9. 授業なんです
うっかりが過ぎたお昼ご飯もなんとか無事終わり、自分の教室に帰ってきました。
途中廊下で他の方の視線をバチバチと受けましたが、自分にどうにかできる範囲ではないので……諦めます。
魔法学校は午前に三時限、午後からは一時限だけあります。
今日の午後からの授業は魔法学です。
お昼ご飯の時に感じた謎の敗北感を、なんとか霧散させながら魔法学の準備を始めると、同時にチャイムが鳴り先生が教室へと入ってきました。
先生が教壇で挨拶をし、今日の授業内容を話し始めます。
「皆さんご機嫌よう。いよいよ最終学年ですが、驕ることなく真摯に――そして厳かに魔法についての知見を深めていきましょう。では、本日まずは基本のおさらいから始めます。テキストを開いてください――――」
魔法――それはこの世界の何処にでもある当たり前の概念です。
あらゆる存在と魔力は密接に関わりがあって、この世で顕現している以上、切っても切れないものでもあります。
特にこの国は魔法の素地のある者の割合が多く、魔法学もとても発展していて。
その素地を人が最大限活かせるように、法整備もされてきたそう。
先程皇子殿下との話で出てきた、イメージングステイもそのうちの一つです。
素地のある子が十歳になると一年間他所で生活を送るこの制度は、国策として運営されています。
何故、知らない土地へ行くのか。
魔力とは、自分や自然界の魔力を自分の体内で練ってやっと使える力なのだそうです。
力を目に見える形にする源は摂理に則ったイメージの力。
この世界にある、理に従って想像しないと発現しません。
人が自分の生活圏の中で知れることは実はそんなに多くは無いそうです。
そこを補う為に昔の研究者が、イメージングステイする、という仕組みを提唱したと聞いています。
先生が魔法の基礎についてを話し終わりました。
習学の程をみる為か、教室を見渡すと一人のクラスメイトを指名します。
「それでは今の話を踏まえまして、ガレージアさん。魔力を目に見える形にする為に必要な要素はなんですか?」
「はい先生。魔力を安定して練る為の体幹力と、その魔力を外へ放出する為の正確な“言祝ぎ”が必要です」
「良く学んでいますね、正解です。席についてください」
ほっとしながら彼が席に着くのが見えました。
基礎を学んだのはもう六年も前のこと。
割と息をするようにこなせるようになっている物事を、改めて言語化するのはなかなかに大変です……心中を察しながら、話を再開した先生の言葉に耳を傾けます。
「建国物語ではこう語られています――かつてこの土地には邪竜がおり、禍々しい気と共にその地に住む人々を苦しめていた。ある時そこへ勇者が降り立ち邪竜を打ち倒したが禍々しい気が残った。それを浄化したのがその土地の巫女である、と。勇者に感謝した人々はその地の巫女とその勇者が結ばれ統べることを熱望し、勇者もまたそれに応えて夫婦となりやがて国が成った――」
一旦区切りながらさらに続けます。
「研究者の間では浄化した邪気が魔力に変換されたのではと」
ビビビビビビ
話の途中でチャイムがなってしまいました。
途中でしたが今日の授業はこれまで、と言うと先生は教室から出ていかれたのでした。




