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殿下、私は困ります!!  作者: 三屋城 衣智子


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69. ぺろっとされるんです

 どうしましょう、私、臭くないでしょうか?

 自分の匂いを嗅いでみますが、いまいちよくわかりません。

 迷うところでしたが、けれど、大事な用かもしれず羞恥に見てみぬ振りをして返事をしました。


「はい、大丈夫ですよ」

「入っても?」

「はい」


 なるべく身綺麗になるように髪を撫で付け、私はレイドリークス様にこたえました。


「調子は、どうかな?」


 衝立(ついたて)の脇から顔を覗かせたあとでこちらへと歩いてきた彼は、とても気遣わしげな表情をしながらきいてきます。


「だいぶいいみたいです。お医者様からも、動いても良いとの許可もいただいているようですし」

「そう、それなら良かった。いや、怪我したのは良くはないのだけれど」


 少し、苦笑いをすると傍らに置いてあった椅子へと腰掛けた彼は、不意に手を此方へと伸ばしてきました。

 そして、私の頬を撫ぜながら(とろ)けるような顔をし。


「心配した。けど、無事で良かった。君の思いは聞けたからもう遠慮はしない。超えるべき壁はまだ高いけれど、諦めず登って乗り越えようとするのは自由だと思うのだけど、良いかな?」

「……へ?」


 と、爆弾発言をしてきたのでした。




 数十秒は間が開いたでしょうか?

 私は事態があまり飲み込めず、よくわかりません。

 そのうち彼は私の返事を待たずにあれこれと今後の計画? とやらを話し始めました。


「まずは俺の家の成り立ちというか、なぜ皇家の子供が公爵家へと養子に行かなければならなくなったのか、その大元の経緯を調べてみようと思うんだ。詳しくは言えないのだけれど、当事者になってみるとあまりにもその内容が酷くてね。それに、もしも俺が養子に行かなくて済めば、君の家に婿入りできるだろう?」


 え、婿??

 どどど、どうなってます、かね?

 何が変わって何故こういった話が出ているのかが、私に見えてきません。


「あ、ああああの、婿入りって……?」

「そうだった。まだ俺から言っていなかったね」


 言いつつ、彼が今度は私の頬を両手で包みました。


「俺も好きだよ。今はまだ環境が整っていないけれど……整いさえすれば君への求婚をしたいと、そう思ってる」


 ぼふん、と顔から火が出るかと思うくらい驚きと羞恥と嬉しいとどういうこと? がないまぜのぐるんぐるんになって、私に襲い掛かり、私の発した声は裏返ります。


「れれれれ、レイドリークすさま?」

「ん?」

「私、状況が良く、飲み込めてまヒェん」


 しかも噛みました。


 彼は、面食らった顔をして私の頬から手を離し、それから頬がだんだんと赤く染まりました。

 か、かわゆい。

 っじゃないですないです。


「ごめん、そういえばルルは意識が朦朧(もうろう)としていたんだったね。その、……君が俺に気持ちを打ち明けてくれたんだ、あの、倒れた日に。だから嬉しすぎて、ルルが覚えていないかもしれないっていう可能性を失念していたよ」


 しまったな、なんて言いながら、でも顔は緩んでとても穏やかな表情のレイドリークス様は、動揺する私にお構いなしに言葉を続けました。


「君の気持ちがどうだとしても。俺の気持ちはもう固まったから……どうか告げることだけは許してほしい。

ルルが、好きだよ。できることなら一緒に歩んでいきたい。そのための努力がしたい。……努力をする許可を、くれないかな?」




 心からの、声です。




 レイドリークス様の瞳には、私しか映っていませんでした。

 真剣な心には、真剣な心を。


「…………私が何を言ったかは、すみません。覚えていないんです。けど、気持ちだけを言えば、私もレイドリークス様が……好き、です。一緒に、努力がしたい。私少し前からその準備をしていたんです、続けても…………、っ続けても、良い、ですかっ?」




 最後の方は、涙声になってしまいました。

 届いたでしょうか?

 私の声は、気持ちは、彼に――




 少し不安に思うと、(おもむろ)にレイドリークス様の顔が近づいてきて額に額を当ててきます。

 その表情は、何だか苦しそうで。


「俺の立場に巻き込んで、ごめん。少しやけっぱちになったのと、ルルが俺のことを気にしているようだったから、嫉妬してくれやしないか、ってローゼリア嬢とのことは……ちょっと意地悪した。そのせいでいらぬ小細工をする状況にもしてしまって……。もっとちゃんと正攻法で立場を手に入れて、それから君に申し込む努力をするべきだった。本当にごめん」

「良い、っです。私も、途中まで自分の気持ちなんてわかってませんでした、から……」


 お互いきっと、すごくみっともない顔を、至近距離で見せてしまっています。


 恥ずかしい。


 と、いきなりもっと彼の顔が近づいてきて、


 ぺろっ


 と、私の涙を舐めて離れていきました。


「??!!!!」

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