17. 押し倒すんです
それから暫くは、穏やかな日々が続きました。
運動着を隠されたりしましたが、予備をクラスメイトに預けたり、テキストなどは借りたりしながらやり過ごしています。
なんでもない事と思っている様に見せかけ、焦れた相手が出てくるのを待ちましたが……なかなか本命は慎重な性格みたいです。
昼食は迎えに来られると目立つので、半分位は現地に一人で行っています。
残り半分は、何故かレイドリークス様が授業終わりとあまり変わらないくらいでやってくるので、どうにも逃げきれず……殿下、先生に無茶言ってませんよね?
……速い理由は、突っ込まない方がいいのかもしれません。
この時間は今では私のちょっとした楽しみになってしまっています。
ご飯も美味しいし、彼の話も知見に富み、小話が面白かったりで、話してて無理がないというか……こんな事ではいけないのですが……。
今日の昼食は何が何としても先についていたかったので、全力全開、技術も駆使して俊敏に外広場へと向かいました。
広場の芝生に着くと、敷物で場所はとってありましたが、彼はまだ来ていないようでホッとします。
私は周りを見渡すと、スカートのポケットから小さな綺麗に包装された箱を取り出しました。
来るまでにつぶれたりはしなかったようで一安心です。
そう、今日はいよいよレイドリークス様の誕生日なのです!
……護衛の方もいる中強請られた手前、お祝いしない訳にもいかずこの日まで私がどれだけ悩み苦しみ抜いたことか……!!
皇子様相手に下手な物、あげられるはずがないじゃないですか?!
なのであーでもない、こーでもない、はては弟三人全員巻き込み、苦心して用意したのがこの包みなのです!
とっとと渡して終わらせたい所存!
私は今日までの日々に思いを馳せながら、いつも大体彼が座っているあたりにその包みを置きます。
手渡しとか、しません。
どういう顔して渡せばいいかわからないですし。
何だか、もやもやしてしまいそうになるので……と考え出すとまた変なもやが出るので、違うこと――例えばいじめの首謀者であるとか――を考えながら待ちます。
困りました、ちょっと緊張しています。
ふと、嗅ぎ慣れだしてしまった香りが近くでしたと思ったら、顔の両脇から腕がにょきっと出てくるのが目の端に映りました。
反射的に左手で右手を掴み自身の左脇腹方向に引っ張ると現れた体に右肩でのしかかり、敷物へと押しつけます。
相手の腕を捻りかけたところで、
「ちょ、まっ、……ルル!!」
とレイドリークス様の悲鳴が上がり我に返りました。
「えっ、あ! すみません殿下!!」
癖でつい。
と口について出ましたが、こんな癖がつく令嬢ってどうなんでしょうと自分でも思わないでもないです……とほほ。
レイドリークス様の上から退き、少し落ち込んでいると、寝転んだままの殿下が私の手を引っ張ります。
不意を突かれて、殿下の胸に倒れ込んでしまいました。
そして彼は左横を向くとそこにある私の耳に、吐息がかかる距離で囁いてきます。
「積極的だねルル、俺を引き倒して……なに、するつもりだったのかな?」
思わず背筋が、ぞくり、とします。
いつの間にか抱き込まれ背筋につ……と彼の指が這っていきました。
――――喰らわれる――――




