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ワンダーワールドⅡ  作者: 白龍
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勇者アメジスト ノイジーマッチョ

「勇者アメジスト…」

町の復旧作業が行われるなか、葵は木材の独特な匂いが漂う事務所のベッドに、あの戦いで現れた青年を寝かせていた。

緑がかった紫の髪の青年はアメジスト…名無しの魔王の本来の姿だろう。

なぜ突如復活したのかは分からないが、恐らく罰悪修羅のあの魔力がそうさせたのだろうと考えるのが無難だった。

罰悪修羅はあの時何を望んだのか、何であの魔力を放ったのか…。



…そんな光景を、何者かが窓から覗いていた。

巨大な単眼を持つ不気味な蝙蝠だ。

蝙蝠は目玉をギョロギョロ動かしながら羽を広げて飛んでいく。まるで誰かに伝えにいくかのように。

町の上空を飛んでいき、小さな体で風にも抗う。

進んでいくと、遥か先にある真っ黒な雲が見えてきた。

蝙蝠は迷わずその雲に飛び込み、あの世界へ向かう。



…闇の世界だった。

雲の向こう側には赤い空に黒い雲が浮かぶ不気味な世界へ辿り着く。

地上には異形の悪魔たちが思い思いに過ごし、真っ黒な建物が立ち並ぶ。

闇の城下町にそびえ立つ黒い城を目指していた。


城の窓を羽で開き、蝙蝠は主の前に降り立った。

「闇姫様、恐れていた事態が…。勇者アメジストが、復活です」

「勇者のお出ましという訳か」

黒いツインテール髪に黒いスカート、赤い左目に翼のような眼帯に覆った右目の女、闇姫が玉座から蝙蝠を見下していた。

「だが勇者が何だ。たかが伝承に残る程度の名声よ」

普通であれば相当な名声だが、強欲な闇姫にとっては歴史に名を刻む程度の名声など生ゴミ以下なのだ。

全ての人間の記憶に刻まれている訳ではない勇者アメジストなど余計にそうだろう。

とは言え、勇者と呼ばれる事には変わりない…。全くのゴミという訳ではない。

「相手の力を知るのが最優先だ。兵を送れ」



「…ん…」


…同時刻…。



…アメジストは、目を覚ました。

まだ魔王としての力が余っている体には少しばかり痛みが走り、ベッドから起き上がったアメジストは思わず胸を押さえた。

ずっと見ていた葵が、警戒しつつも彼の視界に入り込む。

「大丈夫?」

「…葵、兄さんは」

アメジストはもう、魔王などではない事を自覚しているようだった。

葵は、静かに首を横に振る。


「そうか…」

アメジストは、久々の人間らしい足でヨタヨタと立ち上がり、両手を出して慌てる葵を横目に窓へ向かった。


青空が広がっている…。

こんな綺麗な空は久々だ。

「どうだった?魔王の頃は」

葵の言葉はやや皮肉混じりにも聞こえた。

アメジストは密かに笑うと、葵に答えた。

「正直楽しかったよ。勇者なのにも関わらず罵倒され続けてきたあの頃が嘘のようで。魔王になれば部下もできるし、傲慢に振る舞える」

「けど、今は違うのね」

アメジストは頷く。

その表情は複雑だった。



その後、事務所にはれなとラオンがやって来て、アメジストの顔をマジマジと拝見させてもらった。

中々の美形だ。紫色の髪は常に輝き続けており、輪郭もしゅっとしており、表情もすっきりしたものだった。

あまり注目していなかったが、身に纏う銀の鎧には宝石のエメラルドが幾つも嵌め込まれている。まさに勇者の鎧だった。

これがあの名無しの魔王なのか…?



ここまで来ると、気になるのはその実力だ。名声を上げられなかったとは言え、伝説の勇者の弟である事には変わりはない。


そう思った矢先の事だった。


「おらあああ!!!ピンポーーーーーン!!!」

とても騒がしい声が外から聞こえてくる…。

またろくでもないやつが来たかと、葵は驚く前に額に手を置いて深くため息をついた。

無視しようと思っていたが、厄介な事に好奇心旺盛なれながいたのだから大変だ。

「はーい!!」

止めようとする葵を背に、れなは階段をかけ下りて玄関へ向かっていった。

面白いやつが来たと興奮していたのか、一階に下りるまでの時間は僅か三秒だった。

葵も後を追うが、もう手遅れである事には薄々気づいていた。

れなはドアを開き、そこにいる招かれざる来客に全力の笑顔。


その顔を、邪魔だという気持ちを伝える為だけに突き出されたかのような全力の拳が飛ばされた。

吹っ飛ばされ、事務所の床を突き破り、頭が床にハマるれな。


そこに立っていたのは、灰色の体に大量の鈴やマイクをぶら下げた変なマッチョ。落ち着きなく体を左右に揺らしまくりながらその体から騒音を響かせている。

「…れは、ノイジーマッチョ!!…まらを、たお…た…」

とにかく鈴の音がうるさすぎて、ノイジーマッチョという名前しか聞こえない。

ノイジーマッチョ…まあそれらしい名前だ。

れなは耳を塞ぎながら叫ぶ。

「うるさい!!!!」

だがノイジーマッチョはわざとより激しく揺れだし、完全に叫び声を遮ってくる。

驚くべきうざさ。れなは拳を振り上げた。

ノイジーマッチョはそれに対し、体から妙な桃色の波動を放ってれなを吹っ飛ばす。

痛くはないが、かなりの勢いの波動だ。踏ん張っても吹っ飛ばされるだろう。

事務所の壁に派手に叩きつけられ、れなは悔しそうに震えた。

震えすぎてくっついてる事務所まで震えている。

まだまだと足を突き出して片足で突っ込んでいくが、やはり波動に跳ね返され、事務所に叩きつけられ、振り出しに戻る。

「俺の音の波動を舐めるなよ!」

どうやらこいつは音を魔力で実態のある波動にできるらしい。何とも変わった能力だ。

こうなればとれなは右手の平を向け、飛行し、事務所から離れ出す。

これには何をするのか分からず、ノイジーマッチョは少し戸惑っていた。

「オメガキャノンでもくらえクソマッチョ!!」

右手から放たれる青い破壊光線。地上のノイジーマッチョを狙って降下していく!

「…光さえも打ち返す!」

ノイジーマッチョは宣言すると同時に体を振りだす。

激しい鈴の音と共にまたもや波動が放たれ、何と、オメガキャノンでさえも軌道を変えた。

何が起きたのか分からず、れなは跳ね返ってくる自分の光線を口を開いて見つめる事しかできない。


れなは、自らの光線で巻き起こった爆発に巻き込まれ、地上に落っこちた。

うつ伏せで地面にめり込む姿は何やらコミカル。ノイジーマッチョはただでさえうるさい鈴の音に加え、凄まじい声量で笑い出した。

「がはははははははは!!!!この調子だぁぁぁぁ!!」


しかし…ここで彼の登場、そしてノイジーマッチョの敗北がほぼ決定する事になる。


「おいお前、俺と戦え」

事務所のドアを開けてノイジーマッチョの前に現れたのは、事前に聞かされていたれなたちのメンバーの中では見慣れない顔つきの青年。

紫色の髪だが、ややエメラルド色がかかっている。

そいつがターゲットのアメジストだという事も確認せず、ノイジーマッチョは笑顔で、かつ無言で戦闘を開始した。

鈴の音を鳴らし、まずは小手調べに吹き飛ばそうとしてくる。アメジストに放たれる波動!


だが、さすがは勇者の弟。

アメジストの左手に一瞬にして剣が形成される。

エメラルドの宝石が嵌め込まれた神秘的な魔剣だ。

飛んできた波動に剣を振り下ろすアメジスト!


…波動は、中心から真っ二つに切り分けられる。

実態を持つ波動故の弱点だった。

ノイジーマッチョは驚きのあまり体の揺れが止まってしまい、大きな隙を見せてしまう。

アメジストは何も言わずに剣を持ち直し、そのまま剣を振り下ろした!


一瞬、沈黙が走ったかと思うと、ノイジーマッチョの体に深い切り傷が刻み込まれ、出血する。

「うおおおおお!!」

血はすぐに止まり、ノイジーマッチョはその場にうつ伏せに倒れて気絶してしまう。


「…ん」

同時に、れなが意識を取り戻す。

目の前にはうつ伏せのノイジーマッチョに、剣の刃を大地に向けたアメジスト。

「あ、れな。起きたのか。もう安全だ」


この短期間で、アメジストは敵を倒したのだ。

何度も言うが、さすが勇者の弟だった。

これにはれなも驚くと同時に、彼が勇者の弟という事を再確認するのだった。

「…アメジスト、すごいね」

「なに、そんな事はないよ。君達には今まで迷惑をかけたからね。この調子で、君達の手助けをさせてくれ」

倒れたままのれなに手を差し出すアメジスト。


本当に心強い味方ができたようだった。

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