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無貌の英雄~魔法も剣技も極めた俺は最強すぎてスローライフが送れません(泣)~  作者: シクラメン


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第13話 最強の後処理

「そ、そうだ! みんなは!?」


 爆散したオークの死体を前に、ラケルは焦ったようにそう言った。


「みんな? 逃げた村人たちか?」

「大丈夫なの!?」

「大丈夫も何も……」


 ロイは呆れたように村を指した。


「もう戻ってきつつあるぞ?」

「へ?」

「だからさ、オークってそんなに強い魔物じゃないんだって」

「うん」

「普通にやればラケルとアイリでも十分倒せるの」

「そ、そうなの?」

「ああ。それなのに使い慣れない魔法なんぞ使うから、こんなことになるんだって」

「そ、そうなんだ……」


 にわかにショックを受けた様子のラケル。


 人はミスから学ぶ生き物である。ぜひともこのミスから学んでいただきたい。と、心の中でロイは思いながらラケルとアイリを村に返した。


「君がさっきの魔法を撃ったロイくん?」

「はい」


 返した後に『魔寄せの香』と『感覚麻痺の香』を熟練の狩人たちに見せた。彼女たちは、『魔神戦役』の最中、前線に向かった男たちの代わりにこの村を守っていた猛者たちだ。頼っておいて損はないだろう。


 そう思ってロイが完全に鎮火した香を2つとも手渡したのは、20代後半の女性だった。彼女も額を突き破るようにして角が生えているし、背中に背負っているのは男の身体1人分はありそうな巨大な剣なので立派な有角族アングルなのだろう。


「ありがとね」

「いや、ちょっとやりすぎたんであれですけど……」

「ううん。ラケルとアイリから話を聞いたよ。君のおかげでオークの群れは倒せたんだし、なんてことないよ。それにあの山は私たちの生活区域じゃないから」

「ということは、あそこは魔物モンスターの?」

「そうだよ。あそこの森を抜けた先はもう人類の生息領域じゃないんだよ」

「はぇー」


 流石は最果ての村だ。目と鼻の先に魔物モンスターがいるわけである。


よくこんなところをこの人数で守ってきたな……。

っていうか、よくここで暮らそうと思うな。


「それにしても『魔寄せの香』か……。久しぶりに見たね、これ」

「うん。数年ぶりだよ。最後に使ったのって7年前とか?」「6年とかじゃない?」

「けどそれくらいよね」


 おば様たちとお姉さまたちがそういってきゃいきゃい言い合う。


楽しそうなら何よりなんだけど、ちょっと仲間外れ感が……。


「あー、ごめんね。それでこの香なんだけど、この村じゃどうやっても出来ないんだよ」

「え、そうなんですか?」

「うん。『魔除けの香』に使われてる木の近くには絶対生えない木だからね」

「へー」


 こういった物がどうやって作られているかについてロイはほとんど言っていいほど知らない。だって、真正面で戦うだけしかやって来て無かったからね。


「そうだとしたら、この村に出入りしている人が怪しいってことになる」

「なるほど……。って、俺?」

「が、状況的にみて一番怪しいんだけどねえ……。ほら、君には完全なアリバイがあるじゃない」

「何すか?」

「魔法の学校開いているでしょ」

「ああ、やってますね」

「それで1日のほとんどをあの子たちと一緒に過ごしてるから、こんなものを作っている暇なんてないと思うの」

「まぁ、作り方も知りませんし」

「ということで犯人は君じゃないということになるの。困ったね」

「困りましたか」

「困った」


 彼女はそういって腕を組んで唸ると、何か妙案を思いついたようにポンと手を叩いた。


「なんすか?」

「長老のとこに行ってみるね」

「なるほど」

「じゃ、君はここまでで良いから! おやすみ~」


 そういって彼女は手を振りながら長老宅へと走って向かっていった。それに伴って周囲にいた狩人たちは散らばっていく。こうしてみると、村人の半分ほどが狩人なのか。すごい偏重してるな。


 ロイは未だに止まない雨の中で、そんなことをぽつりと思った。


 村人の数はせいぜいが50人程度。そのうちの半分が狩人で、子供は数人。仕事をしているが、ロイたちと同じ世代でも10数人だろう。男は老人と子供を除けば0人。村のすぐ側には魔物モンスターの生存領域が広がっている。


「……ん」


 どうにもスローライフを送るには向いていないような気がする。そんなことを考えながら頭を掻いた。


 親父さんよ、あんた一体どんなとこで生まれたんだ。




 それから3日間、雨は止まなかった。


 特にすることも無いロイ達にとって、とんでもなく暇な3日間だったがこれが本来やりたかったことなのだと思うと、不思議と苦では無かった。3日後、雨が止んだので外を歩いていると村人たちの姿がほとんど見えなかった。


「あれ? 今日なんかあったっけ?」

「さぁ。私も何も聞いておりませんが」


 サラとロイは首を傾げながら雨に濡れた地面を踏む。


「休みならそれはそれで嬉しいんだけど……」

「えっ、今日もまた休むんですか? 暇ですよ、お兄様」

「ふふふ、おかしなことを言う物だな、妹よ。休みとはいくらあっても困るものではないのだ」

「何故ですか?」

「何故ですかだって? 勤勉なのは良い事だが、物事は何事もバランスなのだよ」

「お兄様のおっしゃることは難しくてよく分かりません」

「ま、それならそれで良いんだ」


 子供たちはいつものように泥だらけになって遊んでいたが、村人たちの行方を聞いても要領の得ない答えしか帰ってこなかった。仕方がないので結局村の中を彷徨うようにしてロイ達が歩いてると、教会の前で窓掃除をしているミカと出会った。


「よっ」

「あ、ロイさん。おはようございます」

「今日はみんなどこ行ったんだ?」

「そういえば、皆さんどこにもおられませんね」


 ミカは雑巾片手に首を傾げる。真面目なミカのことだし、掃除も真面目にやるのだろう。既に水桶の中はほどほどに汚くなっていた。


「あー! いたいた!!」

「ん?」


 遠くから声をかけられたので、そちらを向くとラケルが村の出入り口に立っていた。


「ちょっとー! こっち来てもらってもいい!?」


 大きな声でロイを呼ぶということは何か用事があるのだろう。もしかしてこの間、山を爆破したことを怒られるんだろうか。それにしては今更感あるな。


 色々考えながらロイはミカと二言三言交わすと、サラとともにラケルの元に向かった。


「どしたの?」

「一大事なのよ!」

「何が」

「説明するより、見たほうが速いわ」


 ということでラケルに連れられるがまま歩くこと数分。たどり着いたのは、


「何これ」


 目と鼻の先には少しばかり他の地面より低くなった1本の筋がまっすぐあった。まるで巨大な蛇でも這いずり回ったあとのような場所だ。


「川よ」

「川ぁ? これがか??」

「そうなの」

「あれだけ雨が降ったんだろ? 水はどこに行ったんだ!!?」

「ちょっとこっちきて」


 まだ見るべき場所があるのか。そう思いながらもラケルが深刻そうな顔をしていることからふざけるにもふざけられない状況なので、ロイはラケルについていく。


 しばらく上流に昇っていくと、村人たちの姿が増えてきた。


「……皆さん。お集まりのようで」

「これなの」


 ラケルが指さしたのは巨大な岩。上までみると10m近くもある巨大な物だ。


「なにこれ」

「これが川の流れをせき止めてるの」

「なるほど」


 村人たちは誰しもが困った様子で岩を眺めている。ここの川は生活用水ではなく農業用水として使われていた川だろう。雨が降ったとは言え、これから先農業をやっていこうと思うなら、この岩をどかすか、それとも新しい川を引き直す必要がある。



「それで、川はどうなったんだ?」

「全然違う方向に流れていってるのよ、ほら」


 そう言ってラケルが岩の裏側に回り込みながらそう言った。


「OK。全て理解した」

「どしたの?」

「これ、俺がもとに戻せばいいんだろ?」

「「「「戻せるの!?」」」」


 ロイの発言に食いついたのは周囲にいた村人たち。


「いや、まあ出来ると思うよ」


 そう言いながら、ロイは沸騰した形跡のある岩肌をなでた。そこには僅かに沸騰した痕跡があり。


 ……ここに岩が飛んできたのって、俺のせいだしな。

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