第15話 最強の思考
「き、騎士団長!?」
騎士団長という単語に驚くサラ。それもそうだろう。騎士団長なんてクッソ忙しい奴がなんでこんな村にまで来ているのか。
「騎士団長ってどんなお仕事してるんですか?」
「魔物倒したり、国を守ったり、まあ色々だよ」
『聖騎士』カインと言えば有名も有名。有名人である。まずあの『勇者』パーティーのNo2だったということ。そして、『魔神戦役』終戦直後に始まった王国と帝国の戦い。これをたった1日で終わらせたという男なのだから。
戦争終結時に西側、つまり魔神との戦いのために兵を集中していた王国にとって終戦直後の東側に面している帝国の宣戦布告はとてもじゃないが、回しきれる兵士など持っていなかった。そこにカインが単騎で飛び込むと数千の兵士相手にたった1人で立ち回り、それを終結させたというのである。
「つ、強いんですか」
「まあそりゃ強いだろうよ。なんてたって『聖騎士』だしな」
「お兄様とどっちが強いんですか」
「俺の方が強い」
「マジですか」
「大マジだ」
だいたいアイツほとんど魔法つかえねーし。
「っていうか、ホントに何しに来たんだよ」
ロイとラケルは揃って街の中にいくとカインのよく通る声が聞こえてくる。
「……ということで、挨拶に来たと言うわけです」
もう話が終わりそうなんですけど。ということでちょうど近くにいたアイリを捕まえてた。
「カインは何だって?」
「カイン……って、騎士団長様のこと呼び捨てにしてるの!?」
「いや、だって昔の知り合いだし……」
「あ、そっか。最前線にいたって言ってたもんね」
「それでアイツは何だって」
「何だかね、最近王国は人がちょっとずつ増えてるんだって」
「まあ、戦争終わって5年も経てば人も増えるか」
「それで、人の暮らせる土地を探しに来たんだって」
「……ここまで?」
「うん。そう言ってた」
「……………?」
「どしたのロイっち」
「いや……。ちょっとな」
人の暮らせる土地だと? それは冒険者の管轄のはずだ。間違っても騎士団、ましてや騎士団長という人間がわざわざこの村まで出張るか? いや、あり得ない。
何だ、何を考えている。カイン。
糸目で長身の好青年であるカインは18。ロイよりも2つ上だ。彼は長老に深く頭を下げると、こちらに目をやった。フードを被っているロイの顔は見えないはず。だが、カインは確かにロイを見てにっこり笑った。
「ば、バレてるんですかね」
「どうだろな。俺が睨みすぎたからその気配を察知したんじゃねーの」
「何で睨むんですか! ちょっと怖かったですよ!!」
「男同士、色々あるんだよ」
「ほぇー。友達の居ないお兄様がそんなことを言ってると何だかぐっと来ますね。これがギャップ萌えですか?」
「お前さらっとひどい事言うよな。事実だけど。ちなみに俺はいつもサラに萌えてるぞ。これが兄ってやつだ」
「お兄様!」
「え、ここでやんの? 辞めてよ」
抱き合おうとした2人をラケルが止める。ナイスタイミングだ。
「んで、何で騎士団がこの村に挨拶を?」
「何でもここから西に2km行った所にキャンプ地を作るんだって。それでびっくりさせないようにって挨拶に」
「ふうん……」
何だかんだそこらへんはしっかりしてるんだな。アイツ。
しかしロイが気になるのはその後ろの甲冑たち。視線を見られないようにするためか、それとも顔を隠すためか。カインの後ろにしっかり立って、警護しているがこちらを舐め回すように見る不快な視線にロイは嫌悪感を覚える。
狙ってるな、これは。
「ちょっとロイ、ピリピリしすぎよ」
「え、そう?」
「うん。結構ピリピリしてたわ。ピリピリしすぎて枝毛できちゃったもん」
「は?」
ちょっと意味が分かんないです。
「なによ。そこはピリピリじゃなくてビリビリやんけ! でしょ」
「はぁ!?」
マジで意味が分かんないです。
この子冗談のセンス無さすぎて心配になっちゃう。
「ねえロイっち」
「おう、どした」
「あの人、何?」
アイリが指さした先にいたのは、布一枚で作られた簡易的な服に身を包み、腰に2本ほど武器を差し込んでいる。その武器というのもこれまた奇妙だ。鞘しか見えないが、とても刀身が細いし薄い。
「侍だな」
「侍?」
「こっから東の東のさらに東にアキツの国って国がある。そこの兵士のことを侍って言うんだってよ」
「へぇー。じゃ、あれがアキツの国の恰好?」
「和服って言うらしい。あんな恰好で寒くないのかね」
「お洒落は我慢からだよぅ、ロイっち」
「へぇー、女の子は大変だなぁ」
「あの侍は男の人だけどね」
「…………」
ロイがアキツの国の兵士をみるのはひどく久しぶりだった。5年ぶりくらいである。あの時、最前線に集められたのは強者。そこには性別も年齢も国籍も人種も何もかも関係なく、ただ強者がそこに集められた。
そこにアキツの国出身だという男たちがいたのだ。国に帰ればロイほどの子供がいるということで、よくかわいがってもらった。アキツの国の位置的には魔神の侵攻は全ての国の最後であったが、世界の滅亡に最後もなにも無いということで前線に来ていた。
途中から彼らの姿は見えなくなったが無事に生還出来たのだろうか。
「どれくらいここにいるんだろうな」
「さぁ……。そんな話はしてなかったから、よく分かんない」
「そうか」
なーんだか、きな臭いなぁ……。
「ま、何でもいいや。この村には関係ないんだろ?」
「うん。西に西に行くって言ってたから、この村にはほとんど顔を見せないってさ」
「それならいいや」
「何で? 知り合いでしょ? 仲悪かったの?」
「仲悪いって言うか、そういうのじゃねえんだよ」
ロイの歯切れの悪さにアイリは首を傾げる。
「ま、いつか時が来たら教えてやるよ」
「ん! 待ってる!」
「おう、気長に待っててくれ」
ロイはそう言って受け流す。
「それにしても、土地を探すのにこんなに戦力がいるんでしょうか」
「んー、場所によるな」
サラの純粋な疑問にロイが頭をなでながら答える。
「例えば、断崖絶壁の崖とか海の向こうみたいな行き辛い場所にある土地を探すなら冒険者みたいに身軽なほうがいいと思うし、今回みたいな魔物の生息圏を無理やり力づくで奪回するなら、騎士団レベルで人が居ても良いと思う。けど、これはちょーっと多いかなぁ」
200人近い兵士を見ながらロイは言った。設備維持と荷物運びとキャンプ護衛と奪還全部をやろうと思うとこれくらいの人数は必要なのだろうか?
軍隊の維持にはまったく詳しくないロイがぼんやりと兵士の数をあーでもないこーでもないと動かしていると、いつの間にか騎士団たちは荷物を纏めて村から出て行き始めた。どうやら挨拶が終わったようである。それに合わせて村人たちも散っていく。
アイリとラケルも狩人としての仕事があるのかどこかに行ってしまった。
「調子はどうじゃ?」
「あ、長老」
そんな中、家に帰る途中の長老に絡まれた。
「調子も何もまだ0ですよ」
「何をやっておる。お主も年頃じゃろうに」
「色々考えてるんですよー」
「うむ。魔法の講師の話は聞いておるぞ。この村で魔法が使えたものは『戦役』に行ってしまったからの。お主みたいに講師がおると助かる。講師代を出そうにもこの村に蓄えはなくての……」
「良いっすよ。そういうの嫌で街を出て来たんですから」
「そういってくれると助かる。しかし、村の子供たちとは講師と教え子の関係じゃろう。なぜ口説けぬ。ぱぱぱっと口説いてやることやってしまえ」
「すっげー直球ですよね、長老……」
「回りくどい方が好きか?」
「……まさか」
「何じゃ? もしかして心に決めた者がおるとかいうんじゃなかろうの」
「そういう訳でも無いんですけど……」
ちょっとサラの視線が刺さる。
「む? もしかして童貞だから日和ってるのかの!?」
「声がでけーよババアッ!!」




