5−1. 影なんです
その日の夜。
私はお父様に呼ばれて執務室へと向かっていました。
コンコン
「ルルーシアです、参りました」
「入りなさい」
「失礼します」
私は入るなり片膝を突き首を垂れます。
「何故呼ばれたかはわかっているな?」
「はい。魔法学校にて第四皇子と接触した件について、かと」
「そうだ。卒業まであと一年、ルルはよくやった方だ――と言いたかったが、ヌフから聞いたぞ。趣味もいいが学校では自重しろ」
「申し訳ございませんでした」
「いずれ皇族とも顔は合わすが成人までは皇子達に我々の存在は明かされぬ。お前の事情もあるのだから在学中仲良くするのはまずい。……なんとかしなさい」
「御意」
「さて、当主としての通達は終了だ。お前も平時に戻りなさい」
「はい、お父様」
返事をすると立ち上がってスカートの裾をはたきます。
「それにしても……あの貧相な餓鬼がルルに求婚、とは。私も歳をとったものだ」
「お父様は第四皇子殿下の事、よく知ってらっしゃるのですか?」
「お前は覚えていないのかい? そうか、あの後すぐルルは初めての修行期間に入ったんだったか」
「あの後?」
「そう、殿下はイメージングステイにうちの領地へいらしたことがあるんだよ」
「……え」
「懐かしい……。ルルと殿下はしょっちゅう喧嘩しては、けどよく一緒に遊んでいたよ」
殿下は貧弱でいらしたから、だいぶ苦労していたけれど。とお父様は遠い目をして、幼い頃の私と殿下を思い浮かべているようです。
「殿下は本気、といったところかな……けど我が家も可愛い愛娘をそう易々とくれてやる訳にはいかない。ルル、心してかかるんだよ?」
「は……い」
お父様からの情報が過密すぎて、ぼうっとしているうちに、いつの間にやら退室して自分の部屋へと戻っていました。
ベッドに仰向けにぼふん! と寝転がります。
「怒涛の一日過ぎます……」
けれど一人前になるには、これも避けては通れぬ道かもしれません――――。
我が家は……表の顔はただの公爵家ぶっていますが、裏の顔も実は持っています。
代々建国当初から皇族を裏でお守りするのがそのお役目で、皇族への見えない位置からの身辺警護と暗殺者の制圧及び国への引き渡し、国内の不穏分子の情報収集、などの業務を担ってきました。
皇族の方からは「影」という名称で呼ばれています。
これは成人済みの皇族と、我が家と分家の者しか知らず、また知られてはいけない―― 知られたら他国や不埒な者に一族が狙われてしまうので――国家機密。
という事情から目立つのは得策ではありません。
なので公爵家とはいってもやたらぼんやりとした立ち位置だったりして、名のある侯爵家の方が上、なんてことまであるくらい。
そんな我が家の現当主はお父様で、いずれは私が後を継ぐ予定になってます。
影の実働部分のほとんどは我が家と分家とで賄っていて、お母様もその一人。
先程のヌフさんは九番目の影さんで、仕事をするようになると番号が割り振られ名前がわりになるんです。
ちなみに私が成人して仕事をし始めたら、カラント・ヌフをいただく予定です。
ですがまだ成人前なので修行修行の毎日の見習いでしかなく、今日みたいなポカも割とするのがちょっと、悔しいこの頃です。
さて、この件をどう収めましょうか。
そうしてうんうん唸っている間に、疲れたのか、だんだん夢の中へと入っていったのでした――。