名無しの魔王
ふと、れみは気がついた。
姉が戻ってきた事、あっちの世界の事、リューガの事で忘れていた事に。
「名無しの魔王…」
そもそもリューガを知るきっかけとなった人物…名無しの魔王である。彼の正体は勇者エメラルドの弟、勇者アメジスト。
兄が優秀過ぎたが故に功績が出せず、結果魔王の力を追い求めた男。
あれから彼はテクニカルシティの特別研究所に送られたという。あの戦いが終わってから数日後に聞いた話だ。
彼に話を聞けば、何か分かるかもしれない…。特別研究所は機密施設だが、研究者に作られたれみは場所を知っていた。
「…これは、聞きに行くしかないっしょ!」
という事で、れみは町の目立たない隅っこにひっそりと建てられている特別研究所へ向かった。
窓から覗いてみると、やはり相当大切な物を研究しているようだった。無数の書物で埋め尽くされた床がここからでも見える。
れみは歯を食い縛りながらより飛行速度を高め、研究所の窓に向かって突っ込んでいく!
研究所の窓を豪快に突き破り、弁償も考えずにドヤ顔をかます。窓ガラスの破片が、周囲に飛び散った。
周囲を見渡すと、そこは何かの資料室なのか無数の本棚が並んでいる。薄暗い雰囲気はまるで閉館後の図書館だ。
だが、やはりと言うかれみは全くの興味なしで普通に部屋から出て、先に進んでいく。
部屋の奥にあったドアの向こうには、白い大きな部屋があった。
無数の用途不明の謎の機械に、エネルギーを流してると思われる太いパイプが張り巡らされ、天井まで機械やパイプでびっしりと埋め尽くされていた。
奇妙な構造の部屋の真ん中にあったのは…。
「あっ!!」
巨大なガラス張りカプセルの中に、紫色の三メートルほどの巨人…名無しの魔王が、青い液体に浸かされていた。刺々しい体はれみとの戦いで負傷し、所々破損している。
「こ、こんな所に…」
そして、魔王を見つけたのと同時に…。
「何者だ!!」
ドアが勢いよく開かれ、銃を持った警備員たちがれみに向かっていき、銃口を向ける!
驚いて跳ね上がり、天井に頭をぶつけ、両手をあげるれみ。
「ん?何だ子供じゃないか…こんな所で、何をしてるんだ?」
子供扱いされた事には腹がたったが、れみは素直に謝りつつ、名無しの魔王を見たかったと伝えた。
「…なるほど。少し説明してやるか」
警備員のリーダーと思われるサングラスの男が、両手を腰元で繋ぎながら、名無しの魔王を見上げた。
「我々は避難していたので見れなかったのだが…町で暴れていたこいつを何者かが倒してくれてね。失神していたところで、我々がこうして保存しているのだ」
倒してくれたその人物がすぐ後ろにいるのにも気づかず、警備員は話してくれた。
名無しの魔王には、あの目玉の形をした巨大な宝石がついているのだが、あの戦いでナスビに力を奪われて以来、ついていなかった。
魔王自身の話によれば、あの宝石こそが、彼を変貌させた原因なのだが…。
もうここにいても仕方ない。
れみは肩の力を抜き、その日は大人しく帰っていった。




