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無貌の英雄~魔法も剣技も極めた俺は最強すぎてスローライフが送れません(泣)~  作者: シクラメン


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第22話 最強の邂逅

「私はエルスです。よろしくお願いします」

「どうも」


 ロイは一度村に戻るとアイリを連れて、騎士団のキャンプ地に戻ってきた。彼女は魔物モンスターを狩るのが得意と言っていたので、ぜひとも後学のために連れてくるべきだと思ったのである。


 ライネとメルも連れて来ようか迷ったのだが、彼女たちはどうやら狩りに出ているようで村の中に姿が見えなかったので放置だ。


 それで騎士団のキャンプ場に戻ってくると、エルスという少女がロイたちの班に加わるという。4人班なのでこれでちょうど良い。


「よろしく、俺がロイだ」

「団長から聞いています! よろしくお願いします!!」


 身体がガッチガチに固まっているので相当緊張しているのだろう。もっと気楽にやってくれていいとロイは思うが、エルスにとってはそうでは無いのだろう。一体カインが何を言ったか分からないが、昔の話でもしたのだろうか。


「じゃあ、4人揃ったから行こうか」

「はい!」


 ロイはそう言って手にした地図を広げた。これは魔法で模写コピーした地図だ。地形と現在地を確認しながら『天蓋の森(ドーム・フォレスト)』に向かう。『天蓋の森(ドーム・フォレスト)』はデカいので、9班がかりで調査するのだ。


そのため、しっかりと調査する場所を各班ごとに割り振ってある。ロイが担当するところが心なし大きいような気がしないでも無いが、これも実力差を考えれば必要なことだろう。ノブレス・オブリージュという奴だ。


天蓋の森(ドーム・フォレスト)』まで暇なので適当な雑談で時間を潰すことにした。


「エルスはどうして騎士団に入ったんだ?」

「弟たちを支えるためです。父が『戦役』で死んだので母と2人で弟と妹の面倒を見なくちゃいけないんですよ」

「ほー。何人家族なんだ?」

「6人です。5人兄弟なんですよ」

「へぇ。大変だねえ」


 騎士団に入ると、苦しい家計の者には色々と補助が出る。国を守るための守護者の家族にひどい暮らしをさせるわけにはいかない。そういう国のプライドが彼女たちを助けているのだ。


 まあ、騎士団に入るにはそれなりの試験テストを通り抜けなければいけないが。


「将来は騎士団長になりたいのか?」

「うーん。どうでしょう。私にあそこまでの才能はないですから」


 そう言って幸薄そうな少女は微笑んだ。


「カインは、まあ別格だからな」

「……はい」


 4人は森の奥に奥に入っていく。ロイは目印となる地形に当てはまるたびに地図を開き、自分の居場所を確認する。森の中で迷えばその時点で終わり。ロイがいるなら脱出できるだろうが、念には念を入れておくくらいでちょうどいいのだ。


「憧れるか? カインに」

「……難しいですね。憧れ、というにはあまりに人として追いつけませんから」

「まあ、それもそうかもな」

「ロイさん。『魔神戦役』生き残った人たちは皆、強いです」

「……そうだな」

「父は騎士として、国を守るために最前線に志願したと言います」

「お父さんが騎士だったのか?」

「はい」


 そうか。だから、この子は騎士になったのか。


「父は弱かったから死んだのでしょうか」


 後ろに立っていたアイリとラケルの身体がびくりと硬直した。それもそのはずだ。後ろの2人も戦場で父を亡くしているのだから。


「そう思うか?」

「私にとって、父は強かったです。誰よりも強いと思っていました。ですけど……」

「運だよ」

「え?」

「運だ」

「それは……?」


 エルスはロイが何を言いたいのか分からずに首を傾げた。


「『勇者』ですら死ぬんだ。じゃあ、生き残ったカインは『勇者』より強いのか? 生き残った俺は『勇者』より強いのか? どう思う?」

「…………」

「運だよ。それだけだ」


 ロイはその時、足を止めた。目の前には急に背丈が伸びた巨大な森が拡がっていた。木の高さはどれも40mほどはあるだろうか。天高くそびえる木々は枝が無数に絡み合って、空を隠す。そのため、地面にまで光が届かず小さな木々は育たたない。


 『天蓋の森(ドーム・フォレスト)


 魔力によって形を変えられた木々たちの存在する場所である。


「エルス、『ミレニモの葉』はあるか?」

「は、はい」


 少女は腰のポーチから人の手の平ほどの葉っぱを4枚取り出すと、それを全員に配った。


「何これ?」


 ミレニモの葉を初めて見るのか、ラケルがミレニモの葉を手に取って首を傾けた。


「ん? ああ、これは『ミレニモの葉』って言ってな。()()()光を出すっていう面白い特性があるんだよ」

「……闇を食べて」

「そういうことだ。こういう暗い場所の探索に使う。場所が場所だから、松明たいまつは使えないだろ?」

「うん」

「だからこれを腰に付けることで灯りにするんだ」

「へー」


 ラケルはそう言って腰に装着した。ロイもそれに続く。全員が装着したのを確認すると、ロイは『天蓋の森(ドーム・フォレスト)』にまっすぐ足を踏み入れた。


 すっと今まで自分たちを押さえつけていた圧が無くなり、今度は逆に光りない世界に足を踏み入れる恐怖に襲われる。そんな中、ロイは何も気にしていないのかどんどん奥に入っていく。


「ちょっとロイっちー! 速いってー!」

「んー? ああ、ごめん」


 ロイは立ち止まって振り返った。腰につけた『ミレニモの葉』が激しく発光して、闇の中に4人の姿を照らし出す。


「ね、ねえ。これって危なく無いの?」

「何が?」

「だって魔物モンスターからすれば私たちの姿が見えるのに、自分たちの姿は見えないのよ? それって危なくない?」

「俺が居るから」

「ああ、そうね……」


 何も解決していないが、その言葉を聞いてラケルはあっさり引いた。それが信頼というものである。


「それでこの中を捜索するんだよね?」


 アイリは疑問を口にする。

 

「ああ、そうだ」

「どうやるの?」

「どうやるも何もしらみつぶしに探すだけだ」

「ほ、本当に?」

「だから人海戦術なんだよ」


 『天蓋の森(ドーム・フォレスト)』はデカい。それは地図上からもうかがえるがとにかくデカい。それを人力で探すという行為にアイリは崩れ落ちそうになるなかロイが笑った。


「まあ、見当の付け方が無いわけじゃない。例えばこうやって」


 ロイは手のひらに魔力を集めると、それを爆散させる。ぱぁっと散らばった魔力は障害物にぶつかって戻ってくる。


「これで大きな障害物があった場所を探せばいいのさ」

「ど、どうやってるんですか? 今の」


 を知っているエルスは腰を抜かさんばかりに驚いた。


「普通に魔力を打ってるだけだ。じゃあ行こうぜ、こっちだ」


 ロイは大きな反応が見つかった場所に足を進める。ロイのレーダーはかなり広範囲まで広げることが出来る。いまは半径5kmに絞って飛ばしたのだが、その中で見つかった反応は4つ。その中でも一番近い場所に歩いて向かった。


「ねえ、なんか変な臭いしない?」

「香木でもあんのかな」


 すんすんとラケルが鼻を動かしながらそう言う。残念ながらロイには何も感じられないが。


「香木、にしてはおかしな臭いなんだけど……」


 いまいち上手く説明出来ないのかラケルは困惑。だが、確かに歩けば歩くほどに臭いが強まっていく。


「……ん」

「分かった?」

「ああ」


 ロイもどうやら臭いに気が付いたようだ。


「これはひょっとすると、初っ端から外れを引いちまったかもな」


 ロイがそう言った瞬間、()()()


「……ほらな」

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