釣り上げろ!ドロマミレ
テクニカルシティのすぐ近くにある大きな湖。
都市開発が進むテクニカルシティだが、周囲の自然を考慮して隣森に一切影響を出していないように、こういった湖にも都市開発の影響を出していない。
湖の水はとてもきれいで、実に多くの魚が存在していた。
一匹くらい新種がいても気づかれないのではないかと言われていたが、実は実際に密かに新種がみつかっていたりする。
その事実は、れなたちは物知りな博士からよく知らされていた。
だがこの姉妹にそんな事を教えてしまってはならないのだ…。
「新種釣りにいくぞー!」
案の定、れなとれみの姉妹は興味のまま、無謀にもその湖へ釣りに行く事になってしまった。
いつもの森を抜け、少し歩いた先にその湖はあった。
「わあ…」
黄緑の美しい草原の先にあったその湖は、海と見間違えるほどにきらびやかだった。
まだ湖から離れた位置から見ているのだが、既に魚の影がいくつか見えている。
こんな場所に釣糸を垂らせば一体どれだけの魚が食いついてくるだろう。
二人は用意してきた釣竿を出して準備万端。
湖に近づくと、更にその煌めきがよく分かった。
透明な水の中には沢山の魚が泳いでおり、思い思いに過ごしてるようだった。
社会の荒波に飲まれるテクニカルシティの人々とは大違い。自然に身を任せ、自由に過ごす魚たちの姿は平和そのもの。
「さあ釣るぞ!」
二人は釣竿の先に桃色の魚のルアーを装着し、湖に垂らす。
魚達は早速反応し始めており、ルアーに一点集中するかのように近づいてくる。いつでも竿をあげられるよう、じっと構えて待ち続ける二人。
だがこれが忍耐力がいる。
魚は意外に用心深いのか中々ルアーに食いつこうとしない。
早速れみは苛立ち始め、竿を持つ手が震えだしていた。
「さっさと…さっさと…しろおおおお」
人を呪うような目でたかが一匹の小魚に怒るれみの姿は滑稽だった。
「やった!釣れた!」
歓喜に満ちた声に反応し、短いツインテールを振り乱すれみ。横を見ると、既にれなが一匹緑色の魚を釣り上げていた。
これは負けるものかとれみはルアーをリアルな魚のように動かしてみた。
それでも魚達の動きは一向に変わらない。それどころか段々離れていき、明らかにルアーに不信感を持っている。
れみはヤケになり、釣竿をぶんぶん振り回し出した。
水面に幾つもの波紋が発生し、れながいる所の魚達まで逃げ出してしまう始末。
「あ、ざけんなれみ!!」
「るっせえええ!!」
平和な湖で、ギャーギャーと喧嘩を始める二人。
これではますます魚は寄ってこないというのに…。
しばらく喧嘩し続け、疲れ果てた二人はある噂話を思い出していた。
「ねえお姉ちゃん知ってる?この湖には巨大魚が住んでるって噂」
何でもそれは大昔テクニカルシティの釣り人が偶然発見したという、小島のような大きさの巨大魚。
この湖に住むにはあまりに大きすぎる巨大魚であり、研究しようにも持ち運ぶ事ができず、研究者たちが泣く泣く諦めたという伝説の魚だという。
こんな話を聞いて興奮しない訳がない。
「ねえ、その魚見つければ私達人気者になれるんじゃない?」
こんな事から、二人はまた釣りを再開した。
それから一時間は湖で過ごしただろうか。
あれからはれみの竿にもそこそこな魚がかかって、持ってきたバケツも魚で一杯になろうとしていた。
「そろそろ魚を湖に返さないと溢れちゃう」
二人は中々釣れない巨大魚の姿を想像しながらバケツを持ち上げ、魚を湖に逃がす。
再び空になったバケツ。
巨大魚はこんなバケツよりもずっとずっと大きいのだろう。
二人の期待は大きくなるばかり。このまま釣れるまで諦めないと、再び竿を垂らし始めた。
それから何時間も日の光のもとで過ごし続けた。二人が人間であれば暑さでダウンしているところだろう。
釣りのコツが掴めてきたのか、少しずつ魚がかかる頻度が高くなっていく。
何回か巨大魚かと思うほどの引きが来る事もあったが、それらは全て少し大きめ程度の魚ばかり。はじめは興奮していたが、段々釣れる魚が固定されていくようになり、そろそろ飽きが来ていた。
釣り人ならもっと忍耐力があるのだが、やはり釣り初心者の二人ではこの程度。
逆にこれくらい耐え凌ぎ、これくらい釣れば結構上出来な方である。
二人の目的は巨大魚であった為、どちらにせよ残念な思いはあったのだが…。
「結局釣れなかったかー…」
薄汚れた服と釣竿が、今日一日の全てを物語っていた。
夕日のぼんやりした光が地上を照らし出す。帰る時間だ。
夕日を映し出し、より美しく輝く湖を背に、二人は何だかんだ楽しめた事を語り合いながら帰っていった。
…二人が気づく日は来るのだろうか。
この湖の真相に。
湖の底の土が、僅かに動いている。まるで生物が呼吸しているかのように…。
そう。この湖の土全てが、巨大魚の体なのだ。
巨大魚の正体は、湖そのものに成り済まして土の代わりとなって他の魚を育む巨大魚、「ドロマミレ」だった。
湖の土…すなわちドロマミレの背中は、二人を嘲笑うかのようにより動きが荒くなっていた。




