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第7話 最強、魔物を狩る

「ごめんください」


 日が山間に沈んでいくその間際、家の扉を叩かれた。こんな時間に誰だろうと思って扉を開けると、教会服をきた妙齢の女性が立っていた。透き通るような銀髪が目に映える美人だった。


 同じ髪色のロイとしては親近感がわかないことも無い。


「どちらさまで?」

「今日はミカがお世話になりました」


 そう言ってペコリと頭を下げる女性。


ミカ、教会、女性。3つのワードから導かれる答えはすなわちッ!


「も、もしかしてミカのお母さん……?」

「はい。ミカの保護者です」


 いやいや、お母さんって歳じゃないでしょ。どう見たってお姉さんじゃん……。


年齢的には23か24だろうか? ミカと年齢は10も変わらないはずだ。っていうか、この人凄いぞ……! 何とは言わないけどミカより凄い。とんでもないものを2つもお持ちだッ!! 


 その胸でシスターは無理でしょ……!


「どうしてここに……?」

「実はロイさんたちが新しい村人ということで折を見て挨拶に伺おうと思っていたんです。そしたら今日、あの子が杖を突かずに帰ってきたんです。それで話を聞いたら、ロイさんに目を治していただいたと言うもので、居ても立っても居られなくなってしまって」

「俺は出来ることをしただけですから」

「なんとお礼を言ったら良いものか……。あの子を守れなかったのは私の責任だったのです。ありがとうございます……」

「処置が素晴らしかったおかげですよ。アレは誰から教わったので?」

「『賢者』様より教わりました」


 ぴくり、とフードに隠されたロイの眉がわずかに動いた。


「ということは『戦役』に」

「はい。本来は戦死した方々をとむらうために参加したのですが、末期の方では治癒魔法の前の応急処置を手伝っていました」

「ああ、道理で」


 治癒魔法は怪我をしたところを見分けて治療するよりも、一度切り離して新しいパーツを作った方が早い。特に地獄の大戦中では満足に怪我人を見る時間も無かったので傷を負った部分を斬り落として生やすという乱暴極まりない治療がまかり通ったのである。


 ミカの傷ついた眼球を取り除いたのも、いつか治癒者が訪れた時に治癒しやすいようにだろう。


「ロイさんも『魔神戦役』に参加されたのですよね」

「ええ、まあ」

「ロイさんが助かったことを、神に感謝致します」

「それは辞めておいたほうが良いと思いますよ」

「え?」


 シスターはロイの言葉に思わず聴き返した。突然のことだったので、言葉が上手く聞き取れなかった。


「何でもないです」


 しかし、ロイはかぶりを振った。


「そう、ですか」

「それより、イズ……ああ、『賢者』とはどこで知り会ったんです?」

「戦争末期のこの村よりずっと東の場所で治療所に、『魔帝』がやって来た事がありまして」

「あー……。なんかあったような気がしますね」


 昔の記憶を掘りだしながらロイはそう返した。正直、そんな出来事は戦争中にありふれており正直どれがどれだか分からないのだが、話を合わせておけば問題ない。


「その時、『賢者』様が助けに来ていただいたんです」

「そんなことが」

「ええ。その後にやってきた、『勇者』様が怪我人全員を治して行かれたんですけど、その時治しやすいようにと『賢者』様より処置を教わりました」

「へえー」

「ロイさんも、『勇者』パーティーのどなたかにお会いしたことが?」

「………………」

「ロイさん?」

「……まあ、ありますよ。最前線にいましたから」

「どうでした?」

「どうでしたって……。話してみると普通の奴らでしたよ。とても普通の人間でした。最前線にいる奴らのことを全員自分の仲間だってよく言ってました。だから、ああなったのはどうしてなんだか……」


 長きに渡り、人類を苦しめ続けた『魔神』。

それは尊き『勇者』の犠牲によって撃ち破られた。


「……失礼なことを伺いました」

「いや、別に良いですよ」


 彼がもう少しだけ強ければ、あんな出来事は防げたのかも知れないのだから。


「すいません。少し長く話してしまいました」


 シスターはそう言って一礼。綺麗な礼だ。


「教会まで送っていきますよ」

「良いんですか?」

「もう日が沈んでしまいましたからね。つーわけで、サラ! 留守番頼んだぞー!」

「はーい」


 ロイは手元に光の球を生み出すと、すっかり暗くなってしまった足元を照らしながらシスターを教会へと送ることにした。


「……魔法は便利ですね」

「教えましょうか?」

「良いんですか?」

「まあ、減るもんじゃないですから」

「ふふ、ありがとうございます。ミカと2人で教えていただくのも良いですね」


 『魔除けの香』の臭いがうっすらと村の中に充満し始めた。一応、村の外で焚いているはずだが、風向きによっては村の中で焚いているのかと思うほど臭う時もある。


「ねえ、ロイさん」

「どうしたんです?」

「出会ったばかりの貴方に1つお願いしたいことがあるんです」


 ……嫌な予感がするな。


「……聞くだけ聞きましょう」

「ミカを貴方にお願いしたいのです」

「……俺、この村に来たばかりですよ」

「ええ、ですがあの子には神に仕えるよりも1人の女の子として生きて欲しいのです」

「それは、そうだとしても何で俺なんですか」

「ふふっ、不思議ですよね。何故だか貴方なら大丈夫だと思ってしまうんです」

「良くないですよー。どうするんですか、俺が後先考えずに襲うような奴だったら」

「それならそれで」

「いや、駄目でしょ」


 何でこの村の人たちは子供たちが襲われるのにそんな好意的なんだよ。


「襲う人はそこで駄目って自分で言わないですよ」

「…………」


 あれ? これもしかして俺が試されてたわけ?


「それに、長老からこの村で暮らしていく条件を聞きました」

「何で聞いたんですか」

「長老が言いふらしていたので」


 あのババア!!


「ロイさんならすぐにでも達成できますよ」

「……それ、喜んで良いんですか?」

「もちろんです」


 そう、シスターが微笑んだ瞬間にズンッ!!! と、大地が揺れた。


「きゃっ」


 悲鳴を上げて倒れこむシスターを抱きかかえて、ロイは音の発生源を見た。村の西側、柵の向こう側から何物かが攻撃を仕掛けている。


「香がまだ完全に焚かれていない内に魔物モンスターが来たみたいですね」


 ロイがそう言うと、シスターはほっと溜息をついた。


「夜の狩人たちがすぐに駆け付けてくれると思います」


 シスターはそういうが、まだ身体がわずかに震えている。


「急いで帰りましょう」

「は、はい」


 ロイはシスターを抱えたまま、軽く走るとそのまま村の中心にある小さな教会に到着。中にシスターを入れると、心配そうに扉の前で待機していたミカがいた。


「ちょっと俺見てくるわ」

「き、気を付けて!」


 シスターをミカに預けて、教会の扉を閉めたロイは跳躍。重力という枷から身体を解放すると、教会から数百メートルは離れていた村の柵を飛び越える。大砲から放たれた砲弾のようにロイは放物線を描いて着地。周囲を見ると、見知った顔があった。


「えっ!!? ロイ!!?」

「アイリか。状況は?」


柵を飛び越えてやってきたロイにアイリは驚愕。


ロイは彼女の背後にいる魔物モンスターを見た。


「ちょっと厳しいかも!!」


 背丈は5m、全身を人骨が組み合わさって巨大な人型を作っている。その手には錆び付いて、ボロボロになった巨大な鉈がある。既に壁には大きな亀裂が2つ、その大きな鉈で攻撃したのだろうと思われる傷痕が深く残っていた。


「……スケルトン・マグナか」


 骸骨の魔物モンスターであるスケルトンの中位種。魔法も近接も極まった戦いに特化した騎士たちが1人で倒せる基準となるような魔物モンスターだが、一般的な狩人たちでは複数人で挑んでも撃ち破れるかどうかは厳しい魔物モンスターだろう。


「追い払えれば良いんだけど!」


 そう言ってアイリは弓に矢をつがえて射る。ヒュッ! と音を置き去りにした矢が巨大な頭蓋骨に当たって弾かれた。


アイリだけではない。他の狩人たちも矢を射ることで注意を引こうとしている。引いた後は森の中まで引き連れていくつもりだろう。この光も何もない森の中に。


「俺が行く」

「え?」


 アイリの問いかけに応える声は無い。次の瞬間、


『WoooooOOOOOOOOOOOO!!!』


 スケルトン・マグナが吠えた。飛んでいた数々の矢が咆哮によって勢いを失い、地面に落ちる。


 そして、それがスケルトン・マグナの最後の咆哮だった。


 バッガァァァアアアアアアアアアン!!!!!


 まるで雷が至近距離に落ちたような激しい衝撃と音が響き渡る。思わず、アイリを含めた狩人たちはスケルトン・マグナから生まれた衝撃波に反射的に目を瞑ってしまう。


 刹那、恐る恐る目を開けると先ほどまで目の前にいたスケルトン・マグナの姿かたちがどこにもなく。


「……終わりだ」


 どう力をかけたらそうなるのか分からない。厚さ1cmほどに圧縮されてこの世から消え去ったスケルトン・マグナの上にドヤ顔で立ち尽くすロイだけが残っていた。

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