57. 誘われるんです
今日の授業が全て終わりました。
皆思い思いに帰宅の準備を進めている中、私に向けて歩いてくる人影があります、レイドリークス様です。
「ルル! よかった、まだいてくれて」
「殿下。どうかされましたか?」
教室の中で声をかけられたので、噂好きな一部のクラスメイトが、一挙手一投足見逃すまい、一言一句聞き漏らすまい、と微妙に逸らした目と耳に力を入れているのが感じられます。
そんな空気感を気にするでもなく、レイドリークス様は言葉を続けました。
「今度の演習、一緒に組んでもらえないかい?」
「え?」
「今年こそは、ルルと組みたいんだ。駄目かな?」
「いえ、駄目ではありませんが……私魔法の成績はあんまり良くはないんです」
「それでも構わないよ。優劣よりどうみんなで協力して動くか、だろう?」
「そうでしたね。では……よろしくお願いします」
私は彼の意外にもしっかりした考えを聞いて、内心少し驚いていました。
腐りかけている皇族、な方がいる一方でこうしてきちんと前を見据えて歩みを進める方がいる。
人ってやっぱり、素敵です。
そんなことを思いながら、そういえばと先程考えていたことを伝えようと慌てて口を開きました。
「えっと、カシューも誘ってみて良いですか? あと多分一年生かとは思うのですが、誘ってみたい人がいるんです」
「ではエンペルテ嬢にはルルから声掛けしてもらっても良いかな? 俺はその一年生に声をかけてみるよ。名前はわかる?」
「はい、トーモリエさんとおっしゃっていました」
「トーモリエ……確かシュシュルー伯爵家の子がそんな名前だったな、わかった。もし後残り一枠に誰か勧誘したい人がいたら、いつでも教えてもらえると嬉しい」
じゃあね、と嬉しそうににこやかに言うと、早速誘いに行ってみようと思っているのか足早にレイドリークス様は去っていきました。
毎年ぼっちな私は、演習のグループ決めに難儀していたものでしたが、今年は早く決まることになって今までとは違うということを実感します。
それと同時になるたけ早く彼女を捕まえないときっと引く手数多だと気付き、慌ててカシューの机の方へと目をやりました。
すると彼女もこちらを見ていたのか、視線がぶつかります。
にこり、と微笑まれてカシューが話を聞いていて了承をするつもりがあるとわかり、胸が温かくなるのを感じました。
こんなにも友人に恵まれるなんて、昔の自分に教えてあげたい気分です。
視線だけではもったいなくて、私はクラスメイトにぶつからぬようにしつつ急いでカシューの元へと向かったのでした。




