47. ちゅーなんです
その夜は、マークスが不安がって離れたがらなかったので、今日だけですよと言って一緒のベッドで寝ました。
「姉様、朝だよ」
次の日の朝、流石に疲れていたのかマークスの声で起こされますが、なかなか瞼が開きません。
「ん〜」
「姉様ったら、寝ぼけてるの?」
ちゅっ、という音と感触がしてがばりと慌てて体を起こします。
「ま、マークス?!」
「油断してたのが悪いよ、僕だっておとこのこなんだからね?」
そう言って末っ子が、とっても良い笑顔を向けてきます。
いや、でも、今までお姉様っ子で、でも。
訳がわからなくなって、慌てて弟の部屋を出ます。
ちょうどそこへエルレードが朝食へ向かうのに出くわしました。
「え、エルレードっ」
「なんで姉貴こんなとこいんだよ?」
「マークスに、不安がられてしまってねだられた、ので?」
「んで、寝込みまんまと襲われたんだろ」
「んな?! そんなことされて! されて。されて、ます?」
事実に、愕然として思わず口を手のひらで押さえます。
可愛い弟にちゅーされてしまっては、反論のしようがありません。
「あいつ、当時二歳だったっつーのに覚えてるぜ? 自分が養子なの」
「それは、ほんとですか?」
「直接きいたからな。あんま無防備にしてやんなよな、アイツも想い人がいる以上もう男って言っていい歳なんだしさ」
弟に忠告され、姉の面目丸潰れでしょんぼりしました。
どうやら私はそっち方面にだいぶ疎かったらしく、気遣いのなさに情けなく思います。
「次から、気をつけます」
「じゃあとっとと着替えてきな、夜着のままうろちょろしてっと、今度こそぱくっだぞ」
「! はい!!」
エルレードの助言に素直に従い、慌てて自室へと戻ります。
「ったく、世話の焼ける姉貴だぜ」
「……チッ、兄貴余計なことすんなよな」
「おい、猫の皮剥がれてっぞ。姉貴免疫ないんだから、あんま無茶すんなよ?」
「今更兄貴に皮被ったって仕方ないだろ。何年想ってるとおもってんの? 体から始まる恋だってある」
「大概拗らせてんなー、けど大事なもん落っことすぞその考え」
「うるさい」
立ち去った後の弟達の会話は、私には預かり知らぬところなのでした。




