73. 本を読むんです
「でっ、殿下何おっしゃってるんですか?!」
私はカシューの前なのにとか、他にも人がいるのにと慌てましたが、障害を乗り越える努力をするとそう誓ったのを思い出しました。
けど何も友人の前で……とレイドリークス様を少し睨みつけます。
にもかかわらず、彼はこちらを見ながら頬を染めるとほわほわとでも形容するのが似合う面持ちで言葉を続けました。
「ちょっと違ったかな。前と同じように、求婚できる立場になりたくて。今だとまだ好きは言えるけどお嫁さんになっては言えないからね」
「そうなんですのね。わたくし応援しておりますわ、頑張ってくださいましね」
「ありがとう、エンペルテ嬢。俺はあらかた終わったからもう帰るよ、君達もあまり遅くならずにね」
別れの挨拶をし終わると、レイドリークス様は善は急げとでもいうように、足早にその場を去っていったのでした。
「殿下ったら、慌ただしいこと。よっぽどルルの事が大事ですのね」
「……!! そっそんなことは」
「あるでしょうあのお顔。わたくし達気をつけなくては……女生徒達の嫉妬がきては大変だわ。ルル、わたくしから離れては駄目よ?」
カシューが私をみながら、右手で握り拳を作って熱意を伝えてくれます。
「! はいっ、わかりました」
友人が身を案じてくれる、とても、貴重な体験です。
私はじーんとしながらこくこくと頷き返事をしました。
その後は彼が手渡してくれた本と一緒に、いくつか建国について記述のある本を借り、カシューとは別れて弟と帰路についたのでした。
帰宅後早速私は借りてきた本を読み進めていきます。
絵本まで借りてきてしまいましたが、余分だったでしょうか? けど絵が綺麗だったので、これはこれでよし。
と、自分を肯定しつつ、それらに目を通していきました。
「……首都の名前の由来は、建国皇の友人に由来する」
一通り読み終えると、私は一つ息を吐き出しました。
結構な文章量でしたので、メリーアンを呼ぶと飲み物を頼みます。
音読していた訳ではないのですが、集中して読み過ぎていたせいか時間が経ち喉が乾いていました。
持ってきてもらった紅茶を口に含むと、ほ、と息が出ます。
図書室で借りた本には、大して私が必要な情報はのっていませんでした。
強いて言えば、首都が建国皇の友人の名前だったということくらいでしょうか。
実は日記を療養の間にだいぶ読み進めていて、どうやら日記は建国の頃の話であることがわかってきていました。
そして日記の書き手のお婆様がどうも、建国皇の友人を知っているらしき記述が出てきたのです。
糸口になるかもしれない、と思い建国記などを読み漁ってみたものの……肝心の友人の名前がわからないので照らし合わせができません。
「もう少し、日記を読み進めなければですね……」
日記の方を読むことにするかどうか迷ったところで、夕食に呼ばれ。
まだ無理をすることの叶わない体をまずは休ませることにし、その日はそれ以上のことはせず就寝することにしたのでした。




