34. もじもじするんです
ビビビビビビ
四時限目のチャイムが鳴り、教室がガヤガヤとせわしなくなります。
クラスメイトは皆思い思いに友人を誘って教室から出て行ったり、机の上でお弁当を広げたりしています。
私はというと、約束はなくなったでしょうし、お弁当も急だったのでお願いするのを忘れていました。
なので今日は食堂へ行こうと思って今用意しているところです。
「ルルーシア様」
そこへ朝ぶりに声を交わすカシューリア様が名前を呼んでくれました。
お友達……その言葉を頭に思い浮かべると私の頬はぽぽぽぽと赤くなります。
嬉しすぎて今多分顔面崩壊しています、どうしましょう。
「もしよろしかったら、わたくしとララと一緒に外で昼食をしませんこと? ちょうど一人お休みで、料理が余ってしまいそうですの。お気を悪くなさらないでね、これまでも予定が合うなら約束して昼食ご一緒したいなと思っていましたのよ」
私の挙動不審をものともせず、彼女はそう言って私を誘ってくれています。
……うれしいすき。
「食堂へ行こうと思っていたのでありがたいです、是非ご一緒させてくださいカシューリア様」
「カシューでいいですわ。わたくしも、ルルとお呼びしても?」
「はい! 好きによんでください」
「ではルル、一緒に参りましょう」
私たちは途中でララジニア様と合流して、中広場へと向かいました。
中広場はその名の通り三方を校舎に囲まれた中にあります。
中央には噴水、校舎玄関向かって左奥側は木々が植えてあって木陰と遊歩道のある場所。
左手前は芝生の広場、右手側は玄関までの通路と両脇に花壇、所々にベンチが置いてありその中の五つほどは小さな机と日除けがついています。
なんとか早めにつけたのか、芝生広場にはまだちらほら場所の空きがありました。
私達がそこへ腰を落ち着けてすぐ、反対側の日除けのついたベンチへと向かう二人組の方から悲鳴が聞こえました。
ふと目をやると、ちょうどローゼリア様が転けたところをレイドリークス様が支えたのが見えます。
二人ともお互いの瞳を熱心に見つめ、なんだか仲が良さげな気もして。
ツキン
胸の奥、内臓ではないどこかの――軋んだ音が、しました。
「ルル? どうかしましたの」
呼びかけられて、はっと現実に戻ります。
そうです、今は楽しい楽しい友達とのお食事です!
気を引き締めて向こう側を見ないようにし、カシューリア様の問いに答えます。
「すみません、ぼーっとしてしまいました。お友達とその、食事をするのが初めてなので嬉しくて、戸惑って、ます、はい」
思わずもじもじしてしまいます、ぼっち宣言が恥ずかしいやら、友達っていう言葉に感激やらで感無量というか……。
なんてしていたら、抱きつかれました。
誰にって、カシューに、です。
「か、カシューリア様??」
「可愛いっ! なんて可愛らしいんですの! わたくし小動物が大好きですの。ルルはまるでうさぎのようでたまりませんわ」
すりすりまでされています。
傍らのララジニア様に視線で助けを求めると……あ、ため息をついていらっしゃる。
「カシュー、ルルーシア様が戸惑ってらっしゃいましてよ? 自重なさいな」
「これでも我慢していましたのよ? 少しくらい良いのではなくって」
「その少しが今で、もう十分経っていてよ? やるなら徐々に徐々に、慣らしていかなくては」
「それもそうですわね、うっかりしてましたわ。ありがとうララ」
そういうと、カシューは私をとても名残惜しそうに離します。
「かまいませんわ、慣れていただければ私も触りやすくなりますもの」
ララジニア様からもよくわからない発言がありました。
……もしかしてこの身長のせいで、私が弟を可愛く思うように、妹のように思われてしまってます?
同級生として、とか、でも初めての、とか、考えが巡りましたが……私は結局友達という単語の甘美な響きに負けて、されるがままを選択したのでした。




