6. 囲まれるんです
次の日の朝。
登校するなり声をかけられました。
振り返ると、昨日名前の上がった御三方が徒党を組んでいらっしゃいます。
「ちょっと、よろしいかしら?」
思ったより早く行動なさっているな、というのが私の今の感想ですが、読みというのは往々にして外れるものです。
断ると後々面倒臭いことになるので、大人しくついていくことにしました。
魔法学校の校舎は、門を前側としてコの字を左九十度回転させたような形で建てられています。
中心には中広場があり、生徒や先生たちの憩いの場に、奥側は大規模な演習場やそれにつながる森が、右側には奥に食堂、手前側には外広場があって小川も流れており、学校内でのちょっとしたデートスポットになっていたりするんですよ。
入学した時びっくりしました、手を繋いで散歩をしていらしたり――時には人目を盗んで……き、きすも目撃しちゃったりして。
そして今私が連れてこられたのは、学園の左側。
施設は何もないので、賑やかな外広場側とは打って変わって木々のざわめきが鬱蒼としています。
池はありますが花壇の囲いは半分無かったりして、工事が中断されたのか寂れた感じです。
因みに、エリーティア様が落ちたのがこの池だと思います、他に池があった記憶がありませんし。
そんなことをつらつら考えていたら、真ん中のご令嬢が一歩、進み出てきました。
「貴方ですわよね? 一昨日殿下にお声がけされたというのは」
「はい」
最初に私に声をかけたのは四年に在籍のショコラリア=コケット侯爵令嬢です。
三人の中でリーダー的な立場なのでしょう、ふんぞり返っていらっしゃいます。
脇を固めていらっしゃるのが、それぞれ左が三年生マリアーナ=ククルツィエ伯爵令嬢、右が三年生エリーティア=サナドバ伯爵令嬢です。
「そう。勘違いなさっているかもしれないから、ワタクシが忠告してあげることにしましたのよ。殿下に声をかけられたのは何かの間違い、もしくは婚約者が決まるまでのいっときのお戯れ! 調子に乗らないことですわ」
うーん、さりげなく殿下が貶されていますが本当に彼のこと……お好きなんですか??
勿論こんな事を喋った途端下手したらどつかれるので言いません。
「ご忠告ありがとうございます。私もそう思っているのです、皇子はずっと昔の思い出を勘違いしているのでは、と。記憶は曖昧なものですから……どなたか覚えていませんか? 皇子殿下との出来事を」
粛々とといった面持ちで言った私の言葉で、三人が三人お互いに視線をやり合います。
いつの、とは言いません……人は勘違いするものですから。
そんなやり取りの最中――
「ここで一体何をしていますのっ?!!」
お邪魔む――じゃない、親切な通りすがり? の新手が現れました。
私より二、三年下でしょうか? 桃色の髪に緑の二重ぱっちりな目をしたその子は、その目にぷりっぷりの怒りを宿してこちらに向かってきています。
その心意気がひしひしと伝わったのでしょう、御三方はほうほうの体で校舎の方へと向かって行ってしまいました。
あーあ、後もうちょっとでかかっていましたのに……残念です。
しょんぼりとしていたのを怖い目にあって心細くなっていると勘違いしたのか、そのご令嬢が声をかけてきました。
「大丈夫? 何があったかわからないけど、寄ってたかって一人を攻撃するのは許せないわ!」
「助けていただき、ありがとうございます」
「わたし、四年のローゼリア=アインバッハですわ。貴方、お名前は?」
「はい、六年のルルーシア=ジュラルタです」
「え?」
「……え?」