罰悪修羅
悪鬼が増えてきた事で、鬼子はまたテクニカルシティにしばらく留まる事になった。
相方の火竜は他の街で悪鬼大量発生の調査をしている。
「いらっしゃい鬼子!」
鬼子は、れなたちの事務所に遊びに来ていた。
木製の良い香りと共に、葵が笑顔で出迎えた。
相変わらず礼儀正しい鬼子はゆっくりとお辞儀する。
「鬼子ぉぉぉぉぉ!!!」
事務所の奥からがに股で走ってくるれな。
親しき仲にも礼儀あり…それを知る者と知らぬ者の差が展開された。
それはそうとして、鬼子はある書物を持っていた。
薄汚れている小さな緑の本だ。鬼子はテーブルに向かって歩きながら本を開き、説明を始めた。
「今から五万年前、勇者エメラルドに倒された一人の悪鬼がいたわ。その名は罰悪修羅」
エメラルドの名で、れなたちは一気に聞き入りだした。れなの視線は、事務所の奥にあるエメラルドの欠片を保管している倉庫に向いていた。
「私たちがかつて戦った七大悪鬼をも上回る、まさに最強の悪鬼よ。その力は悪鬼の創造主たるシンをも越えるのだとか…」
七大悪鬼とはかつてれなたちが戦った、傲慢をはじめとした七つの罪を司る悪鬼たち。
どいつもその力には苦戦させられた。そして、その創造主である邪神シンにも。
あの時の忌まわしい記憶を甦らせている鬼子の声は辛そうに震えていた。
「…罰悪修羅は強すぎたわ。エメラルドも完全に倒せた訳ではなく、地球の奥底に封印するので精一杯だった」
人工の唾を飲むれなと葵。
「…そして、その罰悪修羅が甦る時、悪鬼たちの活動が活発になると言われているの」
「それってつまり…!?」
れなの言葉に、鬼子は静かに頷く。
リューガだけでなく、悪鬼まで…。
更にこの状況で忘れてはならない存在がいる。
闇姫だ。
この状況を利用し、何をしでかすか分からない。
罰悪修羅、そして悪鬼という力を中心とし、恐らくリューガ、闇姫というトリックスターが巡る事になるだろう。
そしてその全てに立ち向かうのは自分達…。
「…不安になる事はないわ。戦力なら増やせる。エメラルドを復活させればね!!」
鬼子は、懐から何かを取り出す。
それは、黄緑色の四角い機械だった。赤と黄色のボタンと、黒い小さな画面がついている。
見た事のない機械に、れなと葵はお互いの頬が触れあう程に機械に顔を近づけた。
「これは、エメラルドを探すレーダー、エメサーチよ!私が開発したの!」
「ええええええ!!?」
驚いた二人はひっくり返った。
鬼子がこんなハイテクな技術を持っていたとは。ただ悪鬼を狩るだけの女ではなかったのだ。
鬼子から渡されたエメサーチ。どこを見てもかなり作り込まれているようだった。
早速機能を試してみようと、れなはエメサーチのボタンを何も考えずに押してみた。
モニターに緑の心電図が表示される。何か変なものを押したのかと、れなは派手にバク転して驚きを全身で示していた。
鬼子は違う意味で驚く。
「この振動は…近くにエメラルドの欠片があるみたいよ!!」
いきなり発明の成果が出る事になった鬼子は嬉しそうだった。先程の罰悪修羅の恐怖はどこへやら。
心電図は更に激しさを増していき、ついに折れ線が画面の上下に届く程の長さとなる。
「ん?これって…」
何か嫌な予感がした。
直後、事務所の壁が派手にぶち破られる!!
あまりに突然の出来事に、れなたちは震えながら尻餅をついていた。
瓦礫が飛び散り、事務所の天井から砂埃が舞い落ちる。
その砂埃は、立っていた怪人を彩る花吹雪と化していた。
そいつは、両手がエメラルド色に輝き、鷹のような顔を持つ勇ましい風貌の怪人だった。
身には鷹の羽毛のような茶色のフードを羽織り、まさしく鷹の怪人。エメラルド色の爪だけが異様だった。
「俺は闇姫軍偵察部隊の一人、タカクロア。お前たちのそのレーダーを渡してもらうぞ」
タカクロアは、はじめから話し合いの意思などないらしく、こちらに突っ込んで爪を振り下ろしてくる!
床を突き抜ける爪。その衝撃で、テーブルがひっくり返る。
「ちょ、何すんねん!!」
れなはタカクロアの左手を掴み、そのまま窓目掛けて投げつける!
派手に割れる窓ガラス。日光を反射し、れなたちの目の前で激しく点滅する。
事務所から外へ引きずり出されたタカクロアは、頭を右手で抱えながら立ち上がる。足元に散らばったガラス片。
地面に落ちたレーダーの反応が強くなっている。
どうやらタカクロアからのようだ。
「あいつ…エメラルドの欠片を爪として使ってるんだわ」
勇者の魂を武器に使うとは何たる無礼者だろうか。許しておけぬとれなは拳を向ける。
あの爪を根っこからへし折ってやるのだ。タカクロアも自信満々で爪を向けて挑発した。
「うおおおおお!!!」
れなは地を蹴って接近し、爪に拳を振り下ろそうとした!
タカクロアはその単調な動きを読み、両手を広げて空を飛ぶ!
れなの隙を突き、その顔に足の鋭い爪を振り下ろし、更なる追撃に爪で切り裂く!
斬撃の勢いで吹っ飛び、空中で何とか静止する。その顔には、鋭い爪による白い傷がついていた。
「アンドロイド相手に負けるタカクロア様ではないわ!」
タカクロアは目にも止まらぬ速度で爪を振り回し、れなはその一つ一つに拳を叩きつける事で攻撃を防ぐ。
エメラルドの欠片がこの強さに影響しているのだと思われるが、それを使いこなせるタカクロアの技術も相当なもの。偵察部隊という割にはかなりの腕だ。
レーダーが激しい音をたて、心電図をより激しく鳴らし始めた。
「エメラルドの欠片が強い魔力でより強力なエネルギーを放ってる!レーダーが危険を知らせてるわ!」
レーダーは強い魔力を察知し、何かが起こると警告しているようだ。
タカクロアの爪のエメラルドの欠片は、より目映い光を放っていた。
「まずい!!」
れなは距離を離す。タカクロアは笑いながら爪を構えた。
「よく察知できたな…だがこれで終わりだ!!」
タカクロアが爪を振り上げると同時に、巨大なブーメラン型のエネルギー波が事務所目掛けて放たれる!
大地を引き裂くように突撃、周囲に瓦礫を飛び散らせ、こちらにまっすぐ向かってくる!
「やばい!!」
れな、葵、鬼子がエネルギー波を受け止める!
両手からエネルギーを射出しつつ受け止めた事で何とか止められたものの、両腕に凄まじい負担がかかる。
このままエネルギーが切れれば事務所ごと自分達は真っ二つだ。
「うおああああああ!!」
エメラルド色の光に包まれながら、三人は全身全霊の力を込め、エネルギー波に力を集中する。
エネルギー波は少しずつ動きだし、空気中に紛れるエメラルド色の魔力もタカクロアのもとへ飛んでくる。
自らが放った光に徐々に飲み込まれていくタカクロア。
「おっ…!?」
つり上がった目を丸く見開き、開いた口からは赤い舌がちらついている。
「とりゃああああ!!!」
三人の叫びと共に、エネルギーが一気に押し返され、タカクロアの全身に叩きつけられた!!
叫ぶ間なく、爆発に巻き込まれるタカクロア。
周囲にエメラルド色の輪のように変形したエネルギーが飛び散り、タカクロアの爪も分解されるように砕け散った…!
あとには、仰向けに倒れて失神しているタカクロアと、彼を囲むように散らばったエメラルドの破片。
三人は破片を拾い上げ、この破片が伝説の勇者の魂の欠片なのだと改めて実感した。
レーダーの心電図は、落ち着いていた。
「…それにしても」
れなは、破片を目にして何かを考えた。
「エメラルドの欠片って…どんだけあんねん!!?」
これからどれくらいの欠片を集めなくてはならないのだろうか…。




