ソフトクリームマルマン
テクニカルシティには毎月色々な移動施設がやってくる。街の雰囲気をより明るくする為の小さな祭りのような感じだ。
今日やって来たのはソフトクリーム屋。いつも室温の低い店がやって来る事から、ついたあだ名は「歩く冷蔵庫」。
はじめは店のソフトクリームを食べた客たちが言い出した名前だったが、店主もこの名前を気に入っていたらしく、いつしか店の名前が本当に歩く冷蔵庫に変わってしまい、更には店の外見まで冷蔵庫のような見た目に変わっていた。
今の子供たちは冷蔵庫のような奇妙なフォルムに喜び、昔からその店を見てきた大人たちは時代が変わった事を改めて確信する。
「わーーいソフトだー!」
れなとドクロもソフトクリームの虜の一人。この秋の季節だからこそ、ヒンヤリした感触を味わいたくなってくるのだ。
ソフトクリーム屋は公園でその独特な店を構えていた。真っ白で長い鰻のような体を持つモンスターの店主が、魚のヒレのような両手にソフトクリームを持って宣伝していた。
「ソフトクリーム!!ソフトクリーム!!」
…宣伝というか、この店主はソフトクリームとしか喋れない為、ひたすら商品名を叫び続けてるだけだが。
それでも沢山の人々が寄り付き、次々に小銭をだしていく。百円という手頃な値段、そして簡素な宣伝に心を引かれる人が多いんだとか。
れなたちも大事なお小遣いを持って列に並ぶ。
「やったーー!!」
数分後は、ヒンヤリと甘く、そして柔らかそうなソフトクリームを手にした二人が両手をあげながら走っていく光景が広がっていた。子供も驚くレベルだった。
ここでれなは、彼女オリジナルの狂気のトッピングを思い付く。
「そうだ!これぶっ刺そう!」
スカートに手を突っ込み、勢いのままに取り出した物…それは良い感じに焼き焦がれた柳葉魚だった。
ドクロは、嫌な予感がした。
(ま、まさか…)
そのまさか。
れなは、柳葉魚をソフトクリーム目掛けてナイフの如く突きだす!!
その時!
「そんな物刺すなー!!」
どこからか、気高い怒鳴り声が響く。
驚いた二人が声がした下を見下ろすと…。
れなの手に持っていたソフトクリームがあった。それは、ただのソフトクリームではない。
顔がついていたのだ。
黒一色の小さな目を持つしかめっ面のソフトクリームだった。
これにはさすがのれなも仰天し、急いで投げ飛ばした!
ソフトクリームは住宅地の壁に突っ込み、ベチャリという音と共にのめり込む。
ゆっくりずり落ち、地面に落ちたソフトクリーム。しばらく目を回していたが、目を覚まし、空中に浮かび上がる。
その顔は、自身も溶けんばかりの怒りに満ちていた。
「オイラはソフトクリームマルマン!いいからオイラを食べろ!」
やたら長い名前である為、ここからはソフトクリームに省略させていただく。
突然ソフトクリームが喋ったり奇怪な発言をしたり…この世界は不思議だ。
れなはソフトクリームからできるだけ距離を離しつつハッキリ答えた。
「やだ」
ソフトクリームはショックを受けたのか、全身のクリームが逆立つように長くなっていた。コーンの体は今にも崩落してしまいそうだ。
ショックを受けた勢いのままに地面に落っこち、直撃、クリームの体は潰れて地面にめり込んでいた。
「なんだよー…何で誰も食ってくれないんだ」
冷たい声でそう発しながら起き上がると、れなとドクロに背を向けて飛行する。
「…」
わざと悲しい感じを醸し出し、二人に引き留めさせようとしていたのだ。
しかし…中々声がかからない。悲しい表情を一瞬崩してソフトクリームは振り返る。
「…!」
そこには、背を向けて普通に去っていく二人の姿があった。
「ちょっと待てええええ!!」
立ち去っていくれなたちの横からしつこく要求してくるソフトクリーム。
「オイラを食えオイラを食ええええ!!」
「うるさいわこの変態!!!」
ドクロがついに手を出した。
平手打ち…というよりビンタをもろに浴びたソフトクリームは住宅街の家々を飛び越えて吹き飛び、強風に煽られるままに飛ばされていくうちに体のクリームも吹き飛んでしまいそうになっていた。
「くおおああああ!!ソフトォォォォォ!!」
よく分からない叫び声をあげながら、流れに身を任せてぶっとんでいく。
「さ、行くわよ」
何事もなかったかのように本物のソフトクリームを舐めるドクロ。ついでとばかりにビンタの際に片手についたソフトクリームも舐める…なんて事はせず、適当に振り払っていた。
れなはあんな人面ソフトにあたった自分の不運を呪った。
ビンタしてから十分後…。
「とぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
ソフトクリームは、まだ吹き飛ばされていた。
テクニカルシティもとっくに越え、森を越え、遠くにある雪山まで飛ばされてしまったソフトクリーム。
雪山にぶつかったのはドクロの慈悲ではなく、全くの偶然である。
吹雪が吹き荒れる雪山のなか、ソフトクリームは孤独に起き上がる。
周囲を見渡すとそこは一面の吹雪の嵐。数センチほどの雪たちは無数に集まり、天の光を塞いでいる。
寒さにも負けず、自分の体を焼き尽くさんばかりの怒りを燃やすソフトクリーム。なぜソフトクリームである自分を食べてくれないのか、なぜ食べ物である自分を叩くのか!
「ちっくしょー!!!」
ソフトクリームの叫びは、雪と雪の間をすり抜けて、真っ白な夜空へと消えていった…。
「ソフ。ソフ、ソフ…」
おかしな泣き声をあげながら冷たい雪の地面に顔を埋めるソフトクリーム。
ソフトクリーム故に、人に舐められ、食べられる事が自身の使命だと感じているソフトクリームにとって、誰にも食べられない事は自分の存在を否定されてるも同然なのだ。
「お?こんなところにソフトクリームがあるどぉ…」
低い声がした。
見上げてみると、そこには全身が白い体毛に覆われ、口からはヨダレを垂らした巨漢…雪男が。
雪男はその豪腕でソフトクリームを掴み上げ、大口を開ける。
「ぎゃああああああ助けてえええええ!!」
心変わりが早いのは人もソフトクリームも同じ。
さっきまであんなにも食べられたいと願っていたソフトクリームが、今や食べられたくないと心から叫び続けている。体を左右に揺すりまくり、何とか手から脱出。
地面に落ちたソフトクリームはたまらず跳ねながら逃げていく。
雪男が追いかけてきたが、雪の上では小さなソフトクリームの方が早かった。
あっという間に距離を離し、激しく息を切らす。
「はあはあ…雪でも食ってろ…!」
同時に、ソフトクリームは何かの感触に気づく。雪の中でも、特別に冷たい何かにぶつかったのだ。
上を見上げると…。
水色の瞳に水色の帽子、水色の服…。
赤いマフラーに黒い長靴。厚着の少女が、こちらを不思議そうに見下ろしていた。
彼女はここに住む氷の悪魔、パリアだった。
パリアはソフトクリームを雪男とはまた違った素早く豪快さな勢いで掴み上げる。
「おお…!」
パリアは顔の前にソフトクリームを運んでいき、まっすぐ見つめてくる。顔面には気づいていない。
とうとう、ソフトクリームの念願の瞬間が来たのだ。
(おお…!!これでオイラは…!ようやく…!)
口を開けるパリアが、近づいてくる。舐めるのではなく、がっつくタイプなのだ。
(オイラは役目を果たす事ができるのだぁぁぁ!!)
叫びたい気持ちを必死に抑えつつ、ソフトクリームは震えた。
そして、パリアのヒンヤリとした口が、ソフトクリームの体の半分を包み込む。
「ぐへえ!!まずいいい!!」
え、と白い顔を更に白くするソフトクリーム。気づけば投げられていた。
パリアは一目散に逃げていく…。
あれだけ落ちたり飛ばされたりしたソフトクリームだ。質が落ちてて当然だろう。
「…くそおおおおーー!!!ソフトォォォォォォォ!!!!」
彼はいつまで叫び続ける事になるのだろうか…。




