41. 逃げ出すんです
「お戯れはおよしください。私達は何の関係もない身でございます。ご事情あることかもしれませんが、冗談としてだけ受け取らせていただきとうございます」
私はそういうなり手をサッと抜きにかかります。
が、相手も異常な力で持ち直した手首を掴んでいるので拮抗してしまいます。
「冗談ではないのだが。俺の父からも話がいっているだろう?」
「父からは、私が決めて良いと言われている、と聞いております第三皇子殿下」
「そうか、真意が伝わっていなかったのは残念だ。だがここで新たに皆の前で誓おう、お」
「私! お花摘みに行きたいので、失礼、します!!!!」
言わせないですよ?!?!?
あられもない発言をしたお陰で、第三皇子は鳩が豆鉄砲を食らったかのような面持ちになっています。
手の力も緩んだので難なく自分の手を取り戻すと、有言実行とばかりにトイレへと駆け込むべく足早にその場を去りました。
近場のトイレへ入ると、息を吐き出します。
とんだ災難です。
掴まれた手首を見ると、微妙に赤黒くなっていて内出血を起こしているようでした。
そこへどこからかこちらへとやってくる足跡が二つ、聞こえてきます。
今の自分の疲れた顔を見られたくなくて、個室へと慌てて逃げ込みました。
「ね、さっきの聞こえた?」
「聞こえた聞こえた、愛の告白ってやつぅ〜?」
「皇族ってすごいよね、朝から婚約がどうのとか」
「この前第四皇子もやってたよね〜」
入ってきたのは、話し方からしてどうやら平民の生徒さんのようでした。
朝の通学で乱れてしまったのでしょう、髪の毛を手直しする音が聞こえます。
「そうそう、あれ、破局したらしーよ?」
「え、そうなの?」
「うん、なんかいつの間にか別の人が隣にいてさ。その人とはもう婚約までしてるんだってさ」
「ええ〜?! 貴族の人って、何だか忙しないんだね」
「家継がなきゃだからかな? なんか、家の人が決めてきたりするらしいよ、結婚」
「ふえ〜、別世界!」
「だよね、っとこれでよし。付き合ってくれてありがと、一時限始まるからそろそろ行こっか」
言うとその二人組はバタバタとトイレから出て行きました。
私は、今聞いた情報に思いのほか衝撃を受けています。
「レイドリークス様が、婚約…………」
虚しい呟きが、タイル張りの冷たい床に響いて消えていきました。




