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ワンダーワールドⅡ  作者: 白龍
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奪われた獄炎刀 黒れなVSリューガ

「やー、危なかった危なかった。鬼子と火竜ですら危ない悪鬼なんて、口の中の変な位置に貼り付いた海苔と同じくらい厄介だったよ」

悪乱修羅との戦いの後、れなたちは互いにあの戦いを語り合っていた。

そのうち、葵の右手にはエメラルドの欠片。葵の緑のワンピースとサイドテールを、より美しく照らし出していた。

エメラルドの欠片…もうこれで幾つ集めたのだろうか。今まで様々な敵と遭遇してきた事もあり、もはや数など数えていない。

前まではしっかり並べていたが、今では事務所の倉庫にそのまま放り出して山積みになっている。大体の原因はれな姉妹の適当な管理能力にあるのだが…。


勇者エメラルド…一体どんな人なのか。

もしも目の前に現れたら、何を話せば良いのだろうか?

下らなく見えるが、この辺りもしっかり考えた方が良さそうだった。何故なら、この欠片を集めていれば勇者エメラルドが復活する可能性も出てくるからだ。


…あの名無しの魔王の兄である事には違いない。警戒するのに越した話はない。


…まあ、確かに真剣に考えた方が良いが、今は頭の片隅に置いていた。

まずは戦いに勝てた事に喜ぶべきだ。

れなたちは、悪乱修羅との戦いで被害を受けた町の後処理を勤める作業員たちを横目に、歩道を歩いていった。


れなは一旦研究所へ帰り、その他の仲間たちは事務所で作戦会議をする事に。

何故れなだけ帰るのかと言うと、悪鬼たちとの戦いのなかで、獄炎刀が心配になったからだ。

いや、特に根拠はない。

本当に何となくだ。何となく、獄炎刀が心配になったのだ。

強いて言えば、悪鬼たちとの戦いに関する刀である為、大物悪鬼との戦いでふと無意識に思い出したのかもしれない。

そんな、何となくという言ってしまえばいい加減な理由もしっかり聞いてもらえるのだから、れなたちの事務所も何ともフリーダムだった。



そして…研究所に帰った時、事件は発覚した。



「…!」




研究所の前に帰って来たれなは、絶句した。


嫌な予感が的中したようだった。




研究所のシャッターの奥…倉庫が荒らされていたのだ。

今まで使っていた用具や工具がそこらじゅうに散らばっており、その中には、れながある戦いで使用していた不思議な力を持つ杖もあった。

杖を拾い上げるれなの緑の瞳は、何が起きたのか分からずに僅かに揺らいでいた。


そんなれなの背後に、誰かが立っていた。殺気は感じない。

振り替えると、そこには…。


「れみ!?」

れなの妹、れみがボロボロになって立っていた。

人工の肌は黒ずみ、綺麗な金髪の短いツインテールも薄汚れてぼんやり風に揺れている。

手足にもかなりの傷を負わされている。立ってるのもやっとなのか、れみは大きくふらついていた。

れなは急いで倒れそうになるれみを受け止める。

「お姉ちゃん…早く…」

「どうした!?」







「リューガに…獄炎刀が…」










…リューガは、本拠地へ帰る途中だった。

左手には奪ったばかりの獄炎刀。草の紋章が描かれた神秘的な鞘が、今はなき刃の部分にしっかり収まっている。

時々獄炎刀を投げてはキャッチして遊びながら歩いていく。


ここは…テクニカルシティから彼が目指す悪鬼の本拠地へ向かう裏通路、森の隅にある、崖が並ぶ危険な谷地帯。

リューガは遥か下へと続く谷の風景を楽しみながら、橋を渡っていた。

「獄炎刀ゲット~。わざわざ悪乱修羅を使った意味があったぜ!」

そう、全ては悪乱修羅で町を襲う訳でもれなたちを倒す訳でもなかった。

悪乱修羅を解き放ち、騒動を起こしている隙に獄炎刀を奪うという作戦だった。

そんじゃそこらの悪鬼を囮にしたところで、れなたちは相手をしないだろうし、したとしても悪鬼狩人二人が参戦して勝負は一目瞭然。あえて囮を強力にする事で、気を引く事に専念した。

おかげで研究所にはれみ一人。子供相手にも容赦ないリューガは、今こうして獄炎刀を片手に余裕の様子だ。


「ボーナスも出るんだろうなぁ。そしたら何か買おうかなー」

期待に胸を踊らせるリューガ。



しかし、迫りくる殺気にはもう気づいていた。




…リューガのすぐ後ろから、突然青い光線が熱を放ちながら飛んできた!

リューガは背を向けたまま跳ね上がり、太陽の光を背中で受け止めながら美しく回避する。

光線は地面に衝突、周囲に瓦礫が飛び散った。

「おやおや…自然は大切にしないといけませんな、お譲さん」


大地に降り立ち、両手を広げてポーズを取るリューガの前に現れた挑戦者…。



黄色のツインテールを、谷の冷たい風に揺らすれなだった。

その右手には、奇妙な青い宝石が嵌め込まれた杖を持っている。

リューガは、その杖を知っているかのように、一瞬表情を歪める。


「行くぞ!」

れなが杖を掲げると、杖の宝石から青い光が放たれる。

眩い光にれな自身も目を細めるが、リューガはびくともしない。


テクニカルシティの人々から、ほんの僅かな悪意を寄せ集めていくれな。

本人たちも気づいていないくらいに僅かな悪意の力だったが、杖に込められていく悪意の力は蓄積していき、やがて一つの黒い光がれなの頭上を飛び交う。


そして、光はれなの髪に集まっていき、その色を変色させていく。



…光が消えると、そこには、髪が黒くなったれなが立っていた。

これこそが悪意の力でパワーアップしたれなの姿だ。


まるで感心したかのような表情を浮かべるリューガに向かっていくれな。

リューガに直撃する直前で右足を勢いよく振りかざし、強烈な回し蹴りを首に命中させる。

リューガは首を押さえながら吹っ飛ばされ、草原の上に叩きつけられる。

リューガの首には痛みが走っていた。

「あの世界」のれなとは違う。


「成長したな、ほんの少し力を見せてやる」

リューガはズボンの尻の辺りに獄炎刀を差し込み、戦闘体勢をとる。

リューガは、その格好もあって道化師のように陽気に回る。

すると、両手から赤黒い炎が放たれ、殺意を放つ。

れなは一歩下がり、精神を集中。炎から放たれる殺意を押し流すような闘気を解き放つ。


リューガは、炎を手に宿したままれなに突撃してくる!

相手の手の内は分からないが、「あの時」のように黙って受けはしない。れなも突っ込むまでだ。

黒い髪は日光を受け流すように漆黒を保ち、唸るように揺れ動く。




リューガは炎を突き出してれなに叩きつけようとしてくる!

こいつが単純な攻撃を繰り出さないと分かっていたれなは、拳を構えつつも回避の姿勢をとっていた。


予想通りだ。

リューガは炎を突然空に向かって投げ飛ばしたのだ。

何かが来る、そう予感したれなは突っ込むのをやめ、真横にステップを踏む。


直後、たった今までれながいた地点に、大量の炎の雨が降り注いだ。

炎は地面に直撃すると同時に周囲に凄まじい熱を放ち、れなは足をあげて歯を食い縛る。

あとには、真っ黒に焼き焦がれた地面があった。


「やっぱ上手くはいかないか」

休む暇もなく、リューガはれなに急接近、直接的な肉弾戦に移行する。

両手の拳を放ちまくるリューガ、れなも同じように拳を突きだし、対抗。

互いの拳が炸裂しあうが、そこに込められた感情はれなとリューガでは完全に対を成していた。

れなは何としても獄炎刀を取り返すという熱い闘志を、そんなれなの闘志の矛を冷ややかに見下し、遮るリューガの盾のような拳。


リューガの盾の方が上らしく、れなは徐々に消耗していき、その拳の勢いは落ちていく。

幾多の戦いを乗り越えてきたこの形態でも通用しないというのか…?


リューガはれなの拳を軽く振り払い、その勢いを受け流した。勢いに任せていた事もあり、れなはバランスを崩してしまう。

いつも陽気なリューガの目が、冷酷な青い瞳へ変化し、れなの腹部に右の拳を振り上げた。同時にれなの背中からは空間を歪ませる程の衝撃波が貫通し、正面と背後から衝撃が挟み込む。

声もあげずにその場にうつ伏せに倒れるれな。

リューガは、汚物に触れたかのように右手を振っていた。

「悪意を使ってその程度か。正直ここまで弱いとは思わなかったよ」

「黙って…この拳をくらえ!!」

れなは追い詰められるほど強く出る。

うつ伏せの状態から無理やり上体を起こし、拳に全力を集め、リューガの胸元に命中させた!!

自分にされた時の分をそのままお返しするかのように、同じ衝撃でリューガを貫く。その威力に、リューガの両足は一瞬浮く。

失望しかけていたリューガの目に再び嫌味まみれの活気が宿り、後ろに跳ね上がって距離を離す。

風が吹き、リューガのズボンに差し込まれた獄炎刀が静かに揺れた。



…それからは、数秒の出来事だった。

れなとリューガは互いに全く同じ速度で迫りあい、れなは右、リューガは左の拳で互いを殴りあった。

狙う場所も同じ。

互いの顔面だ。

二人の頬に鈍痛が走り、止まる事もできずに真正面に派手に滑り落ちていく。






…今度は両者がうつ伏せになっていた。







れなは、拳を握って悔しそうに歯を食い縛る。


「やっぱりやるじゃん」

リューガは、服についた汚れを振り払いながら立ち上がった。

その頬にはアザが。僅かに血も出ており、彼にとって思わぬダメージとなる。


また道化師のような動きを取り戻したリューガは、陽気に手を振ってれなを見下す。

れなの髪は徐々に黄色に戻っていき、力も抜けていった…。



「ま、報酬でもやりたいところだが、残念。今は何も持ってないんだ。それじゃあな」

そう言いつつ、獄炎刀を憎たらしく突きだし、手を振りながら霧のように消えていくリューガ。

れなは、悔しさのあまり拳を地面に叩きつけるのだった…。

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