悪役令嬢は社交界デビューする
舞踏会の会場へとリザローズとお義父様と三人で馬車で到着した。
リザローズはまだ13才という幼さではあるが、水色のフリルの美しいドレスを纏い、まるで天使のような清らかなオーラを放つ美少女だ。
そして俺もこれでも一応攻略キャラ、超美少年なんだよ。
もう毎日鏡見るのが楽しくてたまらない!!
銀髪に合うブルーグレーの正装を身に纏う。緻密で繊細な銀刺繍を施した襟元、そしてカフスもリザローズの美しい薄紫の瞳と同じカラーにしてみた。
そんな美少女を婚約者に持ち、今夜エスコートができるなんて、俺、世界一の幸せ者じゃない!?
まぁいかついお義父様もいるから、変な真似はできないけどね(^^;
社交界デビューは王宮で年3回春夏秋に行われる舞踏会でというのが慣習だ。
自分の誕生日に一番近いパーティーに招待される。
それ以降は王家が招待すればデビュー後もパーティーには参加できるので、
デビューの時にはなるべく顔の覚えの良いように振る舞わなければならい。
招待されてもお金のない貴族は王宮主催のパーティーに参加できるほどのドレスを用意できないものもいるので、あくまでも慣習としての色は濃いが、社交界に顔を売り込み、良い縁談を結ぶためには無理してでも参加したいと思う貴族ばかりであろう。
会場は500人は一斉に踊れるのではと思うほど広い作りで、はぐれてしまったら容易に見つけられそうもないほど人でごった返していた。
リザローズと恋人つなぎで手をからめ、絶対にはぐれないようにお義父様の後ろを歩く。
まず最初に招待のお礼をしにいくことになっている。
高い位置に据えられている玉座にいる王様とお妃様に挨拶をする。
「本日はお招きいただきありがとうございます。こちらは我が娘・リザローズと息子のラルクです。以後お見知りおきください。」
お義父様が紹介すると、少し残念そうな表情で王様が
「本当に美しい子らだな、ウィルウッドよ。
リザローズには我が王家に迎え入れられないのが残念だ」
と小さくため息をついた。
王様が手を少しあげて、フィルと呼ぶと
フィリップ王子が王様の隣まで進んで
「どうなさいましたか、父上」
と声をかけた。
「ウィルウッドの娘、リザローズだよ」
と顎をあげて目線を促す。
俺は無視かいっ!てつっこみをいれたかったが、
お義父様に迷惑がかかるからやめておいた。
王子が振り向くと、リザローズの美しさに目を瞠る。
リザローズも王子を見て息を飲むような仕草をした。
俺はまさかシナリオ補正がかかってリザローズは王子に心奪われたのかと手に汗を握る。
王子が一呼吸おいてから、
「リザローズ嬢良ければ私と踊りませんか?」
と誘って来た。
俺はうぐぐと下唇を噛む。
するとリザローズは
「殿下、申し訳ございません。
まだ正式には発表してませんが、こちらのラルクと婚約しております。
デビューのダンスは婚約者のいるものは、婚約者以外とは踊れないのが、マナーですので…。」
「わかった、では次のパーティーで出会えたらそのときは是非お相手してもらおう」
リザローズに全て言わせる前に、有無を言わさず次の約束をさせるなんて…あいつめっ!とか不敬なことを考えてしまう。
不穏な空気を感じたのか、お義父様が王様にそそくさと挨拶を済ませてその場をあとにした。
やはり腐っても王様(いや、腐るって特に愚王とかって訳でもないが)ちょっと緊張した。
お義父様も先日婚約の話を断ったせいか、王様の顔色を伺っていたらしい。
「断ったっていうのに、わざわざ殿下呼び寄せるとかまだ諦めてねーのか!…ちっ!」
とかちょっと、心の声で出ますよ、お義父様!!
リザローズも心ここにあらずな様子でいた。
「もしかして、王子様とダンスしてみたかった?」
と何でもないことのように探りを入れる。
すると、リザローズは不安を取り繕おうともせず、首を横に降った。
「なんだか嫌な予感がして…。…ラルクは私を守ってくれる?」
潤んだ瞳で少し首を傾げながら聞いてくる。
そんな庇護欲をそそる顔をされたら、抱き締めたくなるじゃん!
「当たり前だろ。ずっと僕がリザローズを守るよ。」
背中をポンポンと優しくたたく。
そんな俺たちを柱の陰から見ている王子がいることに気づかなかった。