26. いいお湯なんです
背負われて医務室に行くと、先生に、君よくずぶ濡れになるよね〜、とか言われながら魔法で乾かしてもらい。
レイドリークス様が何くれとお世話をしようとするのを必死で、でも丁重にお断りをしました。
そして今。
私は逃げるように学校から帰りエントランスから家の中に入ったばかり、です。
弟達は今回全員の三つ巴で喧嘩しているようで、調度の壊れ具合、室内の荒れ具合が桁違いになっています。
今日はもう執事のセルマンに話しかけるのさえ億劫で、弟を尻目に自室へと行き、メリーアンにお湯の用意を頼んだのでした。
チャッポン
「はぁーっ……」
ブクブクブクブク
湯船に口までつかり、今日あった出来事を反芻します。
「べぶぶーーっぶはっ!」
ぼんやりしていて口をお湯につけていたことを失念していました。
「お嬢様大丈夫ですか?!」
「ありがとう、大丈夫ですよ」
脱衣場で待機していたメリーアンが、慌てて入ってきます。
溺れてるんじゃないかと心配させてしまいました、気をつけないとですね。
無事を確認され彼女が退室した後、改めて思い返しました。
「カシューリア様と……お、お友達? になって、プレゼントを貰って、盗られた物を拾うのに池に入って」
――気持ちを、自覚、して――
またつい口まで沈みます。
盛りだくさんです。
この前着替えを貸していただいた恩義は細工飴で返しましたが、カシューリア様に改めて何か贈り物をしたいなと思いました。
プレゼントは……つけないと、ガッカリさせてしまうでしょうか――けれど近々だと、周りのいらぬ噂になりそうです。
つける時期が、問題だなぁと思います。
そもそも、つけない方が拒絶を示せていいということは頭ではわかっていて。
けれど自覚してしまったこの心が、どうしてもつけたいんだって煩くて…………。
「……ごぶばっ」
「お嬢様、もしかしてまたでしょうか?」
「そう、です」
「畏まりました」
脱衣場から声がかかりました、今度は慌てていません。
事態を正確に把握したのでしょう、冷静に声をかけるだけにとどめてくれます。
優秀な侍女がついていて私は果報者です。
先程まで考えていた……どこかみっともない我儘を……少し恥ずかしく思いました。
そう、我儘なのです。
だって、応えられない。
切り刻まれるかのような気持ちに、今度は頭まで沈んで目を瞑ります。
いっそこのお湯に溶けてしまえたら――――
そう思いながら潜れるだけ潜って、茹蛸になってしまい。
浮かんだ状態で救出される、という失態をおかして侍女をまた慌てさせたのでした。
ごめんなさい、メリーアン。
いつもありがとうございます。




