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第8話 最強、田舎暮らしを満喫する

「何が、起きたの……」


 ぽつりと誰かがそう言った。それもそのはず。目の前にいた魔物モンスターは一瞬にして倒されている。


誰が倒したのか。決まっている。ロイだ。

どうやって倒したのか。それは分からない。


 ただ、まっすぐ上から殴ったような気がする。しかし、あの強いモンスターがあの一撃でこうして真っ平らになるだろうか?


「凄い……」


 狩人の誰かがそう言う。


「ろ、ロイっち。凄いっていうか……強いね。今の何? 魔法??」

「いや、真上から殴っただけだ」

「……そ、そうなんだ」


 アイリの言葉にドヤ顔のまま返すロイ。彼女たちは有角族アングルである。力に優れた彼女たちは、確かに自分たちの肉体の強さに自信を持っていた。戦争で他種族を守れるほど、自分たちは力に優れているんだぞ、と。


 人間が知恵で工夫するように、森霊族エルフが魔法を行使するように、有角族アングルは力に優れているんだぞと自信を持っていた。だが、目の前に現れた人間は……。


「すごい!」「何今の!!?」「どうやったの!!」


 わっと集まってきた狩人に囲まれるロイ。


 彼女たちは腐っても最果ての村で狩人として村を守ってきたガーディアンだ。こんなところで自信を喪失などしない。凄い技術を目にしたときに感じるのは、畏怖と敬意。すなわちロイに抱かれたのは後者であった。


「今のって私にも出来る?」

「出来るぞ」

「魔法を使ったの?」

「いや、使ってない」

「ねえねえ、あなた狩人にならない!?」

「え゛ッ……。それはちょっと……」


 周りに囲まれて質問責めにされるロイ。


これはこれで悪くないな、なんてことを思いながら質問に答えているといつの間にか、長い時間を外で過ごしてしまっているではないか! 


そろそろ帰らないと、サラが心配する……。


「ねえ、戦争で最前線にいたって本当!?」

「『勇者』様を見たことある!!?」

「『聖騎士』様は!?」


 だ、駄目だ……ッ! この人たちからは逃げられないッ!!


 ロイは心の中で白旗を上げると、片っ端から答えていく。途中でめんどくさくなって、適当な返答しちゃったけど許して。

 

「勇者様が死んだって本当なの!?」

「マジだ」

「ほ、本当だったんだ……」

「勇者様が死ぬなんて、魔神はどれだけ強かったの……」

「ねえ、戦争の話を聞かせて!」

「……あんまり楽しいもんじゃねえぞ」

「うん、それでも良いの!」

「良くないだろ」


 そんなこんなでロイは集団から逃れると、柵を乗り越えて自宅に帰還。逃げるときに狩人の講師をするという条件をつけてようやく逃げ切れた。ということで新しい生徒たちが追加で出来ちゃったことになる。


 なんか、俺が思ってた田舎暮らしと違うんだけど…………。


 だが、他人から頼られるというのは悪い気はしない。それに、金を稼ぐための仕事が嫌で街を抜け出したのだから、こうして必要なものを必要なだけ持つ暮らしというのもそう悪く無いのかもしれない。


「お兄様、お帰りなさいませ」

「はい、ただいま……」


 自宅の扉を開けると、そこにはサラが無表情で立っていた。


 ……お、怒ってるよな。絶対に……。


 サラからして見ればロイはシスターを教会まで送っていっただけ。なのに、帰ってくるのに2時間近く経っているのだ。そりゃ()をしていたと思うのが普通だろう。


ナニとは言わんけど……。


「どうやら、もう1人目が決まったようですねっ!!」

「ち、違うんだ……。どうか俺の言い訳を聞いてくれ」

「良いでしょう。弁解出来るなら弁解してみてください」

「じ、実はだな……」


 ということでサラにスケルトン・マグナを倒して狩人たちに囲まれていた話を包み隠さずに打ち明けた。


「そう言うことだったんですね……。お兄様を疑って申し訳ありませんでした!!」

「人は間違える生き物だからな。仕方ないさ」


 そういってひしりと抱き合う2人。そのまま仲良く家の奥に入っていく。食事はサラが作ってくれていた。




 翌朝、昨日と同じようにしてアイリの扉を叩く音で目が覚めた。


「ロイっちー!! 朝だよー!!!」

「……おはよう」


 どんよりした顔で扉を開けると、昨日魔法を教えたメンバーが肉や野菜、穀物などを持って立っていた。


「……どしたの」

「魔法を教えてもらったのに何も返してなかったから」

「なるほど、だから食料を……」

「うん。いらなかった?」

「いや、ありがたくいただくよ。勝手に入って置いていって……」


 寝起きなので頭がぼんやりしたまま、ロイがそういうとどやどやと少女たちは家に乗り込んでキッチンにどんどん食料を置いていく。


「おー、1か月分の食事にはなりそうだな」

「うん。足りなかったらいつでも言ってね!」

「ありがとな」


 ということで今日も魔法の練習である。狩人たちが攻撃魔法を使えるようになったら、この村の人々は今よりもっと安心して暮らせるだろう。少なくとも昨日のような、急な出来事にも安心して対応できるはずだ。


 それに魔法が使えるということは、生活を豊かにしてくれるということである。ロイの教えた魔法でこの村の人々が喜んでくれるなら、彼としてもとても嬉しい。


「ロイ! 見てみて!!」


 狩人4人+ミカに魔法を教えているとラケルが大喜びでこっちに来た。何をそんなに喜ぶことがあるんだよと思ってラケルを見ると、自分の周りに4つも火球を生み出してそれをぐるぐると自分の思うがままに動かしているではないか。


「……お前、すげえな」

「でしょ!? 凄いでしょ!!?」

「いや、マジの話お前の飲み込み具合なら宮廷魔術師も狙えるんじゃないのか」

「ほ、本当に……? おだててるんじゃなくて……?」

「本当だよ。お前はちょっと才能あるわ」

「やった! ロイは何個くらい出せるの?」

「俺? 聞きたい??」

「や、やっぱ良いわ……」


 昨日のアレがあるので、ラケルもロイに深くは聞いて来なかった。確かにラケルには才能がある。控えめにいっても天才だ。何しろ魔力という概念を掴んでから数時間で初心者卒業レベルの魔法を使えるようになっているのだから。


 だが、この世界には規格外の人間も存在する。それだけの話である。


(そういえば貴方、長老の話はどうなったの?)


 ふと、小声でラケルが話しかけてきた。他の4人は一生懸命に魔法の練習をしていてこちらの会話には気が付いていない。だからこそ、このタイミングを見計らって話しかけてきたのだろう。


(どうにもなってない)

(まだ期限まであるだろうけど、早くした方が良いんじゃない?)

(そうはいってもまだこの村にきて2日目だろ? 手を出すには早いって)

(そうでもないみたいだけどね)

(それは……どういう……?)

(なーいしょ。じゃね)


 ラケルは5つ目の火球を生み出しながら、ロイから離れていく。あの5つの全ての動きを並列しているあたり、ラケルは幸運だったと思わずにはいられない。もし、ラケルが魔法を覚えるのが5年早ければ、ここに居ない可能性もあったからだ。


 間違いなく悪夢のような『魔神戦役』に駆り出されていただろう。あの戦場はロイと同じように年端も行かない子供たちですらも最前線に駆り出された。そうでなければやっていけないほどだったのだ。


 だが、魔神に対するように人族にも化け物のような子供たちが現れ始めた。その結果、魔神は勇者の犠牲によって討つことが出来たのだから。


「ま、死んだ奴のことを考えても仕方ないか」

「何か言った?」

「いや、何も?」


 勇者は死んだ。俺は生きている。


 何があろうとも、その事実は変わらないのだから。

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