悪役令嬢に愉快な仲間たちが加わった
秋の王宮のパーティー。
リザローズをエスコートしダンスを共にする。
見惚れるほどの美しいステップ、しなやかな所作、完璧な婚約者だ。
ふわりと揺れるレースの袖、ふうわりと空気を封じたかのように膨らむフリルのスカート。
リザローズの豊かな胸を惜しむことなく強調し、細い腰を際立たせるデザインのドレス。
夜空のような青い色に銀の糸で刺繍が神秘的に煌めき、リザローズの白磁の肌を艶っぽく魅せる。
そのドレスはステップを踏み、回り、揺れるたびにリザローズの洗練された美しさを余すことなく伝えるようだった。
周りで見ているものたちも、リザローズの一挙一動にため息を吐くのが聞こえる。
曲が終わると、拍手が沸き起こる。
一礼をして、飲み物を取りにフロアから離れた。
二人で飲み物を飲んでいると、片手を挙げながら王子が近寄って来た。
「ラルク、やっと美しい婚約者殿をパーティーに連れて来てくれたね。
ぜひとも挨拶させてくれ。」
「殿下、わざわざありがとうございます。」
と言いつつも、リザローズと王子の間に割って立つ。
リザローズを簡単に紹介する。
リザローズは完璧な淑女の礼をとり、いつもより冷ややかに見える態度をとった。
王子は目を細め、リザローズを値踏みするように見ながら
「一曲お相手していただける約束、まだ有効だろうか?」
と聞いてきた。
まじ、こいつ殺ったろか?
そこでリザローズは侮蔑の眼差しをたたえ、あえて冷たく聞こえる声のトーンで
「先ほどダンスをしたときに足を痛めたようで、申し訳ありません」と断る。
王子はたじろぎながら、ではまた今度とそそくさと向こうに行ってしまった。
すると向こうの方で、きゃっとか、代はいい、次会ったときぜひダンスの相手を務めて欲しいとか、聞こえてきた。
つまりヒロインと運命の出会いをしたのかな?
良かった良かった。
今回リザローズを連れてこのパーティーに来た目的は3つ。
一つ目は王子とリザちゃんを出会わせ、氷の薔薇のイメージを植え付けること。
そのあとのヒロインとの出会いが引き立つように今回のパーティーでの作戦決行にしたのだ!
先ほどの王子の態度…。こちらは成功したに違いない。
あの王子、ちょっとナルシスト入ってるから、ちょっと冷たくされると嫌がる傾向があるのはゲームで分かってるしね!
二つ目はリザちゃんと俺の婚約を広く周知させること。
ダンスをしたときにかなりの注目を浴びたので、素晴らしい婚約者が居るアピール出来たはず。
大きいパーティーに婚約者を同伴しない俺を見て、リザちゃんとの不仲を勘繰られていたらしい。
この間からなぜか自分の娘同伴で挨拶しに来る輩が沢山いたのだ!多分玉の輿狙いだな。
それにやはり顔を売るのにはこういった大きいパーティーに出るのが効果的だと身に染みて分かっているので、リザちゃんの顔を売る役割もある。
3つ目はその他の攻略対象者とその婚約者と顔を合わせ、できれば友人になること。
特にこの3人には婚約者とぜひとも仲睦まじく過ごしてもらいたいのだ!
ミリアが王子以外のルートになると、王子が嫉妬に狂い執務をしない愚王になるっぽいんだよね。
将来支える王が、愚王。絶対やだ!!
安定した将来のためにも王子とヒロインをくっつけようじゃないかっ!
近衛騎士隊長の息子のエリックとは社交界デビューの時に知り合い、茶会にも招待したこともあるほど親しくしていた。
エリックは気さくで、おおらかな人柄で友となるのに時間はかからなかった。
このパーティーの時に婚約者を紹介し合おうとも話していた。
ハロルドとマーロンは、ウィルウッド公爵家と並ぶ家格の公爵家。王国で3つしかない公爵家だが、いつも政治のことで意見がぶつかる関係らしく、親同士が仲良くない。そんな訳でパーティーに出ても挨拶程度だ。
ゲームではハロルドはインテリキャラ、マーロンは末っ子系甘えん坊キャラだったと記憶してるが、実際はどうだろうか。
いままではお義父様も居たので、なかなか長々と話して人となりを確認することもできなかったが、今回は仕事で3公爵が居ない。
これはチャンスだと思う。
このあとはエリックにハロルドとマーロンを連れて来てもらい、話をしてみようと思っていた。
***
考えてごとをしていると、リザちゃんが腕を絡めてきた。
豊かな胸が腕に当たり、そこだけ熱く感じた。
「どうしたの?」と優しく聞いてくる、俺の天使…。
「このあとエリックと会うだろ?
どんな婚約者を連れてくるのかとか、リザローズと仲良くなれそうな人ならダブルデートしたいなぁとか、考えてた。」
「っ!、やだ、ダブルデートだなんて、恥ずかしいわ。
でもエリック様の婚約者の方と仲良くなれたら嬉しいわ。」
はにかみながらうつむく姿も可憐だ!
「そこのマカロン美味しそうだね。あーん」
とわざとらしく口をあける。
「もうっ!しょうがないですわねっ」と照れ隠しのツンモードでマカロンを口に入れてくれる。
「んっ、やっぱり美味しい。リザ、ほらあーん」
お返しにリザちゃんにもマカロンを差し出す。
口に入れると、指がリザちゃんの唇に触れた。
その瞬間、真っ赤になったリザローズが恥ずかしそうに
俺の腕に額を押し付けた。
「ラルク、見せつけてくれるな。」
エリックがにっと白い歯を見せて、冷やかしてきた。
その後ろにハロルドとマーロン、そして一人の令嬢がいるのを確認する。
「エリック、やだな、盗み見るなよ、リザローズが減るだろう」
とラブラブオーラ全開の返しをする。
うわーやだねーとおどけて返すエリックと、
恥ずかしそうにジロリと俺を睨むリザローズ。
ハロルドとマーロン、そしてエリックの婚約者に向き直り、挨拶をする。
エリックも自分の婚約者を紹介した。
「こちらはルミエール・アントン。ついこの間、婚約御披露目をしたばかりなんだ。こういったパーティーにエスコートするのははじめてだな。」
すると紹介されたルミエールはすっと淑女の礼をした。
刺繍の美しい薄い黄色のドレスをすっと持ち上げる仕草が、とても清廉で美しい令嬢だ。色素の薄いオレンジゴールドの髪をハーフアップにして、黄緑の瞳をくりくりと動かし好奇心を押さえられないようにこちらを見た。
「ルミエールがエリック様の婚約者だなんて、知らなかったわ。」リザローズが驚きの声をあげた。
「私もエリック様とラルク様がお友だちなんて知らなかったわ」
とルミエールがふふふと笑う。
「そんなふうに笑うのだな…」エリックが、ポツリと呟いた。
ハロルドとマーロンは「素敵な婚約者でうらやましい」なんて言ってきたので、「リザちゃんは俺のもの!手を出したらダメだ!」と牽制する俺を、白い目で見てきた。
そんなこんなで和やかなムードで話が出来たおかけでパーティー終盤には、次はぜひとも婚約者を伴って、ピクニックにでも行こうと約束まで出来たのである。
ちなみにルミエールとリザローズはお茶会などで知り合って、お互い趣味の刺繍で意気投合して、かなり親しく付き合っていたらしい。
確かに家のお茶会に来たことあるかも。
俺はリザちゃんばかりに目がいってたから、覚えてなかったんだよね。これからはリザちゃんの交遊関係もちゃんと見とこうと誓ったのだった。