10. 可愛い弟なんです
怒涛の一日が終わり家へと帰宅しました。
昨日の祝賀会からこっち、なんだか心労がすごい気がして体も重いです。
こんな時は癒されたい!
まずは癒しその一のお部屋へ、いざ参る! です。
コンコン
「マークス、今ちょっといいですか?」
「いいよ〜」
返事をもらえたのでドアを開けて部屋へと入ります。
そう、私には可愛い可愛い弟がいるのです! しかも三人。
そのうち一番末の弟がこのマークス、今年の誕生日を迎えると十一になります。
とても優秀だった為イメージングステイ期間をかなり短縮して、今は家に帰ってきていました。
まだ姉からすると可愛い盛りなので、こうして疲れた時には時々、抱擁しに来たりおしゃべりしに来たりして楽しい時間を過ごさせてもらっています。
「ん〜、今日も可愛いっ!」
「姉様、また何かあったの?」
抱きついた弟に聞かれて、私は少し悩みます……なんて言えば良いかしら?
良い案はなかったのでそのまま伝えてみることにしました。
「皇子様に、好き好き結婚して! って言い寄られて困ってるんですよお姉様」
「え?!」
「そうですよね、平凡なお姉様にはありえない話だって、マークスも思いますよねぇ」
ほんと困ってて……という私の言葉に隠れて、マークスが、……僕の……にとか………きんして、とか良くわからないことを言っています。
「姉様は、その皇子様の事が好きなの?」
お嫁に行っちゃうの? と、どこか心細げに瞳を潤ませ聞いてくる可愛い弟に、私の頬が緩みました。
「お姉様は何処にも行かないですよ、私はこの家を継ぐ予定ですし」
そう返事をするとほっとしたのか胸に顔を埋めてぎゅ〜っと抱きついてきました、ふふ、可愛い。
十分に癒されて退室し自室に戻ると、今度は癒しその二を選びに家の図書室へ。
そこで二冊本を選ぶと自室に戻ります。
私が本――とりわけ大衆恋愛小説――を好きになったのは、十歳の頃でした。
イメージングステイが始まる前に、我が家のしきたりに従い私が次期当主となることを告げられたのです。
上に立つための勉強と本格的に影になるための修行を始める、とも。
私は正直言ってやさぐれました。
当時は少女らしく、いつかお父様とお母様のような大恋愛をして旦那様を見つけたい! と思っていたからです。
十歳の子供でもわかりました、告げられた未来――次期当主にとって、それはとても贅沢な事になるのだ、と。
お父様とお母様はたまたまです、話を聞いて知っています。
やはり跡継ぎだった一人娘のお母様には長年決められた婚約者がいて。
けれどお父様が一目惚れ横恋慕の末、私のお祖父様にもお母様にもお相手の婚約者の方にも猛アタックしたり説得したりして、その深い愛情が届いた結果――お母様もお父様を愛し、結婚に漕ぎつけたのだとか。
最後には元婚約者様も、君には敵わない、と苦笑してらしたそうです。
……お父様、良く考えるとちょっとだけ傍迷惑では?
ともあれ。
荒れて領地の悪餓鬼と連むようになった私に、せめてもの慰めとしてお母様が手渡してきたのが、恋愛小説でした。
本の中でなら自由に夢を見る事ができました。
しがらみから離れ、何にでもなれたのです……勿論、大恋愛をする女の子にだって。
今でも、現実で困難にあたるといっとき夢をみます。
登場人物たちの勇気、を……借りられるように。
――どこか、祈りながら――。




