43. 震えが止まらないんです
「ジュラルタ嬢!!」
第三皇子を脇から蹴り上げて吹っ飛ばしたのは、どうやらレイドリークス様のようです。
蹴られた衝撃で魔法を維持できなくなったのか拘束が解かれました。
すぐさま立ちあがろうにも、カタカタと意思とは関係なく揺れる体は言うことを聞いてくれません。
その様子に、レイドリークス様が私の上体を助け起こし自身の上着を肩にかけてくれます。
吹っ飛んだ先でお腹に手を当てながら、殿下が立ち上がりました。
「……人として、皇族としてあるまじきことですよ、フェルナンテス兄上!!」
「そんなに怒るなよレイド。ほんの戯れ、魅力的すぎて魔が差したのだ。そこのは俺の婚約者なのだから、そういう事もあるだろう? ちゃんと責任を取る気でもいる」
何か問題でも? という彼の言葉に、私は改めて彼が世間的に閉じ込める気でいたことを知ります。
心を、殺される所だったのです。
震えが、止まりません。
見かねたレイドリークス様が両肩を支える手でさすってくれ、その温かさに少し揺れがおさまったような気がします。
「婚約は保留と聞きましたが?」
「……っは! 父皇は懸命な方だ。一度の醜聞による権威の失墜より、一人の命を俺にくれてやる方が痛手が少ない、そう判断するかもしれないだろう?」
「それでは進言しても良い、と」
「国の為に自身が捨て去られる現実が見たいなら、止めはしないよ。……っと、そうは言っても、お前までいるこの状態を人に見られるのはまずい。俺はこの辺で失礼するとしよう……ルル、また今度」
そう言うと殿下は足早にこの場を去りました。
少し離れた所にある階段を誰かが昇ってくる音がしています、彼はどうやらこれを聞いて撤退を決めたようです。
私も、この状態はまずいです。
慌てて何とか体に発破をかけて、借りた上着のボタンを止めます。
立ちあがろうとしましたが、それは上手くいかずペタンと座り込んでしまいました。
足音の主は段々と近づいてきます。
もう半分諦めたところで姿を現したのは、医務をしているハンスヴァン先生でした。
「あれ? 君たち帰ってなかったの〜? 今日は図書室はおやす……っと、これは僕の出番みたいだね」
側まで来たところで私のなりに気づいたらしく、さっと近寄り膝を落とすと私を抱えてくれます。
いわゆるお姫様抱っこというやつです。
なま、おひめさまだっこ…………?!?!
色々な事が起こり過ぎて、頭の許容量が追いつきません。
「先生、それは俺が」
「その結果、君、責任取れるの?」
「…………っ!」
「若い情熱っていうのは素晴らしいことだけど。自重と場合は覚えなね、僕ちゃん」
「……彼女を、よろしくお願いします」
抱っこされている現実に思考が停止しているその傍らで、会話がなされている事には気付けず、私はされるがまま抱っこで先生に医務室まで連れてかれるのでした。




