表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
殿下、私は困ります!!  作者: 三屋城 衣智子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/82

21. 歩かされるんです

 その日の午後の授業は身が入らず、帰宅するとすぐ下の弟二人が暗器まで使って喧嘩をしていました。

 あちこちに武器が刺さったり、壁紙が焦げてしまったりと惨憺(さんたん)たる有り(さま)です。


「こら二人とも!!」


 一応声を掛けますが、聞く耳はもうもげてしまったようです。

 いつもなら割って入って止めるのですが、今日はその気力がありません。

 内装の改修をお父様に手配してもらえるよう、執事のセルマンに言付(ことづ)けました。


 昔のように、明日が来るのが少し億劫(おっくう)に感じてしまう――そんな自分を受け入れることが、なんだか出来ません。


 今日の夜は長く感じるだろうな。


 そう思いながら、ベッドに入りました――。




 翌朝は、雨でした。

 しとしとと降る雨が少し年季の入りだした窓に当たってくだけていきます。


 学校の教室についても、私は何だかぼんやりとしてしまっていて、調子が出ません。

 それでも何とか一時限目の移動授業をこなし、休憩中にトイレに行った後教室に戻ってくると、次の演習の着替えが無くなっていました。

 頭が働かなくて、解決策を思いつかないまま突っ立っていると、不意に横から声がします。


「もしかして、着替えがなくて困ってらっしゃいますの?」


 声がした方を見ると、確か体術好きの…… カシューリア=エンペルテ男爵令嬢でしたでしょうか、彼女が私の方を(うかが)っています。


「エンペルテ様……はい、そうなんです」

「カシューリアでいいですわ、クラスメイトなのですもの。隣のクラスの友人に予備を持ってる方がいらっしゃるので、 借りに行きませんこと?」

「カシューリア様、よろしいんですか? 助かります……」

「クラスメイトのよしみですわ、助け合うのも大切なことですしね」


 彼女はそう言うと、艶やかな黒髪の奥からのぞく緑色の勝ち気そうな瞳を(ゆる)ませて微笑みました。

 今は何だか、こんなさりげない優しさが胸に()みます。

 私はカシューリア様の提案をありがたくお受けして、お隣のクラスの彼女の友人であるララジニア=クレケット男爵令嬢に、着替えを貸してもらったのでした。


 どうにかこうにか授業も、昼食の時間も普段通りに近い感じでやり過ごし、放課後を迎えました。

 帰る準備を済ませ廊下に出て出入口へと歩いていると、片想い令嬢軍団がこちらに向かって歩いているのが見えます。

 鉢合わすのが嫌だなとは思いましたが、どうやらあちらは私に用事があるようです。

 姿を見つけるなり、足早(あしばや)にこちらに来ると私の手首をひっ捕まえて人気の無い方へと歩かされてしまいました。


 ついてない、です……。


 人気(ひとけ)の無い特別教室が並ぶ区画まできました。

 手を勢いよく離され、少しよろけながら壁際へやられます。


「あら、ごめん遊ばせ」


 思ってもない口調でコケット様に謝られました。

 ククルツィエ様とサナドバ様がそれに追従する形で話し始めます。


「今日はショコラリア様が良い知らせを持ってきましたのよ」

「こんなこと滅多にないのですから、ありがたく思いなさいましね」


 それに気をよくしたコケット様が歌うように機嫌よく私に話しかけます。


「これはまだ公式発表ではないのですけれど、第四皇子の公爵家との養子縁組が決定したようですの。確か貴女跡取りでしたわよねぇ? これからは身分を弁えて行動した方がよろしくてよ。あの方の隣は、ワタクシの方がふさわしいのですし」


 そう言い切ると満足したのか、御三方はさっさと元来た方へ行ってしまわれました。

 廊下には、動けないまま私だけが残されます。


「公爵家との、養子、えんぐみ……」


 廊下に、私の反芻(はんすう)する声がやけに響いた気がしました。

 ブクマや評価、いいねなど本当にありがとうございます。

 励みになっています!

 誤字脱字報告や批評や感想、等々、お気軽にしていただけたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ