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ワンダーワールドⅡ  作者: 白龍
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鬼子と一人の戦士

人間の悪意から誕生する悪鬼を倒す旅を続けている鬼子。

今日も赤い髪と着物を風になびかせながら、世界の都をまわっている。

今日辿り着いたのは、非常に高い兵力を持つ町、ナイストタウンだ。

金属製の建物が並び、町の中心には巨大な避雷針。その辺の歩道に常時と言って良いほどに騎士が歩いており、怪しい者がいないか常に目を光らせている。

鬼子も彼らに尋問されかけたが、悪鬼関連の話を持ちかけつつ、自身もこの町に異常がないか調査に来たと説明すると、すぐに通してくれた。

「こんなに簡単に通れるなんて…この辺でも悪鬼が発生しているみたいね」

背中の鞘に納めた鎌を整えつつ、鬼子は町に並ぶ金属の建物を見ながら歩いていく。


しかし、その途中、彼女に何かがぶつかった。

何か大きな、とても硬い物だ。

よそ見していた鬼子は見事にそれに直撃し、それが鎧である事を瞬時に悟った。

地面に叩きつけられつつ、上を見上げると、そこには赤い髪に赤い瞳の勇ましい風貌の戦士が立っていた。

「き、君、大丈夫か!?」

鬼子は尻を撫でつつゆっくり立ち上がった。鎧に生身で突き飛ばされてすぐに起き上がるとは、悪鬼狩人としての悪鬼たちとの死闘の数々は、伊達にある訳ではないようだった。

騎士は鬼子に頭を下げ、謝罪する。

「すまない、俺とした事が…」

そう言うと、騎士は両腕を下ろし、鎧の音をたてながら地面に膝をつく。


…それから鬼子は彼に町を案内してもらい、今日の宿を探す事にした。周囲には鍛冶屋、修理屋に弓矢の専門店など実に様々な店があったが、そのどれもが武器や戦いに関する店ばかりだ。

この町でも娯楽を過ごす事はできなそうだ。鬼子は少しガッカリした。

彼女を見て笑ってみせる騎士だが、この表情にはどこか深い曇りがこびりついているようだった。

時々表情を歪め、何かを思うような感情が感じられる。

鬼子は、そっと聞いてみた。

「…ねえ、あなた一体どうしたの?さっきから変よ」

「…やはりか。最近俺、おかしいんだ。でも、放っといてくれ」

台詞は冷たげだが、戦士は笑っていた。

鬼子は複雑な気持ちになったが、騎士は名前を教えてくれた。

「俺はアルカ。また会うかもな」


その後、鬼子はナイストタウンの中でも唯一の癒しと呼ばれる宿屋を発見し、フカフカなベッドに高級そうな木製テーブルを見て興奮していた。

久々の宿なのだ。実は丸三日風呂に入っていない。

ここの温泉は格別だと聞き、鬼子のテンションは更に上がっていた。

自身を担当してくれる係員も優しそうな長い髭の老人で、一先ず安心していた。

「お客さん、夕食の時間は七時頃でございます」

「分かった、ありがとう。…あっ」

思い出したように、鬼子は老人に問いかけた。軽い気持ちだった。

「あの、この町のアルカっていう戦士いますよね。彼は…過去に何かあったのですか?」

老人はそれを聞くと、さっきまでの笑顔が途端になくなり、何やら悩ましい表情に。

五秒ほどの沈黙がよぎったが、老人は静かな声で話し出した。


二十年前、アルカがまだ少年兵だった頃、彼はナイストタウンとは違う町で暮らしていた。

しかし、そこをある日突然謎のテロリストが襲った。

彼らは悪鬼の力を信仰しており、悪鬼の力で世界を作り替えようとする、極限の過激思想のテロリストだった。

彼らは町に悪鬼を放ち、多くの人々を殺し、世界への見せしめとして町の人間たちを皆殺しにしようとしたのだ。

その中には、幼い少女の姿もあった。歳など関係なく、本当に皆殺しだった。

アルカもこの頃、中学生くらいの年齢で、優秀な騎士となる為の勉学に励んでいたのだが、この事件で両親を亡くしたのだ。

だが両親を殺したのは悪鬼ではない。テロの首謀者が一部の悪鬼の指揮官として送り込んだ人間だった。

黒いスーツを身に纏った、いかにも悪そうな顔の人間だったそうだ。

頭から血を流しながら横たわる母親、瓦礫に押し潰され、右手だけを出す父親のそばで、アルカはやつに聞いた。

「何でこんな事するんだ…?」

「人間を作り替える。それだけだ」

アルカは、殺される覚悟で彼に近づく。

「何でだ?誰もこんな事は望んでな…」

「人間はこの世に何億といる。その全てが人類の平和を望んでると思うか」

いつの間にか男は銃を取りだし、アルカの額に向けていた。アルカはもう何も喋らない。

「人間というのは必ず真っ二つになる生き物だ。我々はそのうち片方、悪鬼の方に身を寄せた。それだけだ」


「司令!!緊急事態です!」

突如、男の仲間の一人が声をあげた。

燃え盛る町のなか、アルカの周りに落ちていく火の粉を見て、小僧を一人放っておいても問題はないと判断したのか、男は銃を下げて無言で去っていった…。


「…その日から、やつは戦士になる意思をますます固め、厳しい訓練に耐え抜いた。今では立派に成長したやつの目的…悪鬼の撲滅じゃろうな」

これが、アルカの過去。

それを聞く鬼子の顔は、複雑だった。


それから鬼子は宿屋で一時の休息を満喫していた。

と言っても、すぐに旅を再開する為に二、三時間ほど昼寝をする程度だった。

ベッドに入り、夕食の時間まで適当に睡眠をとろうと、ピンクの布団を被った…。


…しかし、旅人には常に不運がつきまとうようだった。

宿屋の外から、大きな爆発音が聞こえてきたのだ。

もはや戦闘音には慣れている鬼子は、部屋の隅に置いていた鎌を手に取り、直ぐ様宿屋を飛び出して現場へ向かっていく!



ナイストタウンの中央地帯にて、一人の戦士が悪鬼と戦っていた…。

震える手で剣を構えるアルカ、目の前には全身に黒い球体型の爆弾をロープで張り付けた、ミイラのような体を持つ異形の者。顔は、眼球が見当たらず、目、口、鼻を示すような黒い穴が空いている。


アルカの鎧は所々穴が空き、そこからは赤い血が流れ、銀色の鎧を赤く彩っていた。それでもアルカの鋭い目線は相手に向けられる。

「…ついに出会ったな。お前からは悪鬼の力を感じられる。いくぞ!!」

相手が悪鬼だと確信したアルカは剣を振り上げながら走って接近、悪鬼に剣を振り下ろそうとする!

悪鬼は、ロープの隙間から爆弾を器用に取りだし、それを投げつけて反撃!

アルカは剣を構えたまま器用に近づき、悪鬼に向かっていく。

まだ見た事のない悪鬼だったが、悪鬼というだけで彼の闘志は煮えたぎっていた。

今まさに剣を振り下ろそうとした時、彼の体に衝撃が走った!

アルカは、何者かに突き飛ばされたようだった。鎧のおかげで痛みはないが、かなりの衝撃だった。


「…お前は!」

助けに来たのは、鬼子だった。

鬼子は目の前の悪鬼に指をさす。

悪鬼は、アルカを迎え撃つ為の爆弾を構えている…。

危ないところだった。

「やつは爆火鬼ばっかき。悪鬼に関しては、悪鬼狩人の私に任せて」

「…!いや、お前は旅人だ。この町は、この町の戦士である俺が守る義務がある」

よろめく足で必死にバランスをとりつつ、剣をとるアルカ。

そのまま先程よりも勢いの落ちた走りで爆火鬼に走り寄り、剣を突き出す!

だが万全な爆火鬼は細い体を傾けて突きを回避、無駄のない蹴りを、アルカの剣を持つ手に炸裂させる。

アルカは剣を落とし、膝をついてしまう。

「危ない!」

鬼子の叫びが響くと同時に、爆火鬼はまた体のロープから爆弾を取りだし、アルカを狙う!

爆火鬼の攻撃よりも先に、鬼子は鎌を爆火鬼に叩きつけてその体を切りつけ、爆弾を奪う。

逆に爆火鬼に爆弾を投げつけ、派手な爆発が起きる。

爆風に吹っ飛ばされる二人。

白い煙があがり、爆火鬼が倒れるのが見えた。


「…ありがとう、助けられてしまって情けない」

「当然でしょ。私は悪鬼狩人。悪鬼を狩る事が仕事なんだから。さて…」

倒れた爆火鬼の前で、両手を広げる鬼子。本来いるべき場所である地獄へと強制送還する儀式を始めるのだ。



しかし、この後起きる出来事を、鬼子は予測できなかった。


爆火鬼が、倒れた状態で爆弾を取りだし、アルカに投げてきたのだ!

「っ!?」

爆火鬼には戦う魔力は残っていなかった。いや、正確には魔力を消す事で隠していたのだ。

爆弾はアルカに直撃し、鎧を打ち砕く音が僅かに響いた。

咄嗟の判断で、鬼子はアルカに駆け寄るより先に爆火鬼に鎌を振り下ろし、その細長い顔と腹部を切りつけた!

赤い傷から血を流しながら、爆火鬼は小さくうめいた後、静かに仰向けに倒れた…。今度こそ大丈夫なはずだ。



「…俺とした事が」

「アルカ…私がやつの動きを読めなかったばかりに…」

アルカの胸に直撃した爆弾は、彼の胸元の鎧を破壊し、火傷から血液が搾り取られるように滲み出ていた。

アルカの目は細く、息も絶え絶えだ。

「アルカ…死んじゃダメよ…。話は聞いたわ、あなたは悪鬼と、悪鬼の力を使うテロに…」

「はは…まあ、仇を討てなかったくらいの親不孝、親父とお袋は許してくれるさ…それに、やっと二人のもとへ行ける」

アルカは、火傷を負った自分の胸元に両手を置いた。


「戦うのはもう…疲れたよ。俺にとってこの死は天の許しだ。どうか止めないでくれ」




アルカは、優しげな笑顔を浮かべ、鬼子の目の前で目を閉じた。

彼から放たれる魔力が、ピタリと止まった。


「…アルカ、貴方みたいな犠牲者が二度と出ないように…」

鬼子は鎌を持ち直し、天を見上げた。

必ず、悪鬼たちの乱を沈めてみせる。鬼子は、天に誓うのだった。

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