28. 食事会なんです
「まぁ、なんて可愛らしいのでしょう! わたくしこのような形の細工飴、初めて見ましたわ」
「以前頂いた私の細工飴は、動物の形をしていましたのよ。このお魚も優雅でキラキラしていて、とっても綺麗ですわね」
ほぅ、と頬に手を当て溜息をついている亜麻色の髪に青い目をした方が、以前着替えを貸していただいたララジニア=クレケット男爵令嬢。
初めて見るものに興味津々で、勝ち気そうな瞳をまんまるにして色々な角度から飴を見ているのが、カシューリア=エンペルテ男爵令嬢です。
今日は私がお二人に声を掛け、昼食会を開いています。
先日クレケット様を紹介していただいたり、魔法のコツなんかを教えていただきとても助かったので、お礼を渡したかったのと……あわよくばお友達に! だなんていう計略も兼ねていたり、いたり……。
六年何してたんだなんて私が一番思ってますよ!
十二までサボっていたので、友達を作れる強さを身につけるまで時間がかかったんです。
スタートが遅かったのもあって、お父様に許可をいただけた際には時すでに遅し……皆さんグループが出来上がってました。
見事なぼっち爆誕です。
荒れて二年、すっかり普通から遠ざかっていたので、声の掛け方すら覚束なかったのは――どうにか笑い話にできるかも、と思いました。
「うちの料理長が、趣味でお菓子作りをしていまして。いろんな地域に行ってはその土地の食べ物を勉強してるんです」
気に入っていただけたならとても嬉しいです、と続けながら、お茶のお代わりもついでに尋ねます。
「じゃあ、俺のもお願いできるか?」
「あ、僕のもお願いします」
「はい、わかりました!」
男子二名の声に、それぞれお茶をカップへと注ぎ込みます。
食事会、実は女子だけというわけではありません。
最初皇子との食事は断ったのですが、どうしてもどうしても一緒に食べたいとのことで、駄々をこねられてしまいました。
あそこまでお願いされてしまうと、今現在の私の心境的に無下にもできず……苦肉の策としてお二人の婚約者も交えての食事会へと発展したのでした。
女子三人に皇子一人とか、勘違いされるの必至ですからね!
カシューリア様の婚約者の方は、黒髪黒目で体格の良い、少し厳つい感じがするダンデリオ=マシュカ伯爵令息。
クレケット様の婚約者の方は、向日葵色の髪に茶色い目をして、ひょろっと背の高い糸目が優しげな雰囲気の、イクスディー=ガンレール侯爵令息。
どちらも私達と同じ歳だそうです。
我が家の料理長が張り切って作った食事の数々へ、口々に感想を言い合うのを見るにとっても仲が良いことがわかります。
そこに物語があるような心地がして思わず心の中で、眼福、とか言っちゃってるのは内緒ですよ?
「ルルの家の料理長は研究熱心なのだな、食事も美味しいし引き抜きたいくらいだよ」
「ダメですよレイドリークス様! 美味しい料理長のご飯は我が家のものです、あげません!」
ははは、冗談だよ、と彼は言っていますが、少し本気が混じっていたような気がします。
「ルルーシア様は殿下と仲がよろしいのね」
ニコニコとカシューリア様がおっしゃいますが、仲良くありません困ってます! とも言えず笑って誤魔化しました。
せっかくの食事なのになんででしょう、とっても疲れています。
レイドリークス様は普段接する人ではないご新規の知り合いが作れる事が嬉しいようで、和気藹々と令息方とおしゃべりに興じています。
言い出しっぺのようなものなのに、なんだかずるいです!
その後も何くれと皆様にお世話をしながら、私はなんとかこの食事会を乗り切ったのでした。
片付けがあるので皆さんで先に戻ってもらい、一人残って人心地つきます。
「緊張、しました……!」
学校に通うようになってから、一番たくさんの人と接したような気がします。
大変でしたが、なんだか充実感もあってくすぐったい気持ちが湧き上がっています。
「また、やれたらいいな……」
余韻に浸っているところ、ピンと空気が張り詰めたのを感じその場から瞬時に離れます。
トストスッ!!
元いた場所に短剣が刺さる音がして背後に気配を感じました。
かわそうとしてかわしきれず背後から右腕で首を絞められます。
慌てず右足で相手の足の甲を思いっきり踏み、それと同時に背後へ体重移動させ相手ごと倒れかけました。
一瞬手の力が緩んだ隙に体を縮こまらせ後ろに向けて宙返りをし、着地をした反動を利用して力一杯踏み込むと同時に前方にいる相手に回し蹴りをし。
よろけながらもかわされるのは予測がついていたので、回し蹴りの反動を利用した手刀を、首筋にお見舞いしました。
うまく入ったようで、一撃で気絶させることができ人形のように倒れていきます。
やれやれです。
ビビビビビビ
「わわ、チャイムがなってしまいました!」
片付けはまだ終わっていません。
来るなら片付けきってからにして欲しいです! だなんて我儘をぶつぶつ言いながら、慌てて片付けて校舎へと向かいました。




