54. ちび魔獣なんです
レイドリークス様達に別れの挨拶をし、私とカシュー達は教室へと向かう廊下をまた小説談義や最近流行りのお菓子屋さんについて話しながら歩いていると、視界の端に見慣れぬ組み合わせの男女が見えた気がしました。
あれは、ローゼリア様のような?
他からはちょうどよくは見えないだろう場所で、誰かと親しそうに話していらっしゃいます。
お相手は物陰に隠れてしまっているので、わかりません。
「ルル、どうかして?」
ぼーっとしていたので、心配したカシューが顔を覗き込んできました。
伺い知ろうという気持ちが見てとれて、慌ててカシュー達の方へ意識を向けます。
「知った方がいらした気がしたのですが、気のせいでした」
「そうなの? 何か心配事があったら相談してくださいましね、解決しなくても、心は軽くなりましてよ」
「ありがとうございます、何かあったらカシューに相談しますね」
「私も忘れないでくださいな。三人寄れば文殊の知恵とも申しますから、遠慮なくお願いしますわね」
「ララまで……嬉しいです」
少し微妙な顔をしていたのでしょう、心遣いが嬉しくなって、照れたばっかりに次の言葉は明後日の方向へとずれていきました。
「えっとですね、今度、お二人のお勧めの小説を貸していただきたいです。お友達との貸し借りとか、今までしたことがなかったので」
「それでは、私とっておきの小説を貸してルルを感動の涙で埋めて差し上げますわ」
「ふふふ、それは面白そうね。ではわたくしはルルのお腹を、抱腹絶倒の末筋肉もりもりにしてみようかしら?」
「え。あの、いっぺんにされてしまうと私、目の腫れた筋肉もりもり魔獣みたいな出で立ちになりませんか?!」
自分で言ってみて、想像してしまい思わず吹き出しながらお二人に話しかけます。
カシューもララもそれぞれ姿形を思い描いてしまったらしく、くすくすふふふと、笑いが漏れ出した後それが止まらなくなったようで。
「そ、その魔獣きっと、ち、ちまっとして手のひらに乗るサイズではなくて?」
「尻尾、ふっさふさ、だと可愛らしいのではないかしら」
笑いながらも、外見を固定化させるお話が続きます。
何か一匹生まれ出ましたよ。
私達はそのお話をさらに膨らませながら、午後の授業に間に合うよう廊下を少し早足で歩ききったのでした。




