44. 泣いてしまうんです
医務室に着くと、ベッドの端に降ろされました。
先生はまず私を毛布でくるんだ後、サイズを聞き、予備の制服取ってくるねと言って離れていきます。
そばに人気がないだけで、先ほどの恐怖がよみがえりました。
それと共に、レイドリークス様に助けてもらった事も思い出して、格好良かったし優しかったな、だなんて感じたりもして、怖いと格好良いを行ったり来たりの乱高下する気持ちを持て余します。
「あったあった、最後の一組だったよ〜備品更新しなくっちゃ。僕机のとこいるから、着替えたらおいで、ホットチョコレート入れて待ってる」
ハンスヴァン先生はそう言いながら私の頭を撫でると、その場を立ち去りかけたので、慌てて声をかけました。
「あ、あの、先生、濡らした布巾も、用意していただいても良いですか? 頬が、気持ち悪くって……」
茶色い髪の隙間からのぞく黒い瞳が、一瞬険しくなったような気がしますが……気のせいだったのでしょう、今は穏やかに私を見てくれています。
「ごめんごめん、気付かなかった。ちゃんと用意しとくよ〜」
そう言うと、ひらひらと手を振って今度こそ机のほうへと歩いていきました。
私は用意してもらえる事にほっとして、貸し出してもらった制服へと着替える事にします。
着ていた物を脱ぎ捨てると、新品のそれに腕を通します。
脱いだ物を再び着る気にはちょっとなれそうにもなく……レイドリークス様に借りた上着だけ、きちんと畳んでおくことにしました。
「先生、制服こちらのごみ箱に捨てて帰ることってできるでしょうか?」
「あ、いいよいいよ、こっちで処分しとくから任せて〜」
軽い感じで了承をもらい、ありがたくそのままにしておきます。
着替え終わったので、先生のいる机のそばまでいくと、湯気の立つホットチョコレートの良い匂いが鼻をくすぐりました。
少し落ち着いてきたからか、おなかがきゅると鳴きます。
「はい、布巾。少しあったかめにしといたから、気をつけて使ってね」
「ありがとうございます」
手渡された布巾を受け取り、頬を拭います。
先生の気遣いに、その部分が綺麗になっていくような不思議な感覚になりました。
気にかけてもらうって、すごくあったかいものなのだな、と再認識です。
拭った布巾を先生に返すと、今度はホットチョコレート入りのカップを手渡されました。
「そこの椅子、座ってね」
椅子を勧められたので、素直にすとんと座ります。
座ったことで気が抜けたのか、ぽろぽろと目から涙が溢れてきました。
危ないので、カップは机に戻します。
「……君は頑張った、皇族相手によく守った」
「……ふっ、う〜〜〜〜っ」
先生が背中をさすってくださいます。
その温もりに、また泣けてしまって……私は気がすむまで泣き続けました。




