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ワンダーワールドⅡ  作者: 白龍
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悪鬼たちの思惑

「リューガよ、お前の時間稼ぎのおかげだ。見ての通り、計画は進んでいる」

悪鬼のアジトの洞窟を抜けた先の広場にて、暗い空の下、罰悪修羅は真っ赤な体を僅かに震わせている。

リューガは罰悪修羅のすぐ後ろで、右目を緑に、左目を赤に発光させ、気の抜けた声で呟いた。

「うわぁ~…」


目の前には、赤や青色の肉塊が置かれていた。洞窟の入口の穴よりも大きく、時々心臓のように脈打っている。

表面には血走った目玉や牙が生え揃う口、時々血を吹き出しており、視覚的にも精神的にも吐き気を催すような嫌悪感を放っていた。

だがそれを見上げる罰悪修羅は期待に目を赤く輝かせ、リューガは何やら快感を感じているかのように小刻みに震えていた。

「これは死んだ悪鬼たちの魂の塊…。残り千匹の悪鬼を取り込ませれば、完全な姿、『悪乱修羅おらんしゅら』が誕生する」

この悪乱修羅と呼ばれる肉塊は現在九千体の悪鬼の魂の塊らしい。ここに千匹加われば、一万の悪鬼の集合体になるそうだ。

「九千匹の同胞を犠牲にするなど、ご苦労じゃん。もしもこの悪乱修羅が破壊されたらどうする気っすか。九千匹の人員を失なう事になるんすよ」

舐めた口調のリューガの質問に、罰悪修羅は手早く答えた。

「悪鬼というのは人の罪そのもの。汚れの体現だ。そして人というのはいつの世も罪を犯す。何人の同胞が散ろうと、悪鬼は滅びぬ」

悪鬼としての誇りのようにも聞こえる罰悪修羅の言葉に、リューガはさもおかしそうに笑った。


罰悪修羅が集めた悪鬼たちの魂の一部は、「彼女」が殺した者たちの魂もあった。



「…」

とある山の頂上で、赤い着物に赤い髪の少女が、石碑の前で両手をあわせている。

ここは彼女、鬼子がかつて殺めた悪鬼たちの墓。殺した悪鬼の肉体はこの下には眠っていないが、こうして毎月祈りに来るだけでも悪鬼たちの魂が浄化されていくような気がしていた。


…悪鬼だけでなく、悪鬼との共存を目指す何の罪もない者たちをも殺めようと考え、一方的な殺戮を正義と詠っていたあの時の自分…。


「…お父さん」

胸に手をあて、立ち上がる鬼子。


目の前には、雲が流れる美しい青空、その下には平和な町の光景が。

この景色がいつまでも続くよう、自分は平和を守っていかなくてはならない…。


「…っ!?」

そう思った矢先。

鬼子のすぐ後ろから、突然何かの衝撃波が放たれる。


間一髪、鬼子は背後からの攻撃を回避した。

それは、刀の形をした金色のエネルギー波…いや、エネルギー刀とでも呼ぶべきだろうか。

とにかく刀の形をしたエネルギーの塊が鬼子の真横をすり抜け、背後にあった悪鬼の墓石を真っ二つにしたのである。


「おお、さすが罰悪修羅様に楯突くだけの事はある」

目の前に立っていたのは、六本の腕を持つ赤鬼だった。特に大した外見の特徴もなく、本当に伝承に伝わるようなあの赤鬼の腕を六本にしただけだった。

その手には刀が握られている。見るだけで戦法が分かるような悪鬼だ。

「俺は六腕鬼ろくわんき!鬼子、貴様に聞きたい事がある!」

何とも分かりやすい名前。

初対面で何を聞こうとしているのか…鬼子は、背中に備えた鞘にはまった鎌を取り出し、六腕鬼の胴体を視界の中心にし、六本の腕に注目する事に。

「勇者エメラルドの弟…アメジストはどこにいる?」

「アメジスト?」

れなたちから聞いた事がある。確か伝説の勇者エメラルドの弟、勇者アメジストは何らかの事があってその身を悪に染め、魔王に成り果てたと言われている…。

今はテクニカルシティの研究所に囚われたと言われているが、悪鬼が魔王に何の用なのだろう。

「勇者エメラルドの弟、アメジストを放っておけば必ずや脅威となる。不安要素は今のうちに消しておくべきだと、俺単独で考えてな」

勇者アメジストの抹殺。

六腕鬼は目的も明かした事で、再び刀型のエネルギー波を手元に作り上げ、鬼子に襲いかかる!

鬼子は刀をかわしつつ、近くにあった石の階段を下りだし、頂上から離れていく。

高速で駆け降りていくが、六腕鬼は走りつつ刀を投げて攻撃してくる。かなりの速度で走ってるにも関わらずかなり精密な投球技術…ならぬ投刀とうとう技術だ。鬼子は進むごとに増えていく木に乗ったり正面に飛び出して伏せたりと、軽い動きでかわす事ができなかった。

「アメジストの場所を教えれば楽になるぞ!」

宿敵たる悪鬼に誰がそんな事を明かすか。鬼子は逃げてるばかりでは駄目だと気づき、六腕鬼の隙をついて接近する事にした。

刀を投げた後に、ほんの一瞬だけ隙ができる次の刀を形成する時間が必要なのだ。

だがこいつは六本腕がある。一本の腕が投げれば刀の補充時間に他の腕が刀を投げて隙を見せないよう補う。ならば投げた後の隙を狙うのは不可能に近い。

ならばどうする…?



鬼子は森林エリアに突入していた。鬱蒼と生えている長い雑草に、硬い土から養分を吸って立派な風格の大木たち。

隠れられる場所はある。


「おらぁどこだ!?どこに隠れた!?」

六腕鬼は少し遅れて森林エリアに突入、鬼子を探し回る。時々刀を投げて草を散らしており、鬼子が出てこなければこの辺一帯を狩り尽くす気だ。

赤ずくめの鬼子が見つからないとはおかしいなと、六腕鬼は警戒を固める。警戒のせいか、動きが若干固くなっていた。


「畜生…こうなれば、あれを使うか…」

六腕鬼には切り札があった。



六腕鬼は空中に跳び跳ね、その切り札を露にした。

六腕鬼が腰元から取り出した物、それはエメラルド色に輝く石だった。

あれは…勇者エメラルドの魂の欠片。悪鬼すらもあの力に頼るのだ。

どんな攻撃が来ても良いように、鬼子は鎌を向けて、見つからない程度にエメラルドの欠片をじっと凝視する。


しかし、思わぬ事が起きた。

六腕鬼は、エメラルドの欠片を宙に投げ捨てたのである。

鬼子の集中力も、空中のエメラルドの欠片に吹き飛ばされ、その隙をつくようにエメラルドの欠片はその光をより強く輝かせた。

顔を覆う鬼子。


…数秒後、何やら騒がしい音が聞こえてきた。

何かが大地をかけていく音…何かの羽音が聞こえてくる。


「…あ、あれは!」

鬼子が手を戻すと、そこには山の上空に、翼を広げた何人もの鬼たちが飛んでいく光景が!

更にその鬼たちはエメラルド色の光を放っており、エメラルドの欠片と同じ魔力を感じられる。

「聞こえるか鬼子!俺がお前の相手をしている隙に、あの軍隊は出撃準備を進めていた。エメラルドの欠片はやつらへの合図と同時に、やつらを強化する役割を持っていたのだ」

「わざわざ説明ありがとう…」

鬼子は鎌を下ろし、歯を食い縛りながらしばらく遠くの軍隊を見つめていた。

見ただけでも千人以上はいる。その千人から放たれる悪鬼と勇者の入り交じった力に、鬼子の足が震えていた。

恐怖は感じていないが、生物に元より備わった本能だろう。全身を突き動かすような衝動が走る。

「…でもこちらにも切り札はあるのよ」

鬼子は目を閉じ、意識を集中する。

突然動きを停止しつつ、ノコノコと現れた鬼子。六腕鬼が見逃す訳がない。

「馬鹿め!六枚下ろしにしてやるわ!」


鬼子は全意識を集中させ、全身を赤い光に包み込んでいく。

その光は勢いは緩やかだが、同時に力強さもあった。


…そして、鬼子は姿を変えた。

頭から黄色い角を生やし、全身に赤いオーラを常に纏わせている。

そして、その手にはエネルギーが変化した炎でできた刀を持っている。

この姿は鬼子の覚醒した姿、鬼神鬼子だ。

鬼神となった鬼子は体力の消耗が大きい。

一刻も早く止める為に、鬼子は刀に力を集める。

驚く六腕鬼を横目に、燃え盛る炎の刃が、一瞬にして数十メートルほどに巨大化した。

「地に還れ!悪鬼ども!!」

鬼子は空中に跳び跳ねて一回転する事で、六腕鬼を含む悪鬼軍団をまとめて切り裂いた!跳び跳ねたので山の木々には掠りもしなかった。

遥か先の空を飛んでいた悪鬼たちは燃えながら次々に落ちていく。遠くから見ればまるで流星のようだった。


「ぎゃあああああ!!」

六腕鬼も、六本の腕をバタつかせながら仰向けに倒れ、しばらく地獄の炎に苦しんだ後、意識を失った。

炎は消え、赤い体の随所に真っ黒な焦げ目ができていた。


膝をつく鬼子から抜けていく鬼神の力。まだまだ修行が必要なようだった。

空を見上げると、もう飛んでいる悪鬼は見当たらない。何とか一人で退けたのだ。

森の中で、仰向けに倒れて体を休める。


…と、安心しきっていたその時。



遠くから、爆発音が響いた。

驚いて立ち上がる鬼子。周囲を見渡すが、山には変わった様子がない。

木と木の隙間から遥か先を見通してみると…。


「あれは…」

悪鬼たちが落ちた地点に、桃色の異様な煙があがっていた。落とした悪鬼たち全てを巻き込む程の爆発が。

嫌な予感がして、六腕鬼の方を見た。


「…お前!」

そこに立っていたのは、六腕鬼の脇に腕を通して立っている、道化師の格好をした男だった。またもやリューガの襲撃だ。

鎌を向ける鬼子。リューガは戦いに来た訳ではないらしく、一切構えない。


ただ、殺しに来てはいるらしい。

「そんな怖い顔すんなよ」

感情のない声と共に左の手の平を六腕鬼に向け、何の術をかけた。

同時に、さっきまで気絶していた六腕鬼が目を覚ます。

「…ん?こ、ここは…ぐあっ!!」

六腕鬼に強烈な痛みが走る。


見ると、リューガの手刀が首に突き刺さっていた。

細い腕に込められた力は、六腕鬼の分厚い首を易々と突き抜け、かすれた声を出させ…。


六腕鬼は動かなくなる。

殺す際に、わざわざ意識を取り戻させたのだ。

あまりの出来事に、鬼子は助ける事ができなかった。

リューガは、血濡れの手刀を見つめながら笑った。

「さあ、俺はもう帰るぜ」

困惑のあまり絶句する鬼子をまた嘲笑いながら、リューガは手を振りながら姿を霧のように消していった。



「リューガ…」

拳を握る鬼子。

新たな墓標が必要なようだった。



全てが、罰悪修羅の思惑通りに動いているとも知らず、鬼子は山を下るのだった。

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