はただ上空を咆哮を上げながら飛ぶばかりで。
狼狽えた後、事態を察し、ローゼリア様は乾いた笑いを浮かべます。
「ふふ、そう、この世界はわたしを裏切るの。もういいわ、わたしの手で、終わらしてやるっ!!」
「させません!!!!」




