24. 頂くんです
演習はとても実りあるものになりました。
そのお陰で、森のなかに迷い込んだかのようだった気分も浮上します。
いつまでも長いこと良くわからない感情に振り回されるのも、何だか癪だったので助かりました。
心身とも健やかでいたいものですからね!
今日の昼食は同席を許可されたローゼリア様と共に、レイドリークス様とご一緒しています。
会話はお二人に任せて私が本日の皇宮料理長渾身の一品にフォークを伸ばしていたところ、ローゼリア様をご友人が呼びにいらっしゃいました。
「ローゼリア様ー!!」
「あら、ミッチェル様。どうかされましたの?」
「っ、はぁっ、はぁっ。えと、です、ねっ。事務室の先生が用事があるそうだったので、呼びにきたのです」
「先生が? そう、それなら行かなくてはね。殿下、ルルーシア様、わたし用事ができましたので失礼いたしますね。またご一緒していただけたら嬉しいですわ」
ローゼリア様はそういうと、まるで花のようにフワッと微笑み、私たちの前から退席していきました。
私が彼女の背中が見えなくなるまで見つめていたので、レイドリークス様との間に沈黙が落ちています。
彼が何事か話し始めるかな、と思ったのですが、特にそれもなく。
私達の間に、春の陽気を含んだ気持ちの良い風がそよそよと、流れています。
まだそんなに時間は経っていないのに、まるで旧知の仲のような、そんな心地まで漂っているようで……。
その不思議な感覚に少し戸惑っていると、やっと彼が口を開きました。
「ルル。その――」
「はい、何ですか?」
「えっと、だね」
「?」
「〜〜〜〜っ、誕生日、おめで、とう」
レイドリークス様はこちらを見ないまま、四角い、キラキラした包装紙に包まれた箱を私の方へと差し出しています。
心なしか、耳から首筋にかけてが、赤いような……?
「じ、じろじろ見ないで、もらえるだろうか」
「あっ、すみません!」
「受け取ってもらえると、嬉しい」
意を決してというようにこちらを見つめて言われ、思わず反射的に包みを受け取りました。
「その……気に入らなかったら、言ってほしい。ちょっと自分でもそれを選んだのは、失敗だったかもしれないと思っているんだ」
ちょっぴりしょぼんとしてレイドリークス様が言います。
失敗するようなプレゼントって? と、不思議に思いましたが、見ていないので何とも言えず、とりあえず頂いた箱を開けてみることにしました。
少し緊張して包みを丁寧に開けます。
出てきたのは、私がレイドリークス様へと贈ったイヤーカフに、よく似たレリーフ……ではなく全くお揃いのデザインの物でした。
彼を横目で見ると、両手で顔を覆ってしまっています……さもありなん、です。
だってこれでは、お揃い、です。
困った。
とは、思えない自分がいました。
どうして、とか、何故、とか…………今顔を見られたくなくて、俯きます。
「……ごめん、やっぱりどうしても、受け取ってほしいと……思ってる」
そう言ってレイドリークス様は動けなくなっている手に持ったままの包みからイヤーカフを取り出し、私の左耳にそっと、つけました。
アイオライト――石言葉は、一途であり続ける――
そんな飾り石がさりげなく裏側に埋め込まれたイヤーカフは、今の私には重すぎて――。
「ありがとう、ございます」
感情の乗らない笑顔と声でお礼を言うしか、できませんでした。




