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無貌の英雄~魔法も剣技も極めた俺は最強すぎてスローライフが送れません(泣)~  作者: シクラメン


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第12話 最強と、実戦と

「ねえ! ロイっちは大丈夫かな!?」

「分かんない! けど、あれだけ自信ありげだったし信じるしか……」


 雨の中、ぬかるんだ地面を走るのは至難の技だ。慣れているとしても、地面は泥だらけで草木の根がいたるところに生えている。一瞬でも気を抜けばすぐに地面に足を取られるだろう。そんな中、彼女たちは村の灯りを頼りに魔物モンスターたちとは逆方向に疾走していた。


「け、けどやっぱりロイっちでもあの魔物モンスターの数はキツいと思うんだけど……」


 だから、戻ろう。


 アイリはそう言おうとした瞬間、背景が驚くほどに白く染まった。まるで沈んでいった太陽がまさに顔を出したような。いや、それで例えるには遥かに弱い。まるで、太陽が目の前に現れたかのように、光と熱が背後に顕現した。


「これって……」

「うん。絶対ロイね……」


 光は闇を駆逐しながら、ただひたすらに直進すると山に激突。魔物モンスターたちなど最初から存在しなかったかのように、全てを吹き飛ばして掻き消えた。


「……無茶苦茶だわ」


 思わずラケルは口をついてそんなことを言った。着弾した山は、上3割部分を蒸発させ、ドロリと赤熱化した大地が幾千といた魔物モンスターたちを飲みほす。時間にして数秒。それだけで、フィニスの村を襲わんとしていた魔物の軍は壊滅した。


「凄いね、ロイっちは」

「うん。凄い」


 ()だなんていう次元を超えている。ラケルが聞いたことのある魔法というのは、確かに戦争のために用いられる物だったが、ここまでの破壊力を持っているだなんてことは見たことも聞いたことも無い。


 ロイが規格外なのか、『魔神戦役』の最前線で戦っていた兵士たちは軒並みこのレベルなのか。ラケルとアイリにはまったくもって分からないが、爆発する山を見ながらラケルはポツリと呟いた。


「これ、どうなるんだろ……」

「確かに……って、こんなことしてる場合じゃない! みんなを助けに行かなきゃ!!」

「そ、そうね」


 ロイの魔法によって魔物モンスターたちの姿が照らされた瞬間に、どの魔物モンスターなのかを判別出来た。敵はオーク。雌なら何でも良い種族だ。そして、人族の幼児程度の知性も持ち合わせている。


 少なくともこの世界に許されて良いような生き物ではない。


 しかし、ラケルには1つ懸念があった。それは、ロイの現状である。強い魔法を使えば、頭痛などでしばらく休まなければならないことがあるとロイから教わったからだ。例えば先ほどのような魔法。連発出来るとは到底思えないし、もしかしたら魔法を撃ったまま昏倒してしまっているかも知れない。


 そうなると撃ち漏らした魔物モンスターがいた時に無抵抗のままだ。


 ラケルは村人の元に向かうか、ロイの元に向かうかを逡巡。そして答えを導いた。


「ごめん、ロイ!」


 彼なら大丈夫。


 まだ出会って数日だが、ラケルはそう思ったのだ。むしろ、オークの別動隊が向かっているであろう村人たちの方が危険との判断。村に向かって走っていると、ラケルは村の入り口に数匹のオークが居ることに気が付いた。


「あ、アイリ」

「……っ!」


 闇夜に紛れているため、注視しなければ気が付かなかった。村には魔物モンスターが入れないようにバリケードをしているが、オーク数匹が寄ってたかって取り外そうとするのであればほとんど意味を成さないだろう。


 ラケルは素早く弓を構えるポーズを取った。


 その瞬間、ラケルの手元から炎が生まれた。それはラケルによって与えられる形、すなわち弓の形へと変化していく。炎で生まれた弓を構えると同時に弦を引く。炎で生まれた弓矢に音なく。


 ただ静かに、ラケルという狩人はオークに狙いを澄まし――矢を放つ。


 ヒュオッ! と、小気味よい空気を裂く音と共にラケルの放った『ファイア・アロー』は2匹のオークの頭に直撃。1匹外し、もう1匹の太ももに当たった。


「よしっ!」


 だが、外した1匹は矢から身体を守るようにして障害物の後ろに隠れた。


「くっ!」

「ら、ラケル! 残りの3匹も!!」

「えっ!?」


 ふとラケルが1歩引いて状況を確認すると、頭に当たったはずの2匹はかぶりを振って起き上がる。確かに頭部に重たい火傷を負っているが、それだけでは致命傷になりえないッ!!


『Oooooooooo!!!!!!』


 頭に火傷を負わせられたオークたちが激昂。矢が飛んできた方向へと走ってやって来る。


「に、逃げよう。ラケル!」


 そういってアイリが1歩下がった時、背後ぶつかったのは壁。自分は森の中にいたから木にぶつかったのかと思い、振り向くとそこにあったのは明らかに毛皮。そして、硬い皮膚。


 どうしてここに!?


そう思って悲鳴を上げようとした瞬間に、オークに捕まえられた。


「くっ、くそっ!! 放せっ! 放せッ!!」


 アイリは内側からもがくが、オークはアイリを強く握りしめることで黙らせる。ミシッ、と嫌な音がしてアイリは喀血。骨は確実に折れている。下手をしたら内臓が破裂しているかもしれない。


「ラケル! 私ごと……!!」

「む、無理……。私の弓じゃ、オークには……」

『WOoooooooooOOOOOOOO!!!!』


 オークは仲間に位置を知らせるために咆哮。それに気が付いた4匹たちがラケルたちのところにやって来る。


どうすれば良い。どうすれば良い。魔法か? 魔法を使えば良いのかッ!?


「うぁあああああああああああ!!!」


 ラケルは雄たけびを上げながら炎の弓を引く。引いて、放つ。意味のない矢が飛んでいき、オークの身体に突き刺さる。燃える。それで、終わり。オークはまるでハエでも払うかのようにして手を振ると、それで火は消える。


「良い魔法だ」


 そう声が聞こえた瞬間に、アイリを捕まえていたオークの頭が爆散した。ふらりと、地面に倒れ込むオークの手が斬り落とされた。手の中にいたアイリをさらりと救出した少年はラケルの隣に着地。


「ど、どうしてここに……?」


 血の泡を口につけたアイリの胸にロイが手をおくと、魔力がつどい治癒魔法によって破裂した臓器と折れた骨が修復されていく。いや、新しく生み出されていく!


「初心者卒業の『ファイア・アロー』がそれだけ使えれば十分だ」


 ロイはそう言いながら、真上から振り下ろされたオークの拳を片手で掴んで逆方向に捻じる。それだけで、オークの腕はまるで子供のおもちゃのようにあっさりもげると激しく出血した。


「さぁ、Lesson2だ。ラケル」


 ロイはラケルとアイリを掴んで跳躍。オークたちから数十メートル離れた位置へと移動する。


「Lesson2……?」

「魔法ってのは魔力を形質変化させて起こす。だがな、その()()()()()ことだって出来るんだぜ?」


 ロイはそう言ってラケルと同じように火の弓を手元に生み出すと、弦を引く。そこに生まれるのは1本の矢。何も変哲は無い。ラケルが生み出したそれと全く同じように思えるそれを、片腕を無くし暴走したまま3人のもとに向かってやって来るオークに向かって放った。


 狂ったように直進するオークの頭部に矢が直撃。突き刺さった瞬間に、オークの頭部がぜた。


「ふぇ……?」

「直撃したら爆発する矢だ。基礎魔法の上になりたつ魔法だ」


 ロイはそう言って笑う。


「ま、もうちょっと応用するとこうなるんだけどな」


 そう言ってロイは4つの炎塊を目の前に召喚。それをぐるぐると回転させる。その回転速度を上げると球体だった炎の塊は細長い楕円形へと変化していく。


「耳を塞いどけ」


 ラケルとアイリがそれにしたがって耳を塞いだ瞬間に、ロイは4つの砲弾を発射。


 ドンッ!!!


 音速を超えたことによる衝撃波と音が3人を叩く。流石のオークも音速で飛んでくる物体に対抗などできない。胴体を貫いて大きな穴を開けると4体同時に死滅した。


「と、まあここまで行けるわけだが」


 ロイはラケルの頭をなでた。


「使いなれない魔法を実戦で使うのは感心しないぜ」


 そう、優しく言いながら。

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