52. 仕掛けは上々のようです
今日の授業は座学に実技にと移動の多い組み合わせでした。
あっちこっちに向かったり戻ったりしながら、やはりぱったりと悪趣味な悪戯がなく、代わりにそこかしこで、かすかに異質な空気を感じます。
一人にならないようにしなくては、と気を引き締めました。
今日の昼食は外がどんよりしているのもあり、知り合いの皆さんで食堂に集まって食べる約束をしています。
現地集合なのでカシュー様と一緒にララジニア様を迎えに行ってから向かいました。
「そういえば噂になっていてよルル」
「なんの噂でしょうか?」
「私も聞きましてよ、結構な噂になっているそうですわ」
食堂までの道中、意外にも話題の中心が私になります。
というか、噂のまわりが凄いです……皇子っていう肩書の力というか、厄介さというか……を垣間見た気がしました。
「噂、否定的な感じなんでしょうか」
「そうね……なんでもまるで『家名に引き裂かれた二人』とかいう大衆小説のようなことが、学校で起こるなんて、とわたくしの知り合いは言ってらしたわね」
「私は『皇子殿下の想い、なんてロマンティックなんでしょう、きゃっ』って言うお友達がいましたわ」
どうやら、仕掛けは上々のようです。
「……家名に引き裂かれた二人、ってなんですか??」
「あら、ルルはしりませんでしたの? 今子女の間でその名の大衆小説が流行ってましてよ」
し、知りませんでした!
恋愛小説好きとして由々しきことです。
忙しかったので、メリーアンに新刊一覧表を作ってもらうのを忘れてました。
今日帰ったら、早速頼まなくては。
「忙しくて、一覧表を作ってもらえるよう伝え損ねてました……」
「ルルは小説がすきなんですのね。私も好きですわ、『燦めく愛を探して』とか」
ララジニア様が会話にあわせて、ルルって呼んでも良いかしら、とはにかみながら尋ねてきました。
否があるでしょうか、いいえこんな可愛く聞かれたら答えはお願いします! しかないですよ私には。
前のめりにならないように気をつけながら、ララジニア様とお互いに愛称で呼ぶことを了承しあいました。
ふふふ、二人目のお友達です。
少しうきうきとした足取りでララとカシューと小説談義に花咲かせ、私達は目的地へとたどり着いたのでした。




